フル装備ゾンビラブ難儀
紅雪
俺はゾンビ界一のナンパ師になる
ゾンビを撃ち倒していくタイプのシューティングゲームに新しく自分のキャラを作成し意気揚々とログインした。
背にはロングライフル、腰には短銃が二丁。防弾チョキと包帯の類も装備し準備は万端だ。
戦闘の地はランダムで選ばれるらしく今回は廃墟の中だったようで、薄暗いコンクリート建ての3メートル四方ほどの部屋にゾンビがひしめき合っている。
彼らはゾンビゲームらしい雄たけびもあげず彼らはただじっと敵が来るであろう扉のほうを眺めている。
その中で俺は東京の満員電車さながらに自分の体重が誰によって支えられているのかもわからないような状態で、日ごろの癖で冤罪にならぬようにと両手を挙げてしまっているではないか。
いやちょっと待て
なんだか。おかしくないか。
やるのは俺で、やられるのはお前らだ。
何を平和そうに押し合い圧し合いやってるっていうんだ
大量経験値獲得のチャンスだと腰に下げてある短銃に手を伸ばす
その腕の色が濃い緑色でところどころにべっとりと赤黒い液体がついていることに気が付いた
あれ、もしかして、やられるゾンビ側になってしまいましたか
俺はスキルやアイテムを確認した
身体能力が馬鹿高いことに比べ扱える道具は極めて少ない。レベルを上げていきさえすれば問題は解消できるのかもしれないがいまの段階でできることは自らのこぶしと脚力で戦うか短銃を何発か打てる程度だ。しかも命中率はかなり低いときている。スコープも使えないとなると敵を見つけるのに困難を極めることは言うまでもない。
さて、どう戦おうかと考えていたそのとき乱暴に扉が開け放たれライフルを持った人間が4人流れ込んできた。連射型の銃は一発の威力は弱いが大量に当たる分致死率は高い。
扉付近にいたゾンビはなすすべもなく倒れ緑色の煙となって霧散してゆく。しかし、ゾンビたちも負けてはおらず人間の体に牙をむいている。まさに一進一退の攻防戦というやつだ。
俺はゾンビのうちの一匹(ひとりか?)を掴み人間に近づいた、盾代わりにしたつもりだったが撃たれた瞬間緑の霧になっていくのであればそう時間は稼げそうにない。
短銃の射程範囲に入ったと同時トリガーを引く。乾いた音が鳴り響き赤い霧が人間からほとばしる。
まずはひとり。
続けてふたり。
三人目には回し蹴りをお見舞いし倒れたところにゾンビが群がっていくのを確認した。
四人目の顔面に左ストレートを綺麗に決めてチームを完全ノックアウトに導いた。
脳内にファンファーレが鳴り響いた
『経験値があがりました。次のコースに進みますか?』
▶はい
俺は経験値を重ね、着実にレベルを上げていった
しかし、扱える道具は増えるわけではなくただただ身体強化が増すだけのようだ。
まあ、そうだよな。ゾンビのレベルが上がったからっていきなり手りゅう弾なげてくるような奴はいないもんな。
相変わらず初期装備の拳銃を二丁腰に下げて廃墟の中をゾンビらしくのたりのたりと歩く。
ゾンビになってよかったことはめんどくさい人間関係がなくなったことだ。こいつらと意思疎通が取れない分空気を読むこともなく、気兼ねすることもない。
ただ敵が来なければ戦うこともないし、寝なくても、飯食わなくても死なないんだから暇を持て余して仕方ない。
俺は女の子と思われる容姿をしたゾンビの隣に腰を下ろして話しかけた。
「あのー・・・・・・。お姉さん、可愛いですね。俺とご飯でもいきませんか。」
いや、だから飯食わねっての。
俺は返事のないただの屍、ではなく、女の子のゾンビのとなりでため息を漏らした。
「よりどりみどりなんだもん。ナンパぐらいしたいじゃんかさ。この子けっこう可愛いし。普段こんなレべチに話しかける権利なんて持ち合わせてないもん。」
長いまつげにシャープな顔立ち、そしてたわわに実ったふたつの巨峰。薄着でちょっと服が破れたりしてるものだからさらに危なっかしく、いまにもあふれ出しそうだ。
「えっと、触ってもいい?だめ?だよね・・・。嫌?」
首を縦には振らなかったぞ。嫌だとも言わなかったぞ。これは肯定としてもよろしいでしょうか。
「いただきます。」
俺は胸の前で合掌して巨峰に手を伸ばした。初めて触る巨峰の味はいかがなものだろうか。タピオカか、マシュマロか、わたがしか。いかに相手がゾンビといえど俺の胸は高鳴っている。優しく、優しくだぞ、いいか、決して欲望に従ってガツガツするべきではないぞ。ゆっくり包み込むように。高揚と緊張で震える深緑色の手をそっと近づけて・・・・触れた。
「あー。」
女の子ゾンビが低くうなった。
「ご、ごめ、ごめんなさい。」
平手打ちを覚悟したが目の前に星がちらつくことはなかった。反応といえばそれだけでまた静かに前だけを見て座っている。
「人と仲良くするのって難しいんだよね。」
「うー。」
「釣り合ってるとか合ってないとか、一緒にいてつまんないって言われるのやだしって思ったら話しかけるのも億劫でさ、彼女いない歴イコール年齢になっちゃったどころかもうできる希望さえ持ってないよ。町中のいちゃつくカップル見て腹立って、ログインしてさ、ゾンビぶっころしてやるぞっておもってたのにぶっころされる側になっちゃってほんともうどうしよっか。」
俺の照れたようなごまかすような笑い声だけがさみしく響いた
「人間にもゾンビにもなり切れない。何にも踏み出せないで文句ばっかり言ってる普段の俺みたいだ。」
深緑色の腕と使い慣れた拳銃を見ながらつぶやいた
「よし、決めた!俺はゾンビ界一のナンパ師になる。」
勇気をもって話しかけて、仲良くなれる技術を身に着ける。
大丈夫ここなら心配しなくても社会的影響はないし反応が薄い分怖くない
「お前のことは俺が守ってやるからついてこい。」
一度言ってみたかったくっせーセリフ
女の子は感情のこもらないガラスのような瞳のままただ前を見つめていた
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