5 心

部活が終わってから、急いで図書室に向かった。

だけど、浩平こうへいは待っていなかった。三秒ほど絶望したけど、携帯電話の存在を思い出した。ちゃんと浩平からアプリで通知がきていた。とりあえず安心して、それから文面を確認した。


 浩平への気持ちを意識したのはいつだったんだろう。一年生の始めの頃は同じクラスで、よく話す何人かのうちの一人だったはずだ。それが二年生になった今では、親友と呼べるほど仲良くなってしまった。でも、一年のときも二年になった今も、おれには最初から浩平への好意みたいなものがきちんとあった。


それは男友達に無邪気に甘えたい気持ちと、男友達というものよりもさらに親しくなって浩平に好かれたいという気持ち。


男同士だし恋人になるのは難しいかもしれないと思って、ならせめて「璃央りお」って名前で呼んでもらいたいと何度も思った。

あいつ良い声してるから、もしも名前で呼ばれたら、ちょっとやばいかもしれない。そう思ってたのに。




帰り道。夕方だけど、空の色はまだ明るかった。

桜の木が並ぶ公園内を歩いていた。下校にわざわざこの道を使う必要はないけど、二人で帰るときはよくこの公園を通る。大きい公園だから、ウォーキングしたり犬の散歩をしたりしている人がちらほらいて楽しいからだ。実際におれもたまにここで走っている。

 

 桜の木とベンチを数えるように歩いていたら、何個目かのベンチに浩平は座っていた。携帯をじっと凝視している。「浩平」とおれが声をかけると、ハッと意識を外に向けおれの姿を確認した。


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