第12話:説得諫言

神暦2492年、王国暦229年2月8日:王都・ジェネシス視点


 凱旋パレードをさせられたので、俺は魔境に行く事ができなかった。

 王城の後宮に泊まれと言う父王の命に逆らい、手に入れた王都屋敷の1つで眠ることができたのは、セバスチャンのお陰だった。


「国王陛下、王都の大商人達が、王子に娘を仕えさせたいと列をなしています。

 彼らから賄賂を取るだけで、王子の身の回りが整います。

 王家や王国の国庫に負担をかける事なく、これからの王子に相応しい衣装や装備、軍資金が手に入るので、屋敷で眠る事をお許しください」


「そうか、王子も余の子なのだな。

 わずか7歳にして女に興味を持つのか。

 だが、間違っても王家に他の男の血を入れる訳にはいかぬ。

 その娘達が他の男と情を通じていないか徹底的に調べるのだぞ!」


 じゃかましいわ!

 俺にそういう知識があるのは前世の記憶があるからだ。

 色情狂のお前の血の影響ではない!


「その点はお任せください。

 3カ月以上の見習い期間を設け、厳重に隔離いたします。

 幸いな事に、ジェネシス王子はまだそちらの方に興味を示されません。

 今は馬を駆り魔獣を狩る事にしか興味を示されません」


「もう7歳であろう。

 そろそろ興味を持ってもいい歳なのだが、心配だな。

 女に興味をもったから、いろいろ理由を付けて後宮を出たのではないのか?」


 じゃかましいわ!

 色情狂のお前と一緒にするな!


「まだでございます。

 それに、そのような事に興味をもたれたのなら、それこそ後宮に別の部屋を欲しいと願い出られています」


「そうなのか?

 昔から一盗二婢三妾四妓五妻と言うのだぞ。

 さすがに余の愛妾や後宮の女に手を出す訳にはいかぬから、王都で身分卑しい女を手に入れようと思ったのではないのか?」


 死ね、この腐れ色情狂!

 内心ではそんな事を想いながら俺の独立願いを聞いていたのか?!


 信じられないくらい品性下劣な奴だ!

 こんな奴がこの世界の父親かと思うと涙が流れる!


