第12話

私は生きている意味というものがよくわからない。

ただ後悔なく死にたいとは思う。

ここ数年死んでもいいかと思う時には、手首にナイフを当てている自分がいた。

そして痛みと流れる血で生きていることを実感するのだ。

おそらく、それすら感じなくなった時は死んでもいい時なのだろう。

そう考えながらとうとう立つ年になった。

思えば色々あったものだ。

間違いなく普通の思考をした人間ではなかったのだろう。

いや傍から見れば、何をそんなことで悩んでいるのかということばかりだったのかもしれない。

しかし、私は生きることに疲れた。

やりたいことはすべてやった。

手首に当てたナイフの痛みにも慣れてしまった。

ちょうどいい頃合いなのかもしれない。

今日私は死ぬのだ。

胸を張れることではないが、未練はない。

こうして私の人生を書き残すことも出来た。


今更ではあるが、私は幼いころ死ぬことが怖かった。

死んで無になる自分を想像しては泣くことが多かった。

なぜ人は死ぬのに生きるのだろうかと思うことも多々あった。

しかし、今ではこうも思う。

人は死を受け入れるために生きるのだ。

満足して、もう十分生きたと思えるようになることが生きる意味なのだ。

そういう意味で私の人生は成功だ。


立つ年跡を濁さず。

私の思い残しは綺麗になくなった。

だから私はあの世へ発つ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

立つ年跡を濁さず 言京 @ryo_110

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る