連絡先交換しない?

近くで女の子の話し声が聞こえたので窓から外の様子を眺めてみた。

今日投下されたのは草原地帯の中に建てられたロッジのような一軒家らしい。

敵の女性アバターは2人。中身が伴っているのかはたまた可愛い女の子の皮をかぶったゲーマーのおっさんなのかは知らないが、こっちが言葉をわかっていないだろうと大声で作戦会議をしている。


「私がドアを開けたら一気に打ち込んでせん滅して。」

「了解。手前が片付いたらさっき拾ったダイナマイト投げるからすぐに走って後退して安全圏に逃げる。」

「中の様子は?」

「うーん、なんかいっぱいいそうだよー。え、ちょっと待っていまなんか目合った気する。まじきもいんだけど。こわ。」

「なんかうつったんじゃない?きたなーい。」


うるせえな。誰がきもいって?汚くねえよ。さっきちゃんと風呂入ったわ。血ついてんのはデフォルトだから洗ってもとれねえんだ馬鹿。

可愛いかどうか拝んでから仕掛けてやろうと思ったが、やめだやめだ。先入観で話するようなやつの顔がどうあれ中身がブスじゃ意味ねえよ。


女性アバターの立っているであろう位置に両手で拳銃を向ける。

ドアが開いたまさにその瞬間、思い金属音が2回響く

ドア付近に上がっていたのは赤い煙。そう、俺が勝ったのだ。

作戦が筒抜けなのだからこんなに楽な試合はない。それに瞬発力、近距離攻撃力は身体能力に恵まれているゾンビのほうが格段に上なのだからどうして負けることがあろうか。

さらに言えば、レベルが上がったことでスコープ機能にすら引けをとらない視力も手に入れたのだから至高の屍とでも呼んでもらおうか。


「で、見てた?」

俺は後ろにうようよひしめくゾンビに振り返って問いかけた。

常に首が座ってないから「ううん」なのか「うん」なのかわかりにくいが都合よく「うん」ととらえることにする。

赤い煙が消えないうちに彼女たちの持っていた武器を回収し女の子ゾンビのひとりに渡す。


「これはわりと初心者でも扱いやすいやつだから。ここに指ひっかけて、トリガー引くだけ。いい?狙うのは得意だと思うから腕がぶれないように箱とか使って支えにして固定すること。」

女の子の手に拳銃を手渡す

「指・・・そう、いや、そこじゃなくて、いや、だから、違う。えーっと、腕触りますよ?」

俺は打ち方を教えるというていで女の子の腕に触れる。血のついた部分はねっとりしているがそれ以外は絹のように滑らかな触感だ。

細く、筋張った腕は少し力を入れれば折れそうなほど弱弱しく、それが男をさらにかきたてる。


おお、これが女の子の指か。可愛らしいおててで、あんなとこやこんなとこ触られたらそりゃ吹き出すもんも吹き出しますわな。

って、いかんいかん。そうなれるようにまずは親密になるところからだ。

手触ったぐらいでこんな動悸・気つけ・求心してたら身が持たねえぞ。


「構えて。そう、頭か胸に当たるようにもっと背筋伸ばして弾口を上げる。」

伸ばした腕に挟まれた張りの良い果物がきゅっとせりあがるのも見てるだけで俺は3回ぐらい突き抜けられそうだ。

焦るな俺。慣れて、もっと余裕のある男になるんだろ。羨ましがって見てるだけはもうやめるんだ。きちんと自分の手で成功を掴める男になる。


そこへちょうど不用心に走っているアバターを見つけた。

「あいつ、狙って。まだだよ、もうちょっと、今だ。撃て!」

負傷くらいになるかと思ったが当たり所が良かったらしいアバターはすぐに赤い煙となった。

「ね、できたでしょ。」

女の子のゾンビは銃を大事そうに胸の中に抱え込み笑みを浮かべていた。

これまでやられるだけだった自分たちにも勝利の光はあるのだと喜び舞っているかのようにみえる

なんだお前らも悔しかったんだな

ただやられるだけのために作られて、人間に突っ込んでいくだけの役目

そりゃあ目もうつろになるし何にも話さなくもなるわな

喜びが宿せるのであれば、俺は唯一こちら側にログインさせられた側としてお前たちを仲間にし勝たせてやりたい


俺は、いや、俺たちは戦果をあげるとともに武器を回収しひとりひとりに武器の使い方を教えていった。

パーソナルスキルによってなのかそれぞれに扱える武器も違うらしい。ならば策は無限に立てられるのだから勝利は必然といっても過言ではない状況だ。


ある日の戦い終わりに女の子ゾンビが銃弾を拾って俺のほうに寄ってきた

「う。」

「うん?拾ったの?これはお前銃の型だぞ。きちんとしまっとけよ。」

「うーう。」

女の子ゾンビは手のひらに銃弾をのせたままそれを下げようとしない。

「なに?手持ちいっぱい、でもなさそうだけど。」

「うー。」

「くれ、るの?」

女の子ゾンビはかたかた首を揺らす

「俺に?」

「あー。」

女の子からプレゼントとかもらったことないんだけど、どうしよう。

「ありがとう、ござい、ます。」

女の子のゾンビは顔をほころばせて満足気だ

この笑顔が俺なんかに向けられたものであっていいのか?美女と野獣は物語の中の世界であって美女の美しきほほえみは下男が直視してはいけないものだと学校で習わなかったか。


可愛すぎるだろうよ。


あまりの可愛さに俺は買ったばかりのフィギュアをめでるように頭の上に手を伸ばし、プールから上がったばかりであるかのようにめっちょりと頭皮に張り付いている赤黒い髪を撫でていた。


んなっ!!

ちょっとまてーい

何をいきなり急接近しようとしている。しょっぱなに触ろうとして拒否られて学んでなかったのか俺‼

せっかくここまで来たんだ

やっとようやく女の子と話すという第一段目に足をかけたところなのに

なんですっ飛ばして駆け上がろうとしてるんだ

焦りは禁物って手に書いて飲んでおけばよかった


問題は頭に乗せてしまった手はどうしたらいいかわからないことだ

理想は「引き寄せて抱きしめてにゃんにゃんする」だが本能に従えば信頼も関係も地の底へ落ちてもう二度と回復することはないときちんと理解することができる

しかし、しかしだ。少女漫画のイケ彼ではない、キモコミュ障バージョンの対処法は誰も描いてくれていないじゃないか。

いつまでものせとくわけにもいかないし、急に下げるのも違わないか

そのうえ、この後の空気はどうする。へらへら薄笑い浮かべる?いや、思い切って告白?

せっかく女の子の頭リアルガチでなでなでできてるっていうのにさ、なんて情けないんだよ

よし、決めた。言うぞ。きっと今が最高の時だ。


「お礼したいから連絡先教えてよ。」


「うー。」

女の子のゾンビはそっぽを向いて草むらへ消えて行ってしまった。


がくりと膝をついて反省する。

違うか、違うのかよ。じゃあどうやって連絡先を交換するんだよ。

わりとうまい返し方だと思ってたのによ

くっそお。戦闘スキルは着実に上がっているっていうのに

誰か俺に高嶺の花の口説き方を教えてくれよ





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