第5話
「あ、あ、アーロ……? あなた一体何を……」
「いやはや、君もオリバーも難儀な性格してるよね」
しどろもどろで隠しきれていない私を前にして、アーロはニヤッと口角を上げて笑った。
「お互い好きなら好きって、」
「アーロ!!」
アーロの口から直接的すぎる単語が出てきて、私は焦って彼の口を両手で塞いだ。そのまま周りをキョロキョロと見て、間違って誰かに聞かれていないかを確かめる。
問題なさそうと分かると、私はそっと手を離して、小声で彼を諌めた。
「こんなところで何を言うの。それに私は別にオリバーなんて……」
「好きじゃないのに、婚約の話が出てるの?」
アーロは本気でキョトンとした顔をしている。
だが「婚約」とは、キョトンとした顔で落とすにはあまりにも大きい爆弾だ。
私は落ち着いて、いや、内心は動揺で心臓が飛び出そうだが表向きは平静を装って、アーロに尋ねた。
「…………誰から、それを?」
「俺たちの親がどれだけ仲良しだと? 特に母親同士の会話は筒抜けだよ」
「ああ……」
私とアーロ、そしてオリバーは昔から家族ぐるみの付き合いがあり、とりわけ母親同士はよくお互いの邸宅に招待しあってお茶会をしている。
先日行われた茶会の会場は確かアーロの家だった。アーロはそのとき、お母様たちが会話した内容を聞いてしまったのだろう。
「いやしかし驚いたなあ。まさか君とオリバーの婚約話が出ているなんて」
「ちょっ……。まだ誰にも内緒なのよ? こんなところで話さないで」
「ははっ。ごめんごめん。幼馴染として嬉しくてね」
アーロが言っている婚約の話とは、私がオリバーを好きだという気持ちを両親に伝えたところから始まった。
実を言うと、私への婚約申し込みは初等部の頃からチラホラと出始めていた。
大抵の婚姻は家同士の利益のために結ぶものだが、幸いにもうちは、お金には困っていないし、今後の事業展開などのためにどこかの家と姻戚関係を結びたいという願望もなかった。そのため、両親は「〇〇家から婚約の申し込みが来ている」と教えてはくれるが、それを受けるかどうかは私の意思を尊重すると言ってくれていた。だから私はお言葉に甘えて、まだ婚約を考えるには早いという理由でこれまでの申し込みは全てお断りしてきた。
先日も一件そうして断ったのだが、そのときお母様が、オリバーにもある令嬢との婚約の話が上がっているようだ、と漏らしたのだ。
お母様としては単なる世間話のつもりだったのだろうが、私はそれを聞いてひどく動揺してしまい……。動揺した私を見て勘の鋭いお母様に追及された私は仕方なく、両親にオリバーへの恋心を打ち明けたのだった。
それは別に彼と婚約したいとかいう話ではなく、ただ彼が好きだから、彼が他の令嬢と婚約するということが今は受け止めきれない、という話のつもりだったのだが、なぜか両親は私の話を聞くや否やオリバーと婚約させようと言い出した。
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