第35話:五度目の凱旋パレード

神暦2492年、王国暦229年10月17日:王都・ジェネシス視点


「「「「「ウォオオオオ」」」」」

「木属性竜だ、本当に木属性竜を狩られたんだ!」

「水属性竜に火属性竜、更に木属性竜まで狩られたんだ!」

「すごい、すごい、凄い、ジェネシス王子は凄すぎる」

「ジェネシス王子が、たったお独りで3属性竜を狩られたぞ」


「「「「「ウォオオオオ」」」」」

「今度も首が刎ねられているぞ、木属性竜の首が刎ねられているぞ!

「ジェネシス王子にかかったら、属性竜も兎も鼠も一緒だ」

「もうこれで属性竜なんか怖くない、どんな属性竜だって必ず狩ってくださる!」

「ジェネシス王子万歳!」

「「「「「ジェネシス王子万歳!」」」」」


「「「「「ウォオオオオ」」」」」

「なあ、聞いたか、ジェネシス王子は延命の秘術が使えるそうだぞ」

「ああ、聞いた、聞いた、属性竜の素材があれば300年長生きできるらしい」

「それがよう、属性ごとに300年長生きできるそうだぞ」

「え、ジェネシス王子は水属性竜と火属性竜と木属性竜を狩られたよな?」

「ああ、だからジェネシス王子に気に入られたら、900年は長生きできる」

「すげえ、すげえ、すげえ」

「俺も長生きしてぇえ!」


「おい、聞いたか、美人の娘や妹を後宮に差し出したら長生きできるらしいぞ」

「バカ言え、後宮に奉公したくらいで長生きさせてもらえるか!

 ジェネシス王子の目にとまり、御寵愛を給わないと無理だよ。

 そもそも手前所の妹じゃ猿もよりつけねぇよ」

「なんだとこの野郎、妹をバカにする奴は許さねぇ!」


 またやりたくもない凱旋パレードをしなければいけなかった。

 大魔境や大魔山に火属性竜などいなかったと言えればよかったのだが、ずっと大魔山の火属性竜に恐怖してきた人々は、そんな事を言っても信じてくれない。


 純血種竜を眷属にしたと言えれば、火属性竜はいなかったと言えるのだが、その時には純血種竜を眷属にしたという快挙で凱旋パレードをしなければいけない。

 

 同じ理由で、純血種竜を眷属にしたと言わないのなら、木属性竜を狩ったと言わなければいけなくなる。

 民を安心させるに、どちらかを明かして凱旋パレードをしなければいけない。


 どちらかを表に出さなければいけないのなら、木属性竜を選ぶ。

 俺が属性竜を狩れることは、もう世界中に知られている。

 延命の秘術で600年長生きできるのも900年長生きできるのも大差ない。


 だが純血種竜を眷属にしたと知られたら、とんでもない騒動になる。

 属性竜を斃した話しすら、先史文明時代の神話なのだ。


 もっと強大な純血種竜を、斃すよりも難しい眷属化したのだ。

 純血種竜を好きに操れるなら、世界制覇も不可能ではない。

 俺にそんな気はないが、何を言っても信じてもらえないだろう。


 世界中の人間が、俺を殺そうとするか、俺と縁を結ぼうとする。

 そんな騒がしい人生など絶対に嫌だ!

 普通の人生を送りたいとは言わないが、世界制覇まではしたくない。


 この国の人々の命と生活を背負うのすら重いのだ。

 それが嫌だから、父王を譲位させずに残しているのだ。

 あんな色情狂の無責任でも、俺の負担を軽くしてくれている。


「ジェネシス王子、王都の民まで延命の秘術について知っています。

 大陸の帝国だけでなく、世界中の国々に知られていると思われます。

 このままでは連合して攻め込んできかねません」


 俺と同じ凱旋車に乗り、民に笑顔を振りまきながら、セバスチャンが警告してくれるが、それくらいの事は俺も分かっている。

 だが確率的にはそれほど高くない。


「セバスチャンも分かっているだろうが、その可能性は俺も理解している。

 だが大陸の皇帝がバカだという結論だったではないか。

 帝国至上主義の皇帝が、蛮族だと思っている他国と組むはずがない。

 あるとすれば手先に使うことだが、そうなれば色々策を仕掛けやすくなる。

 それに俺にはセバスチャンにも秘密にしている秘策がある」


「王太子が私達にも知らせていない秘策をお持ちなのは分かっております。

 長年仕えてきた者達ならば、帝国が相手でも怯みません。

 ですが急に仕える事になった貴族や騎士は別です。

 恐怖と報酬に目がくらみ、帝国に寝返る可能性があります。

 王位を奪われたと思っている兄君達や、家を乗っ取られたと思っている3大大公家の家臣達は、特に注意が必要です」


「後宮を押さえただけでは抑えきれないか?

 若さと美しさを求める女性達を味方にしても無理か?

 できれば強硬策は使いたくないのだ」


「粛清や弾圧が嫌だと申されるのなら、懐柔しかありません。

 王太子を裏切りそうな貴族家に仕える、生活の苦しい陪臣騎士や徒士を取立てて味方にしなければいけませんが、それでも宜しいですか?」


 俺は意外と理想主義で、普通に生活している人の心を弄ぶような策が嫌いなのを、セバスチャンは理解してくれている。

 だからこそ俺に覚悟を求めている。


「分かった、この国の至る所で内乱が起きていいまったら、俺の力だけでは人々を助けられない。

 この手を汚してでも内乱を未然に防ぐ」

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