第11話:凱旋パレード

神暦2492年、王国暦229年2月6日:王都・ジェネシス視点


 王都の正門ともいえる北から入都する。

 ダコタ魔境から真直ぐ王都に戻るなら西門からなのだが、凱旋パレードなので、しかたがなく北門にまで回ってからの入都だ。


「「「「「ウォオオオオ」」」」」

「すごい、すごい、凄い、ジェネシス王子凄すぎる」

「スタンピードの魔獣を防がれたぞ」

「ジェネシス王子がたったお独りでこれだけの魔獣を狩られたぞ」

「もうこれでスタンピードも怖くない、ジェネシス王子万歳!」

「「「「「ジェネシス王子万歳!」」」」」


 恥ずかしい、あまりにも恥ずかし過ぎて逃げ出したくなる。

 だが、ここで逃げる訳にはいかない。

 父王との約束を果たせば、多くの貧民と難民を助ける事ができるのだから。


「ジェネシス王子、晴れ舞台でございますぞ」


 セバスチャンが言外にしっかりしてくださいと言っている。

 すべてセバスチャンの悪巧みが原因なのに、腹が立つ。

 腹が立つが、家臣や見廻騎士団の晴れ舞台でもあるのでガマンするしかない。


 ★★★★★★


「国王陛下、王子が魔獣を狩って戻るのでしたら、王国騎士団の魔獣を運ばせて凱旋パレードをしてはどうでしょうか?

 ジェネシス王子の実力を知らせる絶好の機会ではありませんか?

 王家に対する民の尊敬の念が高まると思います」


 そう言うセバスチャンの献策に父王が喜んで乗ってしまった。

 献上した茶魔熊が6匹いると俺が言ってしまった後だ。

 他にも13匹もの灰魔鹿がいるとセバスチャンが話してしまった。


 俺達は急いでダコタ魔境に戻り、魔獣の数々を魔法袋に入れた。

 魔獣は砦に保管してあると嘘をついているので、戻らない訳にはいかなかった。


 実際には俺が創った亜空間にあるので戻る必要はない。

 だが、俺の悪口を言った貴族や騎士に思い知らせるなら、迷うまで戻った方が色々とやれる事が多い。


 俺やセバスチャンが話した獲物の数がとても多かったので、父王から宝物殿にある魔法袋を全部貸し出してもらえた。


 砦に入って亜空間から魔法袋に魔獣を入れ替えたら、次にするのは狩りだ。

 強制動員された王都の貴族と騎士が俺の配下とされている。

 こいつらに俺の実力を見せつけなければいけない。


 実際には王都からダコタ魔境に向かう途中ですでに見せつけている。

 魔境から逃げ出した魔獣の多くが民を襲っているからだ。


 今はもう民も城や砦に逃げ込んでいるが、初期には多くの犠牲があった。

 そして今も魔獣は農地を自由に動き回って獲物を探している。

 人間が農作業できない状況になっている。


 そんな魔獣が大集団である俺達を襲ってこない訳がない。

 下は大した攻撃力の無い灰牙兎から、上は一撃で騎士をぶち殺せる灰魔熊まで、休む間もないくらい繰り返し襲ってきやがった。


 その気になれば魔獣など遠く離れた場所で斃す事ができる。

 だが、街や村に着くたびに民に暴力を振るう連中を助ける気にはなれない。

 特に、娘や若妻を輪姦しようとした腐れ外道はこの手でブチ殺したいくらいだ!


 幸い俺や家臣が事前に気付いて、最悪の状況になる事は防げたが、事前に防げたから良いと言うわけではない!


「セバスチャン、俺の直臣以外は助けないからな!

 貴族や騎士なら魔獣退治はできなくても自分の身くらい自分で護れ!

 厳しくそのように言い渡せ!」


「はっ、王子の名誉にかけて厳しく言い渡してまいります!」


 セバスチャンは俺の名代として全貴族騎士を集めて言い放ってくれた。


「はっきり言っておく。

 この場にはジェネシス王子の名誉を穢した腐れ外道が何人もいる!

 そのようなモノを王子の配下とは認めない!

 よって、魔獣が襲ってきても王子が助けられる事はない!

 何の罪もない、抵抗する事もできない平民の女を、集団で襲うくらい元気があるのなら、自分の命は自分で守れ。

 他の者達も、絶対に手助けするな!

 手助けしたら、同じ恥知らずの腐れ外道と判断する!」


 セバスチャンの言葉を聞いて顔色を無くす者も少しはいた。

 だが大半は、恥じる事もなく不貞腐れた表情をしている。

 ほとんどがろくに鍛錬した事もないブタ野郎だ。


「ギャアアアアア!

 たすけろ、助けないか、俺様は伯爵公子だぞ!

 たすけてくれ、たすけてくれ、ギャアアアアア!」


「うぁあアアアア!

 なにをしているのだ!

 ウサギくらいサッサと殺せ!

 ギャアアアアア!

 いたい、いたい、痛い!

