夢路はるかに……『西暦2048年』
心理的時間は歳の二乗にて、技術進化はエクスポネンシャルとか(医師脳)
カーツワイルの唱える「シンギュラリティ」とは、技術進化のスピードが無限大になることらしい。
それが西暦2045年に到来する――との予言で更に一首。
怖いもの見たさで思ふ近未来、百寿の吾とシンギュラリティ
*
自動運転の電動トラムを最寄りの〈尾野 Med-Care Park〉駅で降りた。
つがる市と医療法人誠仁会による〈プラチナタウン〉構想が国の過疎地対策に採用されたのは十年以上前になるだろうか。つがる市は今や〈国家戦略特別区〉なのである。
そもそものきっかけは、遮光器土偶に刻まれた縄文模様の秘密が解明されたことにある。地図――それも地球以外の生命体が刻んだものらしく、そこを発掘したら大量のレアメタルがザックザク!
つがる市と地主の医療法人誠仁会は莫大な資金力で〈尾野 Med-Care Park〉を開設した。
利用者の個人負担を無料にしたためか、大勢の高齢者が終の棲家を求めてやってきた。
医療介護スタッフも好待遇の職場を目指して家族連れで集まり、つがる市の人口は急増し、隣接する青森県立木造高校も規模が倍増した。
さらに(仮称)つがる医療福祉大学まで新設されることになり、辺りは若者の街に変わってしまった。
木造尾野病院の開設者で看護学校まで併設した尾野酉三郎先生は、西暦2048年の〈尾野 Med-Care Park〉をご覧になって喜んでくださるだろうか……。
ぱらぱらと霙の窓打つ音に和し土地整備の重機ら競ひ働く
もちろん自動運転の電動トラムも無料で運用されている。もはや地吹雪など怖くない!
停留所から徒歩数分の通勤先は〈えんじゅの里〉だ。
ここで私は永らく体を張って認知症の研究をしてきた。研究テーマは『ウイズ・ディメンシア』と銘打って、認知機能が衰えても楽しく過ごす方法を追究しているのだが……。
「その方法を教えてほしいって? ダメダメ! 研究内容については契約上の守秘義務があるので話せませんよ」
私の話に調子を合わせていたユニフォーム姿の女性は、笑顔でパタンと介護記録を閉じた。表紙には、中村幸夫様(100歳)と書かれている。
誰のことだろう?
その下の〈利用開始日2048年1月30日〉とあるのは何のことだろう?
ちょっと不安だが、わざわざ確かめるのも怖いような気がする。今日は研究を切り上げて早退しようかな……。
「センセ! 演説は終わりにして、おやつにしましょう」とユニフォーム姿の介護スタッフが私の手を取る。
*
晩秋に「新春随想」のネタ探し気分を令和四年へ飛ばして
初春やふさはしき歌をと詠みければ令和四年も斧正こひたし
初夢を見しか見ざりしか二度寝して確かめたくなる温き床にて
俗に言ふ富士鷹茄子の初夢なく正月二日も熟睡に目覚む
書初めせし『心機一転』を眺むれど佳き短歌うかばず墨かわきけり
「捻りすぎ」と妻の辛口批評うけわがエッセイを切り抜く手ゆがむ
年明けて初の仕事にいざ出でむ老いらの無事を幸ひとして
朝陽あび白く輝く津軽富士の峰ゆ舞ひあがる雪煙あをし
「唐土の鳥が渡らぬさきに」と七草をきざみし妻と粥をすすらむ
吹雪さりて倒れし鉢をもどす手にローズマリーの香の残りゐる
(青森県医師会報会員サロン2022新春号)
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