第25話花巻、カリアVS北宮ー2
俺はカリアの鎌を手に怪物になりつつある北宮と相対する。
「花巻君! 北宮が悪霊化して暴走してしまえば、流石に私たちが力を合わせても完全に被害を最小限に抑えきることはできない。だからここは短期戦で行くよ!」
「短期戦か。時間のほどはどれくらいだ?」
「う~ん。私が悪霊化する瞬間を見たわけじゃないからわからないけど大体後10分ぐらいじゃないかな。悪霊化ってその人によってなるタイミングが変わるから今の北宮はむしろ、必死で自我を何とか保っているんだと思う」
「自分が利用されていたということを知らされてもなお、負けたくない気持ちが消えていないわけか。良くも悪くもプライドの高さが故の意固地が勝っているわけだ」
瞬間的に北宮が絶望に浸る場面こそはあったが、それでも何とかして屈しはしないという強い意志は感じられる。
北宮のやってきたことが決して許されるわけじゃない。それでも、どんなに逆境に立たされても自分の信念を絶対に曲げないところはほんの少しだけ感心してしまう。
ああなりたいとは1ミリも思わないが。
その時。うなり声をあげ続けていた北宮の声が突如静まった。異変に気付いた俺たちが北宮の方に振り向くと、そこには悪霊化した怪物になりかけていた姿とは一変した北宮の姿。
それは悪霊化しかけてきた死神と魂を自らの力として取り込んだ姿だった。
予想外過ぎる展開に流石のカリアも俺も驚きと戸惑いが隠せない。
「え………? まさか悪霊化しかけていた自分の魂と死神ごと自分の力に取り組んだの………?」
「そんなことできるのか? 死神がやるならまだしも、普通の人間が悪霊化せずに逆に力として取り組むことなんて真似」
「普通ならありえない話だよ。でも、北宮は自分から死神との契約を選んだ人間。もしかすると、意図的に自分が絶望する素振りを見せることで死神が悪霊化に動くことを見越していたのかも。あまりにも博打過ぎる賭けだけど今までの北宮なら、考えられなくはないかも」
「自らの心を絶望という負の感情をわざと見せつけて、自分を悪霊化しようとするタイミングで死神と悪霊化しかけた自分の魂を取り組んだわけか。自分の命を捨てる覚悟があってこそできる無茶ぶりだな。そこまでしてでも北宮は上に立ちたいわけか」
もはやこれは、北宮の執念が悪霊化に勝ったともいえるかもしれない。頂点に対する異常な執着が結果的に今の北宮の力となっているのは間違いない。俺との戦いに負ければ帝明会どころか、これまでの経緯を踏まえれば死刑はまず免れない。
そうなれば、トップに駆け上がった努力も実績も一瞬で水の泡になる。
北宮としてはもう後には引けないある意味で瀬戸際に立たされているともいえる。どんな手を使ってでも俺たちを始末し、自分が生き残ることでやってきたことの正当性を示すことが最善だと考えた結論だ。
とはいえ、俺たちとしてはやることは特段変わらない。
「はぁ…………はぁ_____。一か八かの賭けだったが………何とかうまくいったようだな………。この力があれば、俺は本当の意味での頂点に立てる。それにはお前は目障りだ」
「悪霊化しかけていた魂を自らの力に取り込んでまで上に立とうとする執念だけは認めるよ。でもそのやり方が力任せでは、誰からも信用もされず、孤立し、いずれは自らの身を滅ぼすぞ。少なくとも、人を殺してでも駆け上がろうとするお前のやり方を賛同できる人間なんて片手で数えるのがやっとかもしれないが」
「何が言いたい? 手段を選ばずに頂点へ駆けあがることの何が悪い?」
「別に上の階段へ上がることを否定した訳じゃない。だがお前はそのやり方を間違えた。上に立つ人間は、実力はもちろんだが、絶対的信頼と安心感をある程度は持ち合わせていた。それに全て該当したのが唐岡大総裁だ。帝明会内部はもちろん、警察内でも絶大な信頼を得ていたそうだしな。一方でお前は唐岡大総裁と正反対だ。自分の力ではない外部の力をまるで自分のもののように扱うだけでなく、内部の関係者も躊躇なく始末するかと思えば、大総裁の地位になっても邪魔者を排除し続ける___。そりゃあ内部からも嫌われるわけだな」
「貴様は俺のやり方にケチ付けるっていうのか?」
「そうだ。お前は人を殺してまで権力を手にしようとしたクズだ。それも自分が頂点へ駆け上がるための土台にしてな。お前ほどの学力なら、こんな手を使わなくても他に方法を編み出すことぐらいは出来そうだったのにな。どうやら頭が良すぎるが故に、柔軟な発想のできない固定概念に囚われた固い頭だったわけか」