「父王陛下、女性に興味が出ましたら、その道を究められた陛下にご相談します。

 ですから、今はそのような事を心配しないでください」


「国王陛下、ジェネシス王子はまだ7歳です。

 色々と恥ずかしくなる年齢でございます。

 細かい所は後日御相談させていただきますので、今日はこれで」


「そうだな、凱旋パレードで疲れているのであったな。

 しかたがない、屋敷で休むがいい」


 セバスチャンが言った後日の相談というのが気になるが、俺のガマンが限界に達する前に父王の前を下がった方がよかった。

 このままでは面と向かって父王を色情狂とののしりそうだった。


 翌日は昼過ぎから凱旋パレードに続く舞踏会、晩餐会を挟んで再び舞踏会。

 腹立たしいくらい貴族騎士が浮かれていた。


 俺の本心としては、朝から魔境に向かいたかった。

 まだスタンピードで魔境からでた魔獣を完全に退治できていない。


 民の為にも1日でも早く魔獣を皆殺しにしたかった。

 だが、しばらくは父王のご機嫌を取らなければいけない事情があった。


「国王陛下、ジェネシス王子が勇気と武威を発揮して築かれた砦なのですが?」


 セバスチャンが父王の機嫌を見て上手く話しを始めてくれた。


「ふむ、報告にあった野戦陣地の事だな?」


「魔境内にもあるにもかかわらず、王子の威信のお陰か、魔獣に破壊されることなく維持できているのです」


「ほう、建国王陛下以来の快挙であるな」


「はい、国王陛下の御指導宜しく、王子は成長されています」


「傅役のそなたがよく導いてくれたと思っているぞ」


「ありがたきお言葉、恐悦至極でございます。

 それで、今の砦を維持しつつ、新たな砦も築きたいのですが」


「なんだと、もう1つ魔境内に砦を築くと言うのか?!」


「はい、王子のお力ならば可能だと思っております」


「危険はないのだな?」


「殿下のお力ならば、危険はないと思います。

 少しでも危険を感じたら、即座に魔境外に撤退していただきます。

 その時には、この命にかけて魔獣を防いでご覧に入れます」


「……王子を茶魔熊の群れを斃すほどの勇者に育ててくれたセバスチャンだ。

 信じるしかないだろう。

 それで、願いとは何だ?」


「今回凱旋パレードで王城に持ち込んだ魔獣達でございます。

 1番大きな茶魔熊は陛下に献上させていただきましたが、他の茶魔熊はジェネシス王子が自由に使えるようにして頂きたいのです」


「……本来なら王子が狩った茶魔熊なのだから、自由にさせてやりたいのだが、多くの貴族や騎士が下賜を願い出ているのだ」


「そうなる事は予想しておりましたが、更なる魔獣を狩るためには、茶魔熊から作る高品質の回復薬や治療薬が必要なのです。

 王子には無用の物ですが、王子の盾となる者には必要なのです」


「う~む、確かに王子の盾が直ぐ壊れるようでは困るな。

 だが、有力な貴族や建国前から王家に仕える名門騎士家の願いも無視できぬ」


「ではせめて、何の代償もなく下賜されるのはお止めください。

 先日の件で、国王陛下もお分かりくださったでしょう。

 ほとんどの貴族や騎士は、先に生まれた兄王子達に味方しております。

 26番目にお生まれになった、ジェネシス王子が力を持つ事を嫌がっております。

 そのような者達に、王子が命を賭けて手に入れた魔獣を、代償なしに下賜してしまったら、これまで以上に王子を下に見る事でしょう」


「う~む、セバスチャンの申す事ももっともだな。

 ジェネシスに何の利もなく、他の王子達に味方している者達が高品質の回復薬や治療薬を手に入れるのは問題だ」


「ですので、競売を提案したのでございます」


「競売だと?」


「はい、王都や教都、商都や易都の大商人も参加させるのです。

 国王陛下が貴重な茶魔熊を下賜しようと、貴族は感謝などいたしません。

 自分の利になる王子を担ぐ力にするだけです。

 それならば、身分卑しくても大商人に競わせて高値で買わせるのです。

 利の半分は陛下に、もう半分は王子の軍資金となります」


「軍資金か、家臣の忠誠心を買うにはどうしても必要なモノだが……」


「国王陛下、ジェネシス王子なら軍資金を上手く運用されます。

 王国には役目を与えてもらえない騎士が数多くいます。

 次男三男に生まれた者は、そのような家すら継ぐことができず、冒険者になれればいい方で、多くはその日暮らしの平民に落ちぶれてしまいます」


「そのような事は余も知っている。

 だがそれは努力不足であろう。

 幼い頃から文武に励めば騎士団に入る事ができる。

 次男三男であろうと、冒険者となって名をあげ豊かに暮らしていけると聞くぞ」


「恐れながら国王陛下、どれほど文武に秀でていようと、陛下の側近に賄賂を贈らなければ、騎士団入りはできません。

 少なくともジョサイアが生きていた頃は、騎士団に入れませんでした」


「……余の責任だと言うのか?」


 セバスチャンがお前の失政だと言葉にしないようにしているのに……


「ジェネシス王子は、貧しさから武器や防具を買ってもらえず、冒険者にすらなれなかった次男三男に武器と防具を貸し与え、臣下に加えられる予定です。

 文武に秀でながら、賄賂を払えずに騎士団入りできなかった騎士達を、王子が新たに設立される騎士団に取立てる予定でございます。

 そのために軍資金が必要なのでございます」


「余の失政を補うために軍資金が必要だと申すのか?!」


 いいかげんにしろ!

 これ以上セバスチャンを困らせるようなら、魔術でしばらく眠らせるぞ!


「国王陛下、ジェネシス王子が家臣国民に実力を示し、忠誠心を獲得する機会をお与えくださいますよう、伏してお願い申し上げます」

 

「急報、急報でございます!

 亜竜です、亜竜が魔境から出てきました!」

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