第7話
丞相の引き立てあれば、必ず弟の将来は明るい。そのためこの命を捨てろと云うのか。
命を捨てる覚悟ならば
弓馬の術を以て帝に仕うべく訓育を受けてきた身ではある。都の西方に封じられた所領を養い、帝室の
だが忠勤一倒であった兄が勅を得て死を賜ったとき、その磨きぬかれた信念に一点の瑕が入った。
以来三年、都人たちの一家を見る目は変わり、扱いも裏を返した。忠君愛国の璧琅を曇らせた瑕瑾は、月を過ぎ年を
祖国愛の代わりにいま彼の胸に燃えるのは、世間をどうにか懲らしめてやる、一家への仕打ちを悔いさせてやらねば済まさぬ、という昏い情念だ。もはや立身出世抔という甘い夢は見ない。そこへ丞相曹陳は死ねという。死んで不朽の大功を樹てよという。よかろう。死んでやる。敵の大可汗をみごと斬って、最後は
汝が一命を擲ち挙を遂げれば、一族の光輝は再復されるだろう。丞相の言葉が脳裏に蘇る。光輝だと。そんなものは犬にでも
月が隠れた。雲が迅い。
顧恵雲の夜の散歩は、その日を最後に絶えた。
顧恵雲が都を発つ迄にその
現実に目を向けず、和議など思いもよらぬと息巻く帝と、その意を酌むことにのみ長けた陸湛慶一派とを説得して、
顧恵雲は護衛隊の長として、曹陳の推挙で特使一行に加わった。暗殺の計について特使はなにも聞かされていない。
「特使が和議を結んだならば、それもよし」そのときは暗殺は中止だと丞相は言った。顧恵雲の耳に口を寄せ、この企てを知るのは我と汝のみと、低く鋭く注意した。
二重三重に謀を
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