第13話:亜竜災害
神暦2492年、王国暦229年2月8日:王都・ジェネシス視点
「亜竜だと?!
ダコタ魔山の属性竜ではないのか?!」
父王が驚きのあまりセバスチャンとの会話を後回しにした。
自分に不利な会話だから後回しにして、後日セバスチャンに陰湿な仕返しをしなければいいのだが……
「いえ、違います。
リーズ魔山でございます。
リーズ魔山から亜竜が現われ、ベッドフォード一帯を襲っております。
このままでは、王都方面に向かう可能性もあると、代官からの急報です」
ベッドフォードの周辺だと、建国以前から王家に仕えていた譜代貴族領だけでなく、王家や王国の直轄領もある大切な場所ではないか。
放置するわけにはいかないはずだが、父王はどうする?
「えええええい、ダコタに続いてリーズもか!
こう何度も余の時代に天災が引き起こされるとは、運がない」
今までずっと運がないと言う言葉で責任逃れをしてきたのか?
恥さらしにも程がある。
国王ならば、どのような手段を使ってでも竜を退治すべきだろう!
そのために直轄軍だけでなく貴族軍へ命令権があるのだろう!
「報告を届けた者は近くに居るのか?」
「はい、控えの間に待たせております」
俺の質問に取り次ぎ役の侍従官が答えてくれる。
「水を飲ませて落ち着かせているか?」
「あ、えっと、その……申し訳ございません、何も与えておりません」
「急ぎ水を与えて話せるようにしてくれ。
国家の存亡にもつながりかねない大災害だ。
服装や言葉遣い、身分や礼儀にこだわっている場合ではない。
水を与えたら直ぐに連れて来てくれ。
我らに報告している間に使者に与える食事の準備をしておけ。
必要になれば、このままリーズ魔山に向かう事になる、急げ!」
「はっ、直ちに!」
「どう言う事だ、ジェネシス」
「父王陛下、リーズ魔山の事は国史を学ぶときに何度か読んだ事があります」
「ほう、そうなのか?」
「はい、神代の時代と言われている先史文明時代から、何度も火属性竜による被害を受けたと書かれています」
「ほう、そのような話しは初めて聞いたぞ」
バカ野郎、王ともあろう者が、自国の経済と軍事力、魔獣災害の起きやすい場所を知っていないでどうするのだ!
「そうなのですね、では今から覚えてください。
リーズ魔山は何度も火属性竜が現われ噴火や火砕流による被害が起きています。
ですがそのような被害の前に、必ずスタンピードが引き起こされるのです。
ダコタ魔境と同じようにスタンピードが発生するのです」
「なんだと?!
そのような報告は受けていないぞ!」
「だからこそ、ベッドフォード代官所からやってきた伝令に直接聞くのです」
「ほう、そうであったか、よく気が付いた、さすがジェネシスだ」
これくらい当たり前の事だ!
この程度の事も思いつかないお前が国王失格なのだ!
「大した事ではございません。
それよりもこれからなすべき事の方が大変でございます」
「これからなすべき事だと?
絶対に勝ち目のない属性竜や亜竜に何ができると言うのだ?」
「絶対に勝てない相手ではありません。
建国王陛下は亜竜を斃し、属性竜を追い払ったではありませんか。
大陸では、今でも亜竜を斃せるA級冒険者がいると聞いています。
我らも建国王陛下にならい、亜竜を斃せるようになるのです」
「危険だ、危険過ぎる、次期国王候補であるジェネシスがするべき事ではない!」
「父王陛下、私は玉座でふんぞり返っていられる性格ではないのです。
どうか私に亜竜を討伐する機会をお与えください」
「ならん、ならんぞジェネシス、絶対にならん!」
「国王陛下、ベッドフォードの伝令が参りました。
謁見の間に入れてもよろしいでしょうか?」
「ならぬ、話など聞く必要はない」
「ダメだ、入れよ。
このまま何の手も打たずにいたら、王都に亜竜が現れるぞ。
国王陛下はもちろん、お前もお前の家族も殺されるぞ。
さっさと伝令を入れろ!」
俺の言葉を受けて侍従官が伝令を連れて謁見室に入ってきた。
ごく内輪の信頼する王族や寵臣だけが入れる特別な謁見室だ。
身分の低い伝令を案内する侍従官は、伝令が粗相をしないか緊張している。
いれ、俺の怒りと亜竜が来るかもしれないと言う話を恐れているのだろう。
「よくぞ国の大事を報告してくれた。
くわしい内容をたずねたい。
亜竜が魔境を出て人々を襲っていると言う事だが、それはスタンピードなのか?」
父王に話のジャマをされたくないので、少しだけ威圧をかけておく。
「はい、その通りでございます。
亜竜だけでなく、多種多様な魔獣が魔境からあふれ出し、農地は全滅です」
「民はどうしているのだ?」
「リーズ魔境に接する地域の者達は、祖先の教えを守っております。
魔山に異変のある時は、村や家を出ずに警戒しております。
スタンピードが起きたと分かれば、村や家に籠って戦います。
防ぎきれないと判断したら、地下室に隠れて助けを待ちます。
たとえ地上の家や村が壊滅していたとしても、地下で助けを待っています。
恐れながら申しあげます。
どうか、どうか、どうか魔獣討伐軍を派遣してください!
私が命懸けで御案内させていただきます。
伏して、伏してお願い申し上げます!」
「よくぞ申した!
その方の命懸けの願い、このジェネシスが引き受けた。
セバスチャン、亜竜と戦う覚悟のある勇士だけを集めよ。
賄賂で騎士団入りしたような恥知らずは足手まといだ。
俺の背中を預けられるような者だけを集めよ!」
「はっ、側近と家臣、各騎士団に言葉をかけて本当の騎士だけ集めます。
いつまでに集めれば宜しいでしょうか?」
「1時間だ、俺がたつのは1時間後。
王国騎士ならば、敵襲にあわせて即座に迎撃できた当たりまえ。
騎士団員ならば常在戦場の生活を義務付けられている。
義務も守らず、何の準備もしていない者に用はない」
「はっ、心得ました」
「父王陛下、建国王の教えに従い民を助けに参ります!」
俺はそう言い捨てると、危険な場所に行くなと言いそうになっている父王を置いて謁見室を出た。
これ以上父王の恥知らずな言動を聞いていると、殴ってしまいそうだった。
勇敢で聡明だったという話が残る先代王の王太子。
その王太子を祖父が毒殺して父王を王位につけた。
その事を薄々察しているのなら、もっと自分に厳しくなれよ!
自分が贅沢三昧するだけでなく、取り巻きにまで好き放題させてきた!
恥を知るなら俺のジャマだけはするな!
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