第3話

「もう〜 いきなり土砂降りなんてヒドイ! 」

暗闇のカーテンの中からヌ〜と一人の少女が現れ俺の隣りに立った。

俺は一瞬ビクッとする。

でも、どこから見ても彼女は妖かしでなどでは無く普通の少女に見える。

俺は少しほっとした。

彼女は夏の青空の様なワンピースを着て髪をポニーテールにした10代と思われる少女だ。


「あっ、先客がいらっしゃったんですね? スイマセンお邪魔します。」

彼女はキリッとした大きな眼をしていて、見つめられると吸い込まれそうだ。


「いえいえ俺、邪魔デスよね? 車、あの駐車場にあるんでもう行きます。」

俺は滝のような雨の中に飛び込もうとしたら、彼女に手を掴まれた。


「こんな薄暗い中を動きまわると海に落ちちゃいますよ! もう少し雨宿りしていたらどうですか? それに今日は良くないモノの気配を感じますし・・・」


彼女は俺を建物の軒下に戻すと、建物の扉に手をかけた。

すると扉に鍵が掛かってなかったのかすうっと開いた。

「あれっ? 鍵かかってませんね。暫く中で雨宿りさせてもらいましょうよ。」


「すいません。誰か居ますか?」

応答は無かった。


それどこるか中は奥行きの分からない位の闇が続いている。

電気のスイッチらしいボタンを押したが電気はきていないらしく電灯は点かなかった。

俺は真っ暗な室内に向けてスマホのライトを当てた。

元は何かの商店だったのだろうか?

建物の中は20畳位のコンクリートの土間に奥の方は6畳位の小上がりの板の間になっている。


俺は建物の中をただ眺めているだけで動けないでいたら、突然の地震に襲われた。

震度4くらいはある揺れだった。

「キャー怖い。」

彼女に抱きつかれ俺はドキドキが止まらない。


「もう揺れは止んだから大丈夫だよ。中で雨宿りしようか? 」

とりあえず俺は平静を装うと建物の中に彼女と入って行った。


俺はスマホの電池の減りも気になったので部屋にランタンみたいなモノが無いか探す。

だか、そんな都合よくランタンなんて置いてあるわけは無い。

でも、そこにランタンこそ見つからなかったが行灯あんどんが置いてあった。

普通は行灯なんか置いてあっても油が無いから使えないのだが・・・

ちょうど俺の道具箱の中にはサラダ油が入っている。

なんでそんなモノがあるかというと・・・

2月にワカサギ釣りをしてそこで油を使い、油の処分を先延ばししていたからだ。


俺は行灯にサラダ油を注ぎ、芯にバーナーで火を点けた。

室内にはユラユラとした灯りが拡がり、壁には影絵芝居の様な模様が映し出された。

少し明るくなって闇から開放された事に俺は安心した。


板の間にはホコリが積もっていたので、部屋の隅に有ったタオルで一通りホコリを払った。


そして俺は板の間に上がり壁に寄りかかった。

「もし嫌じゃなかったら・・・ ホコリも払ったからコッチに来てくつろいだらいいよ! 」


「えっ、いいんですか? 」

彼女は俺の隣りに来て壁に寄りかかった。

まぁ『俺は草食で採って食われる事など無い』

きっとそう思っているんだろうと考えることにした。


部屋が明るくなり彼女が隣りに来て、彼女の方を向くと服が濡れていた事に俺は今頃気がついた。

慌てて俺の釣り用のジャケットを脱いで彼女に渡す。

「お腹空いてない? おかか入りのオニギリが2個残ってるから一つ食べる? 」

彼女にオニギリを一つ渡し、俺は自分の分を一口で食べ終えた。


彼女はオニギリを少しずつ口に運びながら自分自身の事を話し始めた。

「私、学校で虐められているんです。今日ここへ来たのはどうしていいのか分からなくなって・・・ 」

彼女の涙を見たら何を言ったら良いのか分からず、俺も一緒に涙をながし黙って頷く事しか出来なかった。

やがて疲れたのか彼女はウトウトしだして俺にもたれかかってきた。


俺はどうしていいか分からず固まっていたがやがて深い睡魔に襲われた。

さっきまで足止めをくらって鬱陶しく感じた雨音が今は子守唄の様に俺の頭の中で響いている。



『ピチョ ピチョ ピチョ』

奇妙な音が正面でしているのに俺は気付いて薄目を開けた。

正面に有る行灯にはユラユラと揺れる猫の様な生き物が居て、行灯の油を舐めている。

その目は赤く鬼の様に光りこちら側にギョロッと向いた。

瞬間、俺は再び眠りいや正確には気絶した。


やがて朝日を瞼に感じて俺は目を開けた。

隣りには昨日の少女の姿は無く、三毛猫が丸くなっていた。

もう雨は上がって日がさし始めた様だ。

俺は猫を起こさない様にそっとその場を離れ外に出た。


荷物を置きに車まで戻ってみると・・・

駐車場の連絡道が崩れて下は海になっていた。

俺は昨日少女が言った言葉を思い出しぞっとする。

『こんな薄暗い中を歩くと海に落ちちゃいますよ。』


まさかあの少女はいつも絡んでくるあの三毛猫だったのか?

だとしたら今度お礼を言わないと・・・

雨の中、彼女につかまれた手の感触はきっと忘れないだろう。

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猫又の恩返し アオヤ @aoyashou

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