第28話:魅了魔術

神暦2492年、王国暦229年6月25日:コービー湾魔海・ジェネシス視点


 俺は結構な量の魔力を使って高レベルの魅了魔術を重ね掛けした。

 さらに魔魚と海魔獣が好む魔獣の血を海まいておびき寄せた。


 これまでも瞬きする間に1000を超える魔魚と海魔獣が集まっていたが、直ぐに万を超える魔魚と海魔獣が集まりだした。


 俺は高価カロリー携帯食を食べながら魔魚と海魔獣を狩った。

 使った魔力を即座に創りだしながら魔魚と海魔獣を狩った。

 素材として価値のない魔魚と海魔獣の血抜きをしながら狩った。


 俺の乗る軍船、前世の記憶で1番近いと思う帆走フリゲートの周りは、魔魚と海魔獣の血で海が真っ赤に染まっている。


 その血に誘われるように、新たな魔魚と海魔獣が集まってくる。

 その魔魚と海魔獣を俺が再び狩り、血抜きをして血の海を広げて行く。


 別に殺戮が好きな訳ではない。

 金のために手あたり次第狩っている訳でもない。

 海のスタンピードを止める為にはこうするしか方法がないのだ。


 この広く深い魔海に潜って水属性竜を探し出せるとは思えない。

 魔境や魔山なら、周囲よりも圧縮されていて見た目以上に広いとはいえ、同じ陸上生物が住む地上なので、時間さえかければ火属性竜を探すことはできる。


 だが全く勝手の分からない、深く潜れば潜るほど陽の光が差さずに暗くなり、海水の重さで圧し潰されそうになる魔海で、水属性竜を探し出せるはずがないのだ。


 自分が探し出せないのなら、誘い出して斃すしかない。

 水属性竜を誘い出す方法など限られている。


 効くかどうかは分からないが、自分に魅了の魔術をかける。

 水属性竜の配下だと思われる魔魚と海魔獣を虐殺する。

 水属性竜に効くかどうか分からないが、血をまいて食欲を刺激する。


 俺に思いつく方法など、この3つしかなかった。

 愚直に実行すれば、この大虐殺になる。

 どれほど非難されようと、人々を助けるために魔魚と海魔獣を虐殺する。


「魔海と周辺の魔魚と海魔獣はほぼ狩り尽くした。

 これでしばらくは沿岸部を襲う魔魚と海魔獣は現れない。

 3人にはここで帰ってもらう。

 陸に戻ったら、急いで俺が討伐に失敗した場合に備えてくれ」


「「「王子!」」」


 俺は最側近の3人が残る帆走フリゲートを港に戻した。

 これまで節約していた魔力を惜しまずに使って最速力で港に戻した。

 深海から急激に近づいてくる存在に追いつかれない速さで港に戻した。


「ギャアアアアアオン!」


 怒りの咆哮と共に水属性竜が深海から空に飛び出した。

 あまりの鋭さと速さに少しだけ心臓が早く鳴ったが、それだけの事だ。


 身体強化した状態で飛翔魔術を展開する俺に追いつける生物はいない。

 例えそれが属性竜であろうとだ!


「ギャアアアアアオン!」


 俺を飲み込み損ねた水属性竜は怒りの咆哮をあげる。

 わざと飲み込まれて内部から破壊する方法もあるが、それでは貴重な素材を傷つけてしまうかもしれないし、そもそも少々汚い。


 誰が好き好んで属性竜に飲み込まれたいものか!

 独特の臭気があったら、身体に沁みついてしまうじゃないか!

 もし水属性竜が肉食だったら、かなり臭いに違いない!


 属性竜は亜竜よりもバカなのかもしれない。

 少なくとも目の前にいる水属性竜は、この前斃した亜竜よりもバカだ。

 俺の前で大口を開けて弱点を丸出しにしてくれている。


 俺は前もって創っておいた土属性の圧縮強化魔力を水属性竜の口に入れた。

 叩き込んだ訳でも細かく操作して入れたわけでもない。

 大口を開けている所に放り込んだだけだ。


 俺がこの世界で無敵の力を手に入れられたのは、東洋医学の知識、経絡経穴に加えて五行思想を覚えていたからだ。


 その五行思想の考えから言えば、水属性に強いのは土属性になる。

 だから前もって土属性の圧縮強化魔弾を用意してあった。

 リーズ魔境から戻る時に大量の岩と土を亜空間に放り込み圧縮強化してあった。


 それを口から入れ、喉の辺りで頚椎を断ち切るように後頚部から飛び出させた。

 魔力防御、鱗、皮下脂肪、筋肉という、凄まじい防御力を誇る属性竜も、身体の中から攻撃されれば脆いモノだ。


 小説やマンガ、アニメや特設で使い古された手法、身体の内部から攻撃する事で、あれほど人類に恐れられている属性竜を一撃で斃す事ができた。

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