第24話花巻、カリアVS北宮ー1
「ほぅ? お前は探偵のそばにいた死神か」
北宮はカリアの乱入にも全く動じる様子はない。
むしろ想定出来ていたのか余裕すらも感じ取れる。
「ごめんね、花巻君! 予想よりも時間かかったけど間に合ってよかった!」
「カリア………。お前、あの死神を倒してきたのか____?」
まだそう多く戦っている姿を見ているわけじゃないが、カリアは明らかに他の死神とは違う、ずば抜けた実力を持つ死神だということは少し見ただけでわかっていた。
だが、それに匹敵、いやそれ以上に圧倒的な力を持っていそうなアルカーナを撃破できたとはとても思えなかった。
その俺の疑問にカリアは優しく答える。
「いや、アルカーナは倒せてないよ。流石の私でも、単独だと上位死神と対等に勝負させてすらもらえないよ。でも、今は助太刀に来てくれた私の仲間に代わりに何とか足止めしてもらってるよ」
「…………大丈夫____なのか?」
「もう! 花巻君のさっきまでの覚悟はどこいったの!」
カリアはボコボコにされて弱気になった俺にカツを入れるように額に少し強めのデコピンをした。
想定外の行動に俺は不意を突かれた表情になった。
「いたっ! おい、こんな状況で何するんだよ!」
「それはこっちの台詞だよ! 圧倒的実力見せつけられて心が折れたのかわからないけど今はそんなことしてる場合じゃないでしょ! あいつを止めれるのは、もう花巻君しかいないんだよ!」
俺は久々にボコボコにされたことによって折られたメンタルをカリアが立ち直らせてくれた。まだ完全に体力は回復しきってはいない。
それでも、さっきよりも体の重りが少しばかり軽くなった気がした。
俺の心は自分が想像しているよりも随分と脆かったのかもしれない。
「茶番は終わったか? まだ俺は1割も力を出した覚えはないぞ」
「悪いな。可愛い女の子にちょっと喝を入れてもらっていたところだ」
別に俺としては何か意味を含めて言ったつもりはなかった。
ただ自分の感謝の気持ちを伝えたまでだ。
だがカリアの顔は、赤く火照っていた。
「もう、いきなり不意に褒めないでよ………!」
カリアは照れ隠しをしているのだろうか。こういう乙女心はやはり俺にはよくわからない。それでも、カリアの恥ずかしがっている表情はいい意味で死神らしくない可愛い女の子の表情だ。こんな状況で考えることでもないのかもしれないが。
「あなたと戦う前に一つ聞かせて。あなたは本当に自ら望んで死神の力を手にしたの?」
「そうだ。俺は俺が望んでこの力を手にした。この力で俺は日本の、世界の頂点に立つ。俺の積み重ねてきた努力が間違いじゃないことをこの力で証明する」
「自分の意思でその力と契約したのならこれ以上口を挟まない。でも、その選択は後悔するよ。特に力だけに目がくらんだあなたみたいな人間はその死神の本質に気付いていない」
「なに?」
カリアの言っていることが最初は俺も北宮も理解できていなかった。
だがカリアの予言を待っていたかのように北宮の体に突如、異変が起き始める。
「ぐっ……! がぁぁ…………うがぁぁぁぁぁ!」
北宮の体に今まで感じたことのない激痛、心臓を誰かに握りつぶされているような激痛が襲う。同時に病気を患ったのかと感じさせるほどの吐血もし始めていた。
「な、なぜだ………! 今までは、こんなことは一度も____」
「あなたは多分、アルカーナから死神の契約に関する穴を見破れなかった。わかっていたならこうまでして苦しみ、自らが悪霊化することもなかった」
「契___約___? 悪霊化………? おい__! どういう意味だ! それは………!」
「人間と死神が契約するということは、自分の魂を死神の判断にゆだねるということ。命令関係だけを見れば主と何でも手を貸してくれる便利な駒という契約する人間にとってはここだけを見れば、むしろデメリットを探す方が難しい。でもそこに大きな落とし穴がある。それは自分たちが死神を利用できるぐらいに強くなったというエゴ」
「エゴ___だと?」
「そう。死神たちにとっては人間と契約することは自分たちが魂を回収するための手段でしかない。極端なことを言えば、死神側からすれば、別に血眼になってまで人間と契約しなくても、魂を回収することは出来る。それでもなお、死神が人間と契約をする理由は悪霊化させることでまとめて人間たちを殺してもらって魂を回収する。今のあなたみたいにね。そうすれば死神一人の力でそれほどの労働力を使うことなく膨大な量の魂を回収できるってわけだよ」
カリアの話は、今までバラバラだったピースをようやく一つずつ繋げるための重要なキーワードの数々だった。
元々アルカーナは上位死神たちが集まる天獄楽の制定者の一人。天獄楽の制定者の目的は人間の魂を意図的に手に入れること。そのために人間界の殺人に手を貸していると言っていたがこれがもし、北宮を大量に魂を手に入れるための駒として利用するためだったのなら、納得のいく点も多い。自分たちは魂をより多く確保できる一方で、北宮もその力で上へとのし上がるために存分に利用できる。まさにwinwinの関係というわけだ。
だがここで一つ疑問が浮かんでくる。
それはなぜ死神であるアルカーナたちが悪霊化するのを止めないのかだ。
これだけは今の俺では納得のできる理由が思いつかなかった。
「つまり………俺は、あの女の死神の手の上で踊らされていた___っていうのか___?」
