第22話VS帝明会

1週間という時間は待つにしては遅く、準備するには早く時が流れていく。

各々様々な思いをかかえながら各自の準備を終え、ホテルに集まっていた。


「いよいよ決行当日か。今更かもしれないがこれは負の選択を断ち切るための戦いだ。下手をすればこの戦いで命を落とすかもしれないが覚悟はできているだろうな?」

「ここまで準備しておいて今更ビビるなんてダサいことしねぇよ。それに警察官としてこのまま人が死んでいく様は見過ごしておけない」

「俺もこの警察官と同意見だ。かつて憧れていた北宮の姿はもうない。俺の目に映るのは、恩師を殺し、平気で仲間を蹴落とす悪魔の姿のみだな」

「私も花巻君が戦うと決めた時から覚悟してるよ。後、この前出会ったアルカーナが全く動きを見せていないのも何かすごく嫌な予感がするし………」

「そうか。じゃあ行くぞ」


各々思いは違えど、覚悟はもう決まっているようだ。

相手は日本最大の治安部隊帝明会、そして死神たち。

一筋縄ではいかないのは周知の上。俺たちは堂々とした足並みでホテルを出る。

もうここからは逃げも隠れもしない。

俺たちは音山のパトカーに乗り込み、帝明会本部へと向かって行った。


 ホテルを出てパトカーを走り出すこと30分。予想していた狼角や死神の追手は意外にも全くなく、嵐の前の静けさのような静寂を感じさせたまま、帝明会本部近くまで到着した。


「ここから先は隠しルートで忍び込むことはしない。どうせしたところで、北宮が予防線を張っているだろうからな」


ここまで奇跡的に帝明会にバレなかったとはいえ、流石に帝明会本部はかなり警戒されているだろう。俺たちが実際に本部に足を踏み込んだこともあって、本部に存在している全てのルートを封鎖している可能性は高い。

こうなればどう転んでもいずれは正面衝突するのは誰しもがわかりきっていたのだ。


「つまり、ここからはもう好きに暴れてもいいんだな?」

「そういうことになるな」


神崎は久々に正面から戦えることによる自分の中に流れている血が興奮しだしていた。

もう俺もここまで来てさらさら止める気はない。


「よっしゃあ! 行くぞーーーー!」


神崎は大声で叫びながら警備のいた正門を豪快に突破していく。怪我をしていたとはいえ、それでもかなりレベルの高いところで柔道をしていたこともあって、力強さは衰えていないようだ。むしろ、自分の中にあった葛藤がようやく吹っ切れたことで今まで自分の持っていた力以上のものが引き出せているようにすらも感じさせる。


「き、貴様らは! おい! 早く増援を呼べ! 敵襲だ!」

「こ、これ以上は北宮様に指一本触れさせな………」


大混乱する部隊たち相手に俺たちも神崎の後に続けと言わんばかりに本部へと突撃していく。


 一方、北宮のいる大総裁専用の部屋では突然の襲撃にドタバタが続く中、新しく大総裁になったばかりの北宮は顔色一つ変えず、静観していた。


「北宮様! 指名手配する予定だった探偵と死神、そして警察官と思われる男となぜか神崎も含めた4人が奇襲を仕掛けた模様! 現在は我が帝明会が誇る鎮圧部隊の面々が鎮圧に向けて動いております!」

「そんなの状況を人目見ればわかる。これも想定内だ。どうやら今のところは思いの外こちらが圧倒的に押されているようだな。日本最大の治安部隊が聞いて呆れる惨状だよ」

「で、では………もっと人員増加する方向で」

「そんな生温いやり方じゃ、あいつらを殺せはしない」

「じゃ、じゃあどうすれ………」


伝言役と思われる男が突然、後ろから灰色のローブの人物に背中を斬られ、豪快な血しぶきをあげてその場で倒れた。

男が斬られた直後に姿を見せたのは天獄楽の制定者の一人である死神アルカーナの姿。


「あなた方の出番です。アルカーナさん」

「条件はさっきも言った通り、襲ってきた4人を殺せばいいのね?」

「手段は一切問いません。報酬はあなた方が欲しい量の魂を献上しましょう。もちろん、君にも働いてもらいます。灰色の死神、ウルファナ」


北宮が名前を読んだ直後、ウルファナはずっと顔を隠していたフードを取り、その冷徹な水色に光る瞳と沸き立つ殺気を表に出した。

髪は灰色で短く、身体は抜群のプロポーションと断言できるほどでもないが女性としては上々の体つき、そして両手にしっかりと握りしめている二つの赤く染まった短剣がより恐怖を引き立たせている。


「言われなくても、私は私のやるべき事をするまで。全てを片付けるまでは私は止まらないのだから」


静かな口調でそれでも北宮には聞こえる程度の大きさで呟きながら、部屋を後にする。

ウルファナが部屋を出た直後、アルカーナの合図で数100体に及ぶ死神を出現させ、一斉に出動させた。

出現させた死神が全ていなくなるのと同時にアルカーナは指をパチンと鳴らす。すると、北宮以外の帝明会の人間が一斉に誰かに斬られたような血を流しながら倒れ込んだ。

同時に出てきた魂をアルカーナは片手に集め込み、その魂を自身の体に取り込んでいく。


「手段はえらばないって言ったからには私たちが何をしてもいいということを黙認したことになるけどいいわよね?」

「許可を承諾したの他でもない、俺自身だ。お望みとあらば、俺の部下たちを駒として生贄にしてもらっても構わん」

「そう。ならあなたの部下たちの魂、たっぷりと利用させてもらうわね! それと、私もちょっと遊びに行ってもいいかしら?」

「好きにしろ。命令にさえ、遂行してくれれば何をしようと構いまわない」

「なら、私も遊びに行っちゃお~! 久々に魂の狩りあいが見られそうで楽しみ………!」


アルカーナはご機嫌な様子で去って行き、部屋には北宮一人となった。北宮は座っていた椅子からゆっくりと立ち上がり、血だらけになって倒れている部下たちの方へと歩み寄る。

今まで自分と仲間だった部下たちが死神たちにこうもあっさりと殺されてもなお、北宮には悲しみという感情は失われつつあった。

それは北宮が死神の力を手にしたことによる影響なのかどうかはまだわからない。

既に北宮はもう進み続けるしかないと覚悟を決めているのだ。


「俺は、この死神の力で日本の頂に立つ」


北宮は静かに語った言葉は、強く、悲しいものだった。


 その頃、俺たちは順調なペースで帝明会の部下たちを殺さない程度に蹴散らしながら北宮の所へと足を急がせる。


「流石は日本最強の治安部隊。俺たちじゃなければ、秒殺されていたな」

「当然だ。治安部隊と名乗っているのに弱かったら話にならない。ただ、狼角と違って手段を選ばずに殺しに来るわけじゃないのが幸いだな。こっちとしては動きが読みやすくて助かる」


俺と神崎の言う通り、警察傘下の治安部隊ということも影響しているのか全力で殺してくる様子はない。

おかげで不規則な行動パターンは皆無に等しく、こっちとしては戦いやすくありがたい状況だ。

それでも、やはり帝明会の本部とあってか数だけは流石に揃えてきている。

前に進むにつれて徐々に数は増大していき、前に進みづらくなってきた最中だった。


「神武羅、死神のお嬢ちゃんと一緒に北宮の所に行ってくれ」

「おい音山! いくら警察官のお前でも流石にこの数を一人でやるのは無茶だぞ」

「そこの警察官と一緒に俺もここでこいつらの相手するぜ」


音山だけではなく神崎もこの数の帝明会の部下相手にここに残って戦うことを決めた。

確かにこれ以上、全ての帝明会の部下相手と戦っていれば、北宮と戦う前にジリ貧で力尽きてしまう。

だからといって音山と神崎を置いていくことに、迷いがあった。

(また俺の知らないところで仲間が殺されるのは見たくない………)

今度は別の葛藤が襲い始めていたのをカリアがポンッと背中を叩く。


「安心して。今の音山君と神崎君なら死なないし負けないよ。それに、もしもの時と思ってちゃんと私の仲間も呼んでいるから!」


カリアの言葉通り、本部の正門を真正面から蹴破るように二人の女性が姿を見せた。


「ちーす。人間様を吹き飛ばしに参りました~」


綺麗なピンクの長髪の女の子が手に持ったバズーカ砲から強烈な波動弾を大人数の帝明会の部下に向けて放った。放たれた波動弾を受けた部下たちは豪快に吹き飛ばす。

そしてもう一人の団子結びをした寡黙な紫色の髪の女の子がカリアのそばにやってきた。


「この二人はカリアの知り合いか?」

「そう! 私の急な連絡に応じてくれた私と同じ死神の仲間だよ。どういう仲間なのかは終わった後に話すとして、とりあえずは仲間で協力してくれるって認識でいてくれたらいいかな! あっちのバズーカ砲を手にしてるのがフェリア、こっちのヌンチャクを持った方はルーカだよ」