 たすけろ、たすけないか、助けてくれ、ギャアアアアア!」


 あちらこちらで命懸けの戦いが始まった。

 俺が魔術で斃さない限り、城や砦なら出た人間は魔獣に襲われる。


 属性竜の恐怖から解き放たれた魔獣は、本能的に人間を襲う。

 飢えている場合は、倒れた人間が生きていようが死んでいようが関係なく、大好きな内臓から喰らう!


「助けてください、お願いします!

 殿が、子爵様が殺されてしまいます!」


「黙れ下郎!

 王子に顔に泥を塗り、恥をかかせたブタ野郎を助ける騎士などいない!

 これ以上王子の御座所に近づく者は斬る!」


「王子、王子、どうかおたすけ、ギャアアアアア!」


 俺に危険なくらい近づいたと判断したのだろう。

 アンゲリカが子爵家騎士の首を刎ねた!


「これから王子に近づこうとする者は、己の卑怯下劣なお行いを隠そうと、王子の首を狙う不逞の者と判断し、このように首を刎ねる!

 これから王子に近づこうとする者は、その覚悟で来い!」


「「「「「おう!」」」」」


 アンゲリカの宣言に、昔から俺に仕えてくれている側近だけでなく、新たの家臣となった300人も応じてくれた。


 子爵家騎士に続いて身勝手な願いをしようとしていた連中が、一斉に逃げて行く。

 他の貴族や騎士に助けを求めるのだろう。

 だが俺に徹底的に嫌われた連中を助ける者がいるはずもなかった。


 俺が斃した茶魔熊や灰魔熊の足元にも及ばない、指先1つで殺されるくらい弱い、灰牙兎や灰角兎に壊滅させられる貴族家や騎士家が続出した。


 最低限の強さを保つ軍を保有している貴族家や騎士家は、赤牙兎や赤角兎の群れを何とか撃退しているが、他家の支援がなければ滅ぶのは目に見えていた。


 貴族家や騎士家の誇りを維持できるていどに鍛えられている軍は、100kg級の赤牙鼠や200kg級の赤角鼠を何とか斃していた。


「灰魔狗だ!

 獰猛な灰魔狗の群れだ!

 400匹はいる大型の群れだぞ!」


 俺がずいぶん前に確認していた群をようやく発見したようだ。

 獰猛な100kg級の魔狗が400匹、並の騎士団なら大損害を受けるだろう。

 

「各家防御陣を築け!」


「王子の命だ!

 各個に防御を固めろ!」


 俺の命令をセバスチャンや側近達が復唱してくれる。

 俺の家臣300はすばやく円形陣を築いていく。

 貴族家や騎士家の多くはモタモタしている。


「王子、王子の名誉を傷つけた者共は死に絶えております。

 そろそろ実力をお示しください」


 セバスチャンがそう言うので、近づいて来ていた灰魔狗400を一瞬で斃した。

 俺以外の人間には一瞬に見えただろうが、実際には2回攻撃だ。


 1度に400の魔術を展開できない訳ではないが、1度で殺せない強い個体がいた場合の予備を考えても、2回に分けて魔術展開した方が安全なのだ。


「「「「「ウォオオオオ」」」」」

「さすが我らのジェネシス王子だ!

「王子にかかったら魔鼠も魔狗、魔鹿も魔熊も虫けら同然だぜ!」

「魔法1つで400を瞬殺よ!」

「ジェネシス王子万歳!」


 俺の家臣達が大歓声をあげた後で一斉に褒め称えてくれた。

 少々気恥ずかしかったが、応えるのが主君の役目だから、周囲の警戒を緩めくことなく手を振って応えた。


「「「「「ウォオオオオ」」」」」

「「「「「ジェネシス王子!」」」」」

「ジェネシス王子こそ真の英雄だ!」

「ジェネシス王子は建国王陛下の再来だ!

「「「「「ジェネシス王子万歳!」」」」」


 生き残っていた貴族家と騎士家の連中が、俺の家臣達に同調しはじめた。

 英雄などと言われては恥かしくて隠れたくなる。

 建国王陛下と比べられたら、これまで以上に命を狙われる。


「ジェネシス王子、彼らにもっと強い印象を与えましょう。

 魔境に入って、茶魔熊に匹敵する魔獣を目の前で狩ってやるのです。

 それで連中の心をつかむ事ができます。

 黙っていても王子が最強だという噂を流してくれます」


★★★★★★


 セバスチャンの諫言に従った結果がこの凱旋パレードだ。

 だが、手のひら返しをした恥知らずな貴族や騎士はパレードに参加していない。

 俺が狩った魔獣を誇らしげに運ぶのは、王家王国の騎士団だ。


 狩りに参加していない王国騎士団が魔獣を運んでいるのは、王家王国の威信を高める為の詐欺行為だ!


 本当なら絶対に受けない所なのだが、俺の家臣団と見廻騎士団に1番良い順番を与える事、唯一騎士団旗を掲げる事で受け入れた。

 受けいれた以上、少々の腹立たしさは抑えて、最後までやるしかない!

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