昼~夕方 宿題をやろう

 夏休みは楽しいだけではない。やらなければいけないモノがある。『宿題』だ。学校の宿題は多種多様。国語、算数、英語のドリルの他、絵日記や自由研究や読書感想文などもある。苦手な教科は先生が付きっきりで教えてくれると、大喜びの友達が多い。その一方で。

「ちゃんとやりなさいよ!」

「そうよ。真面目な辺見君を見習って」

「うぜ~」

「先生も何か言ってください!」

「いや、マイペースでやればいいぞ~」

 すぐ飽きて寝っ転がる山嵜を、真面目系女子の堀が小突くと、仲野も同調して先生に助けを求めた。バーベキューで満腹になり眠くなったか、山嵜がスヤスヤ寝息を立てると、みんな思い思いの場所で横になって昼寝を始めた。宿題は、あまり捗っていないようだ。


 午後五時半。バーベキューの残り物を利用して、先生の母親が丼物を作ってくれた。温かいお味噌汁の良い香り。母親がいない僕には、こんな夕食は羨ましい。妬ましい。ああ全てを壊してしまいたい…

「先生の通っていた学校があるんだ」

「土井先生の?」

「そりゃそうさ。先生だって昔は子供だったんだから」

「そうよね」

「そこで花火をやって、肝試しだ!」

 夕食の後は、先生の企画した第二のイベントが始まる。それが『花火』と『肝試し』だった。男子は内心はともかく、強がって楽しみだ、早く行こうと口々に急き立てる。一方で女子は、事前に知らされていたとはいえ、尻込みする子や、泣きそうな子までいる。埜崎と守屋だ。

「学校の水道は使えないぞ~。トイレは済ませておけよ。それと懐中電灯は三つだから…原田と仲野」

「はい」

「はいっ」

「一つずつ渡しておくぞ~。花火セットは埜崎だ」

「はい」

「中にマッチとロウソクも入っているからな~。学校まで二十分、歩いて行くぞ~」

「「 は~い 」」


 道すがら、土井先生は子供時代の思い出話を聞かせてくれた。どこで遊んだとか、どんな悪戯をしたとか。過疎村なので、昔から生徒数は少なかったが、近年は更に子供が減ってしまって、今では先生の母校は使われていないらしい。廃校になって十年以上。ガラスが割れて危ないので、窓が完全に封鎖され、普段は何人なんびとも立ち入る事ができないと言う。でも、土井先生の伝手、地元教育委員会の許可を得て、特別に鍵を預かっているらしい。

「だから今日は特別だぞ~」

 土井先生は、そう言うとニヤリと笑った。


「学校の七不思議?」

「そうだ、みんな知ってるか~?」

「トイレの花子さん!」

「音楽室から聞こえる音」

「骨格標本が動くとか」

「階段ジャンプで追ってくる幽霊」

「階段ジャンプって何?」

「階段の上から踊り場まで、飛び降りて来るんだよ」

「へえ~。初めて聞いた」

「先生の学校にもな、他にはない話があるんだぞ~」

 そう言って、土井先生は話し始めた。おかくれさま。それは教室の隅で体育座りをしながら、誰にも気付かれる事なく、ただジッと見ているんだとか。

「その存在に気付いてしまったら最期だぞ~。友達になってくれると思って、ず~っと追いかけて来るんだ!」

「ィヤぁ!」

「やめてくださいよ、土井先生…」

「はは、すまんすまん。だがな、学校に着いたら気を付けろよ~。おかくれさまが、みんなの様子を見ているかも知れないからな~」


「ウフフ…」

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