第15話
その夜のうちに顧恵雲は元の幕舎へと戻された。手足の縛めは解かれ、近習の生命を奪った短刀は返され、幕の前に見張りは立ったが、温かい食事が供されるなど、まるで暗殺未遂
諸将へは、顧恵雲を客人として遇する、と伝えられた。むろん、
当然生かしてはおけぬ。しかも最も苛烈な方法で殺されなければならぬ。そうあるはずの処が如何なる処分も無用と宣せられ、手出しを禁じられたのだ。
陣内の動揺は当然だろう。だが同時に、重臣将軍近習から雑兵小者に至るまで、何処か胸の奥で納得する心もあったのだ。
「
そう言ったのは右都将軍アイグ・イリヒだ。
一刻も早く殺さねばならぬ。若しそれが叶わぬならばせめて、自身は早く殺されねばならぬ。惨たらしい最期を迎えて、その最期を京洛まで轟かせ、帝や丞相や官吏たちに
顧恵雲の焦りを知ってか知らずか、大可汗の警護は格段に厳しくなった。大可汗自身は以前と変わらず、自らの安寧を一顧だにしない。だが周囲が彼を放ってはおかなかった。可汗位の代替わりは殆ど自らの死を意味するに等しい老臣たち、一昨日の失態を二度と繰り返すまいと誓い合う近習たち、それに総ての契泰の将兵たちにとっても大可汗は、命を懸けて守るに値する英主であったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます