第23話止められないプライド
帝明会本部内で激戦が繰り広げられる中、俺は北宮のいる部屋へとたどり着く。
「大総裁のいる部屋にしては兵もいないし、随分と静かだな」
何かがくる予兆を指し示しているような静けさ。
それでも俺に迷いはない。
俺は部屋の扉を開く。そこには血だらけの倒れた兵と静かに椅子に座っている北宮の姿だった。
「ようやく来たか。待っていたぞ、花巻探偵」
「お前が、北宮豪」
俺も北宮も会った直後の印象と、今こうして出会った印象とでは大きく異なっている。
同時に、互いが似た境遇を送っていることも頭の片隅で想像がついた。
「ここまで来たのなら隠し事は一切なしで行こう。お前が黒幕として狼角と死神を利用し、殺人を行っていたのは間違いないな?」
「貴様も見ただろう。あの女の死神たちを。それが全てだ」
どうやらここに来てごまかすような動きは一切する気はない様だ。いや、もうここまで来ておいて、隠し通せるはずがないのは北宮自身が一番わかっていたのだろう。
「素直なのはこっちとしてもありがたい。差しでやる前に聞いておきたいことがある。まず、帝明会の舛田が殺害された事件の引き金になった狼角関係者の徳永が拘置所で殺害された事件。徳永を殺したのはお前で間違いないな?」
「あぁ、そうだ。その様子だと俺がどうやって徳永を殺したかも大方察しがついているようだな」
「当然だ。お前はまず、死神の力を使って瞬間移動みたいな形で拘置所に入り込んだ。その後防犯カメラを一部だけ破壊し、徳永が大声をあげる前に射殺。殺した後は死神の力を再び利用して姿を消せば、証拠を一切残さない状態で終えられる。もっと言えば、爆破事件の現場検証を行っていた原井川を殺した時も同様のやり方で射殺したんだろ?」
「本物の警察官じゃ到底たどり着けないところまでこんな短期間で突き止めたわけか。無名の探偵だと思っていたが、流石はあそこでスパイをやっていただけのことはある。正解だ。射殺関連の事件は俺自身の手でやった。俺の目的遂行のためでもあり、自分の力を試すために動いたに過ぎないからな」
これで徳永と原井川の殺害は北宮がやったこと、そして死神を使った殺人でもあることを認めた。ここまで正直に話しているのは、おそらく自分とアルカーナ率いる死神と手を組めば、誰かに多少計画がバレたとしても、力づくで握りつぶせるという絶対的自信の表れかもしれない。
「そして残りの舛田、黒崎、そして阪村の殺害はおそらく一緒に手を組んでいる死神たちに殺害を手伝わせた。そして、ここでは全く関係のないはずの阪村を殺害したのは高校大学と連続で阪村に惜敗したことによる逆恨みといったとこかな」
「最初の2人を死神にやらせたところまでは正解だ。だが、俺が阪村を恨みを持っていたのはそういう理由じゃない」
「ほぅ? 俺の推測とは違う、何か別に理由があるのか?」
「お前なら捜査している時点で多少は察しがついていると思っていたが………まぁいい。阪村と俺とでは、はっきり言って経歴に天と地ほどの差があった。俺はスポーツも勉強もエリート街道、一方で阪村はそこまでお金持ちでもない普通の人間だった。だが陸上ではその普通の存在でしかなかった阪村に高校大学と敗れた。今思えばその時に俺は阪村に対抗心燃やしていなければこうはなっていなかったかもしれない。でも自分のプライドに抗えなかった。そして警察官になった俺は失敗続きで苦労の日々を送っていた。そんなある日に偶然、阪村と飲む機会があってな。もう3年以上も前の話だが。その時に言われた言葉で俺の人生は一変した」
「言葉?」
「『北宮君は僕よりも勉強も仕事も運動も出来て羨ましい』とな。阪村は
阪村が北宮に言った言葉は推測になるが、悪意を込めて言ったものではないだろう。俺の知っている阪村なら他人に、それも自分の陸上時代のライバルの一人相手を馬鹿にするような言葉は投げつけないはずだ。だが尊敬の意味も含めて言った『羨ましい』というたった5文字の言葉が、皮肉にも一人のエリートの人生を狂わせる引き金になってしまったわけだ。
「なるほどな。3年前から既に死神と接触をし始めたわけか。ということは3年前の鷹留殺害もお前がやったわけだ」
「そうだ。その当時は俺からではなく、声をかけてきたアルカーナから実際に力を試してみるべきだと言われてな。阪村に負けたくない一心で手を汚した。そこで人を殺したことによる罪悪感と恐怖を感じ取っていれば、踏みとどまれていたのかもしれない。でも、俺はそこで力を手に入れたことによる優越感に浸った。さらには皮肉なことに、この力を手に入れたことで今までの苦労が嘘みたいに報われたよ。俺はその瞬間に全てを悟ったのさ。絶対的な力さえあれば、今までの努力や結果を全て否定できるってことをな」
北宮は自分の過去について語りながら椅子から立ち上がる。
北宮は阪村にとって超えないといけないライバル、一方で阪村にとって北宮は学生時代にギリギリの勝負続けてきたライバルでもあり、尊敬をしている人の一人。同じライバル同士でも、捉え方がかなり異なっていたことが結果的に2人の人生を狂わせたのかもしれない。
それでも、自分が勝っているという優越感に浸りたいが故に仲間を利用して最終的に殺してしまうような真似は見過ごせない。
