第4話

────それからというもの、私のオリバーに対する意識は徐々に変わっていった。



 オリバーにどんなに意地悪なことを言われても、その裏に隠れた本音を察すると可愛く思える。

 それにノートを持ってくれただけでなく、その後も授業の片付けだったり、掃除後のゴミ捨てだったりがあればオリバーはいつも手伝ってくれた。以前までは意地悪を言われて怒り返してしまっていたけれど、彼の本音を知ってしまうとそれが全てオリバーの優しさだと分かる。


 そうなるともう、私の意識はオリバーに持っていかれてしまうというもので。


 中等部に上がり、全校生徒が参加する学園の創立記念パーティーにドレスアップして行ったとき。漆黒の燕尾服に身を包み前髪もきっちりとあげてきたオリバーに、私は思わず見惚れてしまった。

 でもオリバーから出てきたのは「何そのドレス。子供っぽいな」といういつもの意地悪。だから私も思わず、「あなたこそ。服に着られてるんじゃない?」と返してしまった。


 本当は『素敵ね』と言いたかったのに。

 簡単に素直な言葉は出せない。

 以前オリバーが言っていた「好きだから意地悪を言ってしまう」という気持ちも、なんとなく分かるようになったというもの。



「……はぁ」



 会場の後方、壁の近くで一人佇み、私は小さくため息を漏らす。

 するとそこへ、アーロが話しかけてきた。


「どうしたの、オフィーリア。ため息なんてらしくない」

「アーロ……」

「何見て……ってもしかしてオリバー?」

「! いえ、私はその……」

「まあ確かに、オリバーがあんなに女子に囲まれている姿を見たら驚くか」


 少し離れたところにいたオリバーは、その周りを複数の女子生徒に囲まれていた。

 彼を見ていたと指摘され慌てて否定しようとしたが、アーロはそれもそうかと一人で納得してしまった。


「オリバーって人気なの?」

「あー、まあ成績は学年一位で、剣術も飛び抜けて上手い。さらにはあの顔だしなあ。人気があっても不思議じゃないね」

「……ふうん」


 そう言われると確かに、オリバーは人気の要素が揃い踏みのようだ。

 しかし気に食わないのは、オリバーがあの子たちに優しい笑顔を見せていること。


 ……私にはいつも意地悪しか言わないのに、あの子たちにはあんな笑顔を見せるのね。



「あれ? 不満そうだね?」

「……」

「もしかして妬いてる?」

「!」


 にこにことしながら質問してきたアーロにしれっと核心を突かれて、私は思わず目を見開く。


「ち、違うわ! どうして私が嫉妬だなんて……!」


 顔を見られては本心がバレそうだったので、私はぷいっと顔を背けた。


「そうなの? 俺はてっきり、君もオリバーのこと気になっているのかと思ったんだけど?」

「!!」


 その発言に、これ以上ないくらいさらに目を見開いて、思いっきりアーロの顔を見上げた。

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