第29話:凱旋パレード三度

神暦2492年、王国暦229年6月26日:王都・ジェネシス視点


 俺は前世から目立つことが好きではない、いや、大嫌いだと断言する!

 凱旋パレードなど恥ずかしくて絶対にやりたくない!


 だが、少なくない数の民が水属性竜のスタンピードで死傷した。

 伝説にまで唄われる属性竜の恐怖は少々の事ではぬぐいされない。


 噂、伝聞で水属性竜を斃したと言っても、嘘だと否定されるのが普通だ。

 属性竜を斃した事を証明したいのなら、遺体を掲げてパレードするしかない。


 そうする事で、初めて民が心から安心できるのだ。

 だからこうして晒し者に耐えているのだ。


「「「「「ウォオオオオ」」」」」

「属性竜だ、本当に水属性竜を狩られたんだ!」

「すごい、すごい、凄い、ジェネシス王子凄すぎる」

「ジェネシス王子が、たったお独りで水属性竜を狩られたぞ」

「それも無傷だぞ、無傷で水属性竜を狩られたぞ!」

「もうこれで属性竜も怖くない、火属性竜だって必ず狩ってくださる!」

「ジェネシス王子万歳!」

「「「「「ジェネシス王子万歳!」」」」」


 民を心から安心させるには、凱旋パレードをするしかないと理解しているから、俺はこの羞恥プレーを我慢しているのだ。


 そうでなければ、こんな恥ずかしいマネを3度もやらない。

 セバスチャン達や母上に頼まれてもやらない。


 自分独りでも穴があったら入りたいくらい恥ずかしいのに、珍しく後宮から出てきた父王、うれしそうな母上と一緒にパレードをしなければいけない。


 まあ、あまりにも恥ずかし過ぎるが、自分が腹を痛めて産んだ子供が、英雄として民から歓声を受けるのは、母として憂いしいのだろう。

 母上の為だと思えば、まだ苦笑いを浮かべるくらいで我慢できる。


 ……色情狂で腐れ外道の父王!

 俺がリーズ魔境、コービー湾魔海と連戦している間、後宮でずっと子作りに励んでいたお前が、偉そうに水属性竜の上に乗るんじゃない。


 いっそ、宙に浮かせて移動させている水属性竜の上から叩き落としてやろうか?

 この高さだと確実に即死させる事ができる。


 俺が父を殺して王になると言ったとしても、水属性竜まで斃した俺に逆らう貴族や騎士は1人もいないだろう。


 3大大公家の当主になって兄達や、王城に残っている兄達が王位を主張しても、誰1人賛同する事はないだろう。

 俺の人望と権力は揺るぎのないモノだと理解している。


 だが、分かってはいても、実父だという実感がなくても、父王を殺せるようなメンタルは持ち合わせていないのだ。

 

 前世の記憶と知識があり、この世界の父を本当の父だと小指の先ほども思っていなくても、親殺しをする勇気がない。


「ジェネシス、やはり王太子にならぬか?

 属性竜を独りで斃すほどの者を、他の王子と同列にはできない。

 王城の序列では、ジェネシスの地位は3大大公家の当主はもちろん、年長の兄達よりも下になってしまう。

 野心のある愚か者だと、それを建前にジェネシスより前に出ようとする。

 そんな事になれば、ジェネシスを心酔している貴族や騎士が、愚か者を殺してしまう事だろう。

 愚かな兄が殺される事のないように、王太子の地位につけ」


 王都の大路を使った凱旋パレードが終わり、王城内に入ったとたん、父王が珍しく真剣な表情と口調で話し始めた。


 確かに父王の言う通りだろう。

 兄達の中には信じられないくらい愚かな奴がいる。


 俺が狩った灰魔熊などの高レベル魔獣から作った治療薬のお陰で、病弱だった身体が健康になったというのに、恩知らずな奴が結構いるのだ!


「そうですね、私としても異母とはいえ兄を殺すのは心苦しいです。

 何かやられてしまったら、殺さないにしても罰を与えなければいけなくなります。

 そのような事を防ぐには、王太子の地位を受けるしかないのでしょうね」


「そうか、分かってくれるか、だったら直ぐにやった方が良い。

 日を改めて全貴族と騎士を集めるより、明日立太子式をやった方が良い」


 この糞親父、密かに準備してやがったな!

 色情狂の分際で、妙に手際が良いな?


「うふふふふふ、ジェネシスが王太子に成るなんて、思ってもいなかったわ。

 でも、思っていた以上にうれしいものね!」


 母上か、母上が準備していたのか?

 だったら文句は言えないし、嫌な表情もできない。

 親孝行と思ってやり切るしかない。


「それでね、ジェネシス。

 オリビア殿からのお願いなのだけれど、聞いてくれる?」


「オリビア殿だけでなく、先代と当代のドロヘダ辺境伯に延命の秘薬を渡し秘術を行う事でしたね?」


「ええ、今回の件も、オリビア殿と先代が説得してくださったから、当代のドロヘダ辺境伯が護衛騎士の危険な魔境に行かせてくださったのだし……」


「分かっております、母上。

 ドロヘダ辺境伯家の協力がなければ、何十何百万の人がしんでいました。

 3人と言わず、ドロヘダ辺境伯一族全員に延命の秘術を行いましょう。

 どうせ王城の後宮と3大大公家の後宮の人々を集めてやるのです。

 ドロヘダ辺境伯一族が加わっても同じです」


「そうですか、そう言ってくれてよかったです。

 それと、もう1つオリビア殿とドロヘダ辺境伯家からお願いがあると聞いているのですが、1度会ってあげてもらえないかしら?」


「私からも正式なお礼が言いたいですから、王城で機会を設けましょう。

 正式なお願いなら、おかしな取引がないように舞踏会や晩餐会でやったほうがいいですし、今回のドロヘダ辺境伯家の功績を称えるには、全貴族が参加している場で勲章を与えた方が良いでしょう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る