北宮は俺の挑発気味の確信を突く言葉の連続に少しずつ苛立ちを隠し切れなくなっていく。
この状況になってもなお、冷静さを保てない時点で北宮は上に立つ人間ではなかった。
エリートだったことで目先の結果を求めることを優先したことで結果的に頼れる人間を作ることができず、北宮の暴走を止めてくれる存在もいなかったことが死神という危ない誘惑に手を出してしまっただろう。
俺と若干似た境遇を送ってはいるが、違うのは止めてくれる人間がいたかいなかったかだ。
今でも殺し屋時代の最後の出来事が記憶から消えることはない。
だが、皮肉にも自分が殺めた仲の良かった社長からの
『君の手を汚すのはこの私で最後にしなさい。これからは苦しんでいる人間を止めてあげられる人間になりなさい』
という言葉のおかげで今こうして探偵として暴走している北宮を止めようとしているのだ。
北宮の狂った歯車を止めれるのは俺だけしかいないのだ。
「お前の言葉も耳障りになってきた。さっさと決着を付けよう。ここまで来て生きて帰れるとでも思うなよ?」
「それはこっちも同じだ。時間と手間はかけさせない。さっさと終わらせよう」
さっきまでのピリピリした緊張感がさらに張り詰めった殺気へと変わる。
北宮の持つ短剣と俺の鎌が静かに揺れる。
戦いは突然始まった。先に先手を打ったのは北宮の方だ。瞬きも許さないほどの速さと同時に振りかざされる短剣。だがさっきまでの俺とは違い、カリアと契約した俺にはその太刀筋がこの目ではっきりと視界にとらえることができる。俺は左手で北宮の右手首をガッチリと掴み、短剣による攻撃手段を抑え込む。さらに同時にカリアの鎌を北宮の顔へと振りかざすが北宮も左腕で何とかガードした。
北宮の左腕から鎌による出血が見られているが、当の本人は痛がる素振りを一切見せない。
攻め手がなくなった北宮は一度俺を蹴り飛ばし、距離を取る。
さっきの攻防で俺がまるで別人のように強くなったことを察知したのか顔が強張り始めていた。
「さっきのような物理技では通用しないわけか。なら!」
北宮は短剣で十字架のようなものを描き、そこから巨大な黒い蛇のようなものが俺に襲い掛かかってきた。
今までの俺ならその圧倒さに気負いしてしまっていただろう。だが今の俺にそんなものはもうない。巨大な黒い蛇相手にも冷静に動きを読み、そこから狙いすましたようにカリアの鎌で蛇の頭を真っ二つにしていく。
だが北宮も連続技で左手から黒い破壊弾を俺に向けて放つ。
北宮が破壊弾を放つなら、俺もそれを相殺するように破壊弾を放った。
一つ一つの精度が、とても人間同士の戦いでは不可能なレベルの凄まじい激戦だった。
それでも俺の肌にはこちらがずっと攻勢であることは察知できた。北宮の方が技こそそれなりに出し続けているがこちらに効果のある攻撃はほとんどない。このままいけば北宮が手詰まりになると俺を踏み、ここで勝負に出た。北宮の攻撃をうまくかわしながら、瞬時に前に駆け寄り、北宮の左肩に鎌で一撃を食らわせた。
「ぐっ………! おのれ___」
間一髪のところで北宮は回避しようとしたが鎌の方が先に斬られていて、左肩の部分からも血が出ている。今までならこの攻撃も難なく防げていたはずだが、優勢に進められないことへの焦りなのか俺への対応が遅れたのだ。
「な、なぜだ。なぜ、お前が俺を圧倒できる! 俺は、俺はこれだけの力を手に入れたというのに!」
「なぜって? そんなの、お前がまだ俺を超えていないからだろ」
俺の言葉に北宮の怒りが爆発した。今体内に存在する死神の力を全て片手に持つ短剣の方へと流し込む。その勢いのまま、俺に襲い掛かった。だが自分を見失って暴走する人間にもはや勝ち目なんて存在しなかった。
北宮の刃が届くよりも先にカリアの鎌が北宮の体を連続で切り裂いた。
「ぐっ、がはっ………」
北宮は凄まじい血しぶきと共にばたりと倒れた。
同時に契約していたと思われる死神も完全に消滅し、北宮の体から死神の力が消え去った。
俺と北宮による戦いは長いようで短かった。
そして斬られて倒れていく北宮の姿は頂点から崩れ落ちる独裁の王様そのものだった。
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