「そうなるね。目先のことしか考えずに死神と契約して、自分が思い通りに動かしていると思っていたら、まさか自分がその死神たちに利用され、動かされていた。まるであなたのような人生をそのまま描いたような展開。皮肉だね」
カリアの冷たい眼差しと放たれた今の北宮にはとどめを刺すような言葉の連続。直前まで自分の展開通りに進めていたゲーム展開を、最後の最後で利用していたはずの味方にひっくり返された北宮にとっては、自分のやってきたことを完璧にまで否定されたと同義だった。
もう北宮の心に希望の灯りは消えかけていた。
北宮の消えた灯りを覆い隠すように死神の闇が被さっていく。
「俺は………俺のやってきた努力に、間違いなんてないんだ__!」
北宮の目は絶望と焦燥感が漂っている。
北宮にとっては最後の希望ともいえた死神の力。それすらも、相手の都合で動かされていた駒だった。もう北宮の中には全て壊すという破壊衝動だけが残った。
北宮の体は黒い闇に覆われて自我も失いつつあった。
これが、魂が悪霊化した人間の末路なのだろうか。
「がぁぁぁぁぁぁ! 俺の、俺のやってきたことに………間違いは__ない………!」
「もうそう遠くないうちに北宮は悪霊化する。こうなると、もう私の手では助けられない」
「かといって、これ以上は関係のない人を巻き込めないし、アルカーナたちの天獄楽の制定者の好き勝手にはさせれないってわけだな」
悪霊化しかけていた北宮。もうその姿は人間から遠く離れた怪物になりつつあった。
元殺し屋だった俺も流石にこの北宮相手に勝てる手段がまるで思いつかなかない。
でも、不思議と恐怖心だけはなくなっていた。それがどういう理由でなくなったのかはわからない。だが今の俺には、恐怖心も負ける気も微塵もなかった。
ここまで自身が溢れているのは一体いつぶりだろうか。
そんな俺にカリアは冷静に声をかける。
「幸いにも、北宮の体はまだ完全には悪霊化していない。今ならわずかにだけど北宮を救える可能性がある」
「それは本当か? もし北宮を助けられるのなら俺は助けたい。あいつにはまだ聞きたいことがあるからな」
「花巻君ならそう言うと思ったよ! じゃあ、私と契約してくれる?」
「え? 契約? カリアとか」
死神が人と契約できることを知った時点でいずれはカリアと結ぶことになるのは薄々覚悟していた。だが、俺の中には殺された阪村、そして悪霊化しつつある北宮の末路を間近で見ていて死神と契約関係を結ぼうという気にはすぐになれなかった。戦うことに対する恐怖心はなくても、自分の体が制御できずに暴走して悪霊化してしまう恐怖はまだ拭えていなかったのだ。
「もしかして、自分が悪霊化しちゃうのを恐れてる?」
「…………恥ずかしい話だがな。殺し屋だったのにも関わらず情けない話だよ」
俺は契約することへの恐怖があることを素直に話した。
ここで下手に強がると、契約するカリアにも失礼な話だからだ。
ここは正直な気持ちは話した方が、多少は気持ちを理解してくれるはずだ。
そんな俺にカリアは余裕の笑顔で答える。
「…………そんなことないよ。花巻君のような死神という現実世界じゃお目にかかれない存在といきなり契約を結んでくれって言われて、しかも今の北宮が悪霊化しかけている様子を見ればその恐怖心は正常な証だよ。でも安心して! 私、一応上位死神だから悪霊化する心配はないよ。北宮が悪霊化しかけているのは精神的な面もあるけどそれ以上に契約した死神が上位死神じゃなかった運の悪さもあったんだと思う。それに、今ここで契約しないと北宮は止まらないと思うよ?」
カリアの言葉で契約することへの恐怖心は多少和らいだ。全く消えたわけじゃないがここまでずっと協力してきたカリアとなら契約してもいいという覚悟が出来た。
ほんと、俺という男は声に惑わされやすい生き物なのかもしれない。
「もう手段を選んでいる余裕もなさそうだな。俺も決めた。カリア、契約を結ぼう」
「花巻君ならそう言うと思ったよ! ありがとう!」
カリアは嬉しそうな表情と声で持っている鎌を一度地面に突き刺す。
そして両手をゆっくりと前に差し出し、目をつぶって瞑想状態に入る。
「我、死神の誓約を誓い、その魂を、決意に結びつけられた鎖で繋がることをここに宣言する」
カリアの詠唱が終わると、俺の周りが紫色の光に包まれ、俺の体に凄まじい電撃が走る。それと同時にかつて感じたことのないほどのカリアのエネルギーと血が俺の体中をひた走り、やがて全身へと広がっていく。
光が収まり、俺はゆっくりと目を開ける。
そこにカリアの姿はいない。だが俺にはわかる。
俺の体の中にカリアがいることを。
全身が契約したことによる進化状態になり、凄まじいほどの力で溢れ出しそうになる。
「どう? これが私と契約したことで得られる力は」
「すごいな。俺とカリアが一つになったことでまるで違う人間になった気分だよ」
カリアの姿は見えなくても、頭の中に優しく語りかける声はしっかりと聞こえている。
カリアが近くにいると感じるだけでもさらに力が溢れ出る。
同時に今なら、死神と契約をした北宮も阪村の気持ちもわかる。
これだけの力を手にすれば、人が変わってしまうのも致し方ないのかもしれない。
だが俺は違う。俺は自分のためではなく、他人のために使う。それは揺るぎない俺の信念だ。
「さぁ。決着を付けようぜ。北宮!」
俺はカリアの持っていた鎌を両手にガッチリと構え、悪霊化しかけていた北宮に対して改めて宣戦布告をするのだった。
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