「…………よろしく」

「俺は花巻神武羅だ。詳しい事情を話せる余裕はないがよろしく頼む」


俺の返答にルーカは静かに頷く。

これで戦況的にはようやく五分といったところか。


「さぁ行け! 神武羅!」

「北宮を止めれるのはお前しかいない! 行け! 探偵さんよ!」


音山と神崎の覚悟にも押され、俺とカリア、ルーカの3人は先へと進んでいく。

残った音山、神崎、そしてフェリアの3人はこの圧倒的手数に委縮するどころか、むしろ顔に余裕とワクワク感すら感じさせるほどの表情に変わっていた。


 北宮いる大総裁の部屋へと向かう俺たちの前に、死神たちが現れる。


「…………死神! やっぱり帝明会と繋がっていたのは本当みたいだね!」


カリアの言う通り、この帝明会本部内で死神が出現したということは北宮と死神が繋がっているという点はやはり黒と見ていい。

そんな時、カリアとルーカの身におぞましい強大気配を感じ取った。


「やはり何かゾクゾクする気配がすると思えば____この前会ったばかりじゃないかしら? カリア」

「あなたは………アルカーナ!」

「それだけじゃないわよ~。こっちには死神殺し最強格のウルファナちゃんもいるわよ~!」


俺たちの前に現れたのはこの前の死神を使って襲撃してきたアルカーナ。

そしてその隣にいるのが阪村を殺した灰色のローブの姿をしたウルファナという女の死神。

アルカーナが話していた死神殺し、そしてウルファナが持っている二つの短剣。俺の目は確信に変わった。間違いなくウルファナが阪村を殺した犯人であり、阪村が契約したといっていた死神こそがウルファナなのだ。


「仲間を事前に呼んでおいて正解だったね。流石に私一人だけではアルカーナとウルファナは相手に出来なかったよ」

「___ウルファナ」


ルーカはウルファナを睨みつけながら攻撃態勢に入る。

ルーカとウルファナは互いに顔馴染みの様子だ。

殺し屋だった俺でも流石にアルカーナとウルファナが他の死神とは桁違いに強いということは素人目に見てもわかる。


「花巻君、ここは一人で先に向かってくれないかな? このタイミングでアルカーナが出てきたってことはもう北宮の前に実力者の駒は揃えていないはず。北宮を直接叩くのは、花巻君にしかできないこと。大丈夫! 私たちも、ここにいる死神たちを叩いてすぐに向かうから」

「その言葉、信じてもいいんだな?」

「うん! それに、アルカーナとは少し話したいこともあるからね」


この前のカリアとアルカーナの様子を見ていたら、明らかに何か過去にあったのは事実だ。

だとすれば俺はこれ以上、下手に死神の世界に首を突っ込まない方がいい。

今俺がやるべき事は、北宮を止めることだ。

情けない話だが、ここは死神であるカリアとルーカに任せる他ないのである。


「不甲斐ない話だがここは任せた。俺は北宮の所へと向かう」

「うん! 待っててね。私たちもすぐに片づけて向かうから!」


カリアの言葉を信じ、俺は襲い掛かってくる死神たちを撃退していきながら先へ進む。

死神たちが俺への妨害を辞めない中、アルカーナとウルファナは俺を殺しに行く真似はしなかったこともあり、うまくこの状況切り抜けることができた。

残ったカリアとルーカ、そしてアルカーナとウルファナは静寂した状況の中、最初に仕掛けたのはルーカだった。

ルーカの華麗なヌンチャクを片手に行きつく間もなくウルファナに襲い掛かった。

一方でウルファナも短剣で自身への直接的なダメージをうまくかわしていく。

そしてカリアとアルカーナは互いに面を合わせたまま、戦う様子はないままアルカーナが口を開いた。


「この前出会った時から言ったはずだけどまだ人間側に付くつもりなの?」

「自分たちの魂が欲しいがために、平気で人殺しに手を貸しているあなたに言われたくないです」

「手を貸している? それは誤解しているわね」

「誤解?」

「そう。別に私が人間の魂欲しさにあの男に協力した訳じゃない。今こうして協力してあげているのも、あの男の方から

『力が欲しいから協力してほしい。そのためだったら何でも捧げる』

と頭を下げてきたから協力してるに過ぎないわ。人間って本当に馬鹿よね。悪の道だとわかっていても自分のために平気で身を捧げてくれるんだから。まぁそのおかげで魂狩りがこうしてはかどっているわけだけどね。何たって神は平等であるべき存在なのですから!」


アルカーナの告げられた言葉にカリアの我慢していた怒りが徐々に増長し始めていく。


「それじゃあ、北宮が暴走して悪霊化してもいいというの? 私たち、死神の役目は死んだ人間の魂が悪霊化しないように防ぐためのはず。なのにそれを見過ごす気なの?」

「あの男が暴走しようが自らが望んで進んだ選択なのでしょ? なら、私たちが責任を背負う義務はないわね。人間界で魂が悪霊化しようとも、私たちには関係のない話。私たちは頃合いを見計らって撤退すればあの男はもう用済みってわけよ」

「やはり今のあなたをこのまま活かしてはおけないようですね………。今ここで、私はあなたを倒します!」

「私から最終通告はしたつもりよ。それでも引かないのなら………あの時の惨状のように、死ぬといいわ!」


カリアが鎌を構えて戦闘態勢に入ると同時にアルカーナも自分の杖を手に取った。

ルーカとウルファナ、カリアとアルカーナによる死神同士の戦いが幕を開けたのだ。


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