それは阪村を含めた死んだ人たちのためでもある。自分も人を殺しておいて何言ってるんだと言われても自分はこうすることでしか罪を償えないのだ。
「阪村に死神の話を吹きかけたのもお前か?」
「それに関してだけはノーだ。結果的にはあいつは俺と関係を持っていたウルファナという死神によって殺されたがあれは別に俺の指図じゃない。流石にライバルを殺してまで勝とうとするほど俺はクズじゃない」
「じゃあなんで阪村は殺された! 阪村を殺すように仕向けたのは誰なんだよ!」
「阪村は確かウルファナという死神と契約関係だったそうだな。知っているか? 死神ってのは、人間と契約できるのは必ずしも1人と限られたわけじゃない。最大3人までなら契約関係にできる。つまりは阪村以外の別の契約主が死神に命令して殺害したんじゃないか? まぁ俺はウルファナの契約主じゃないから推測でしかないが」
死神との契約に関する話は阪村と会った時に聞かされていた。現に、阪村はあの灰色のローブのウルファナが阪村と契約した死神だったことは死ぬ間際に伝えられていた。だが、そのウルファナが阪村以外に契約を結んでいる人間がいる可能性が浮上したのは頭になかった。
しかも、その筆頭候補だった北宮がこのタイミングで嘘をつくようなことはしないだろう。
ライバルの阪村が殺された時の話をした時、寂しげな様子を全く見せていないのが引っかかるのは少し気になるが。
「阪村と唐岡元大総裁が殺された今、俺を阻害する存在はもういない。後は俺が理想郷へと導くための道しるべを作るだけだ。それを邪魔するお前は今ここで消えてもらう必要がある」
「もうどう転んでもお前が止まることはないってことか」
「そうだ。俺としては久しぶりに本気で戦えるいい機会。力加減を間違えて殺してもらっても文句はないな?」
北宮が俺の正面に立ち、ついに自らの手にした死神の力を解放した。北宮の周りには他を鎮めるほどのおぞましいオーラ、そして死神の黒い力が北宮の体中に流れていき、さっきとはまるで別人、いや別の人外生物となっていく。
体系こそ、大きな変化はないが俺にはわかる。さっきまでずっと隠し続けていた殺気が、死神の力を発揮したことで強大になっていき、俺の足が小刻みに震えてしまうほどの圧力になる。
戦う前に恐怖心を感じ取ってしまうなんてこと、これが初めてだ。
「これが死神と契約することで得られる力か____」
「さぁ。手加減はしないぞ………無名探偵!」
北宮の言葉が言い切るよりも先に俺は拳銃で一発頭に向けて放つ。
だが北宮は軽々と銃弾を右手ガッチリと掴み、弾を地面にポトリと落とす。
そこから一瞬だった。俺がコンマ数秒瞬きした間に北宮の姿は消え、気づいた時に右足の蹴りを腹部に決められていた。そこからあっという間に部屋の外へと飛ばされる。今までの普通の蹴りでは絶対に感じられない威力、そして金属バットで何10回も叩かれたような痛み。死神の力の恐ろしさを知るにはたったこれだけで十分だった。
「ぐっ………! こ、これが………死神と契約したことで得た力か___」
「うむ。久々に体を動かしてみたがやはり素晴らしい力だ。これで普通の死神だって言うんだからもっと上の死神なら、下手をすれば国1つ滅ぼしかねないかもしれないな」
北宮は自分の力を存分に発揮できている影響か、さっきまでの冷静な様子とは打って変わって興奮とワクワクが抑えられない。
北宮は俺の顔を左手で鷲掴みするように掴み、右手で俺の腹部に何度もグーパンを打ち込む。一発一発が鉄の重りで思いっきり叩かれているような激痛が走り、あまりの痛さに吐血もするほどだ。こんな痛みは俺の人生で一回も感じたことのない痛み。
これが拷問による痛みなのだろうか。
「どうした? あの一流の殺し屋だったお前がこの様とは。やはりどれだけ人間としての実力はあっても所詮は死神の力を手にした俺には足元にも及ばない廃棄物と変わらないわけっか!」
「がはっ………!」
こちらが攻撃する手段を与える暇さえ与えずに攻撃を受け続ける。ダメージが凄まじい量で体に蓄積していき、意識ももうろうとし始めた。
せっかくカリアや神崎たちが開けてくれた道を俺は無抵抗のまま潰されるのだろうか。
残念な人生の終わりかもしれないが、これも俺の人生の終焉として受け止めることこそが自分自身への罰。
そんな事を頭によぎった直後___。
キーン
綺麗な音が響くと共に北宮の方に見覚えのある鎌が襲い掛かってきた。
それでも突然の奇襲にも動じることなく回避した北宮。
その目に見えたのは静かな怒りを秘めたカリアの姿だった。
俺は失いそうになる意識を必死に保ちながら助けに入ったカリアの背中を眺める。
「お前は………カリア___!」
「少し遅れちゃってごめん! お待たせ花巻君! 助けに来たよ!」
その後ろ姿は、いつもの可愛らしい女の子の背中とは全く違う、ピンチに助太刀に入ったメインヒロインのカッコいい後ろ姿。
俺にとっては人生で初めて、女性としてのカッコよさを見た瞬間だった。
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