第4話

 家に帰った俺は、自室のベッドに座り、さっそく腕時計が入ったケースを開ける。


「えっと……」


 まずは行きたい年をツマミで調整して──あとは12時の上にあるボタンを押すだけ……緊張するな。


 俺はゴクッと唾を飲み込み、目をギュッと瞑ると──ボタンを押した。目を瞑ったままなので、周りがどうなったのか分からない。アニメの様に音がする訳でもない。


 ──妙に静かだ。俺は思い切って目を開けてみる。俺は見慣れた廊下に佇んでいた。


「嘘だろ……」


 どう見ても母校の廊下だ。視線を自分の体に向けると、俺はいつの間にか高校の制服を着ていた。


 ──腕時計は? 左手首を確認してみると、腕時計は無くなっていた。じゃあ夢? 俺は自分の太ももをつねってみる──痛ッ。これだけ痛ければ夢じゃないよな。


 じゃあ……店主の言う通り、これはタイムリープ出来る時計で、成功したって事か!?


「恭介、おはよう。中に入らないの?」と、男友達が声を掛けてくる。俺は「あ、おはよう。いや、入るよ」と返事をして教室に入った。


 教室は相変わらずガヤガヤと騒がしく、「今日の席替え楽しみだなぁー」と、席替えの話題で盛り上がっていた。


 席替え! え、いつの席替えだ!? 腕時計は年を選べても、月日や時刻は選べなかった。もし今日が俺の望んでいた日なら、超ラッキーだ。


 俺は急いで制服のズボンから携帯を取り出すと、確認してみる──信じられない。今日は明美と隣になる日だ。


 ※※※


 ホームルームが始まり、席替えが始まる──俺は……見事、過去と同じ席を引き当てる事が出来た。


 あとは明美が隣に来るのを待つだけだ──いや、待てよ。ここまで順調に過去と一緒になったけど、本当にそうなるとは限らない。


 俺は前とは違うドキドキを感じながら見守った──しばらくして明美がこちらに向かって歩いてくる。隣の席の椅子をひくと、髪の毛を耳に掛けながら座った。


 明美はこちらに顔を向け、ニコッと微笑むと「また一緒になったね」と声を掛けてくる。


 俺は一瞬、ドキッ! と胸を高鳴らせた。また一緒って……当然、中学の時の話だよな?びっくりしたぜ。


 俺は顔が火照ってる気がして、横に居る明美に顔が見えないように、両手で顔を覆う──にしても、明美のやつ……なんて可愛い笑顔しやがるんだ。あ~……もう。また恋をしちまいそうだぜ。


 ※※※


 授業が終わり休み時間に入る──俺は過去の時の様に、うつ伏せになり寝ているふりをした。


 ──あの日の通り隣から「明美、恭介君の隣だったの?」と、弥生の声が聞こえてくる。


「うん」

「中学の時も隣になってたし、羨ましいな……」

 

 あの時は明美に夢中だったから、聞き流していたけど……弥生、どういう意図で言ったんだろ? いま直ぐ起きて、聞いてみたいけど、盗み聞きしていた様で、嫌だな。


 ──いいや、チャンスはまだある。次のタイミングで聞いてみよう。


  ※※※


 放課後になり、俺は靴を履き替え、昇降口を出た──俺は目の前を歩く明美と、たかしを見つけて、立ち止まる。


「──どうしたの?」と、後ろから弥生の声が聞こえ、俺はチラッと視線を向ける。弥生だと確認すると、あの時の様に「いや……あの二人、昔から仲が良いなって思って」と答えた。


 明美が隆を好きなのは、もう知っている。これは次の弥生の言葉を引き出す為のセリフ……さて、どう出る?


 弥生は黙り込んだまま、横に並んだ──。


「そうかな? 私は恭介君の方が仲良いと思うよ」と、弥生さんはこちらを見ることなく、二人を見つめながら言って、続けて「羨ましいと思うぐらいね……」と、上手く聞こえないぐらいボソッと言った。


 よし、聞くぞ……俺は深呼吸をすると「それってさ……他の男の子と話す明美ちゃんが羨ましいって意味? それとも、その……俺だから?」


 相変わらず男らしくない遠回しの言い方だったが、弥生には意図が通じたようで、「え!」と、弥生はビックリしながら、こちらに顔を向ける。


 弥生は落ち着かない様子で髪を撫でながら「──えっと……私、そんなに男子と話せない程、人見知りじゃないと思うよ? じゃ、じゃあ帰るね」と言って、顔を赤くして行ってしまった。


 男子と話せない程、人見知りじゃないって……つまり俺だから羨ましいと思ってくれていたって事で良いんだよな!?


 うおぉ……ますます弥生に興味が湧いてきた。


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