第21話エリートの過去ー2
何とかホテルへと戻った俺たちは突然の爆発音に一斉に窓の外へと目を向ける。
窓の外から見える光景は、さっきまでいた交番が大きな火柱を立てて燃えている。
それを騒然とした様子で眺めている野次馬、そして必死になって消火作業する消防隊たちの姿。
「さっきまで私たちのいた交番が爆発してる………」
「あと少し出るのが遅かったら俺たちもあの爆発に巻き込まれていたわけか。結果的に神武羅の判断は間違ってなかったわけか」
音山の言う通り、もし後10分程出るのが遅れていたら俺たちは爆破の餌食になっていたのかもしれない。だがこれに関しては偶然、奇跡的に爆発に巻き込まれずに済んだわけではない。
その理由はすぐにわかる。
俺たちが爆発した現場に目線が集まる中、静かに部屋のドアを開ける音。
ドアの音に気付いた音山が振り返ると、そこには黒いフードを被った見かけない顔の男の姿。音山は狼角の手先だと断定し、男の方に銃を向ける。
「だ、誰だ、お前! いきなり部屋に入ってくるんじゃねぇ!」
音山の気迫のこもった声に俺とカリアも目線を後ろへと向ける。
そこには俺とカリアにとってはもはや顔馴染みに近い存在の男の顔だった。
「お、来たか神崎。お前も無事な様子で少し安心したぞ」
「神崎………? これが神武羅の言っていた男なのか?」
「そうだ。元は帝明会にいたんだがこの状況だと神崎自身の命も危なかったからな。俺が指示して避難させたんだ」
音山は俺の知り合いだと確認し終えると、構えていた銃を降ろす。
これで戦いに向けた最低限の戦力は揃った。
後は極力、帝明会にバレないように確実に準備を整えるだけだ。
「神崎、ちゃんと実行通りに動いてくれたんだな」
「あぁ。まさかお前がこんな事を思いつくなんてな」
神崎が少し驚いている表情をしているのも無理はない。普通に考えて、今の帝明会が事件関係者である神崎をあっさりと野放しにするわけがない。何らかの命令を聞いた状態じゃなければ駒として動かさないことも考慮して上でホテルに避難してもらった。
重要になってくるのは、命令して動くための駒として神崎には動いてもらう必要があったことだ。
「実行通りってお前まさか……」
「その様子だと俺の意図を察したようだな。本来なら、音山にはもう少し落ち着いた後で話すつもりだったんだが___。さっきの交番を爆破させたのは俺が神崎に指示したことだ。帝明会の目をくらませるためのな」
「おいおい………! 勘弁してくれよ~! まさか俺の交番先を意図的に爆破させるなんてよ! 俺の勤務先木っ端微塵じゃねえか!」
音山は一転して悲観した様子で俺に駆け寄る。
本当のこと言えば、音山の担当している交番を爆破なんて真似をしたくないのは当然だ。だが神崎が俺たちを交番に入るタイミングで爆破するという名目で動かすのが違和感なく外に動かせる最適な方法だと考えた以上は多少の犠牲は止む終えなかった。
「確かに順太に無視して自分の交番を爆破したことは謝罪する。だが最低限の配慮として俺たちが完全に爆破に巻き込まれず、なおかつ誰も交番前を通らないタイミングで神崎には爆破してもらった。結果的には怪我人は0で済んでいるのがせめてもの救いだ」
「まぁ、これ以外で方法が見つけられなかったって言うなら俺も強くは言わん。そりゃ仕事場を勝手に爆破されたことに怒りがゼロじゃないのは事実だが、俺も警察の人間でありながら今こうして
音山の今の言葉は本音ではなく、建前で言ったのかもしれない。ただそれでも、今こうして感情的に怒らずに冷静に現実を見ている姿は、どことなく冷静な警察官らしさを感じさせる。
「でもよ。帝明会と戦うのは別に構わないが証拠はどうするつもりだ? 今の話だって100%本当だという確証もない、かといって絶対的証拠も持ち合わせているわけではない。これじゃあ、戦うことになっても逃げきられるんじゃないか?」
「確かに。俺が帝明会にいたからこそ感じているが唐岡大総裁が殺されて北宮がトップになった今、半端な状態だと権力に握りつぶされるのがオチだぞ」
音山と神崎の言う通り、帝明会は日本が誇る警察機関の中でもトップクラスの権力を誇る組織だ。一筋縄じゃいかないのは素人目に見てもわかる。
だが、権力に握り潰されるぐらいなら犯罪を見て見ぬふりをする方がいいというのならそれは言語両断だ。ましてや警察組織でもあろうものが人殺しをしていたなんてことは裁かれなければならない。それが今現時点で真実かウソかわからなくても、黒い影が潜んでいる可能性が捨てきれないのなら相手が巨大組織であっても真相を明るみに出さなければならない。
それが国を揺るがすものだとしてもだ。
「帝明会、北宮が殺人に手を貸していた証拠を見つけれていない事実はある。だがそれを盾にして見過ごしておけば行きつく先は戦争だ。これ以上、組織や国の権力の都合で関係のない人間を消され、苦しむのを見て見ぬふりをする方がよっぽどの悪だ。それが嘘かどうかわからないのなら、俺たちの手で真実を明るみに出せばいい。白か黒かどうかを表に引きずり出せるのはもう俺たちしかいないのだからな。それに、帝明会や北宮だってもし本当に黒い噂に関与していないのならこんな邪魔者を排除するなんてめんどうな真似をせず、素直に調査なりに応じてやればいい。毅然とした態度で白であることを証明できれば黒い噂もその内消えるはずだからな。だがその選択をせずに、排除に動いている時点で何かを隠したいという意図が透けて見えている。疑惑が完全に晴れないうちは俺たちが真正面から戦って本当の真実を明るみに出す以外に平和になる方法はない。それが例え、帝明会の崩壊になる結果だとしてもな」
「確かに、花巻君の言う通りでこれ以上一般に人々が消されていく様を見せつけられるの私は嫌だな~。だってそんな理不尽で悲しいこと、簡単に受け入れられないよ。それに、自分と同族である死神が人間世界の殺人に手を貸してるなんて話、見過ごせるわけないでしょ?」
俺とカリアの考えに、音山と神崎は少し苦笑いを浮かべながらもはっきりとした口で答える。
「そうだな。俺は権力に対する恐怖ってのがあった。だが神武羅の話を聞いて原点を思い出したよ。警察官として犯罪に手を染める人間をみすみす見過ごしてはおけない。ここまで来たのなら俺も本気で戦うぜ」
「俺もそこの警察官と同じ意見だ。自分の恩師でもある人間が2度も大人の都合で殺されておいて、しかもそれが闇に葬られるのは俺としても、救ってくれた鷹留さんや唐岡大総裁にも顔が向けれない。俺は自分を拾ってくれた恩師のためにこの拳で巨大な闇と戦う! 血を流すのではなく自分の拳でな!」
これでここにいるメンバー全員の帝明会との戦いに向けた覚悟を決めたようだ。
正直なことを言えば、絶対的権力者を相手に真正面から立ち向かうことに恐怖がないわけじゃない。それでも、戦うしかない。
これ以上は阪村のような関係のない人たちが殺され、悲しむ姿はもう見たくないのだ。
「決意は決まったな。決起は1週間後。それまでは帝明会にバレないように準備を進めておけ。俺たちが絶対に死なないという保証は残念ながらできない。だからこそ、後悔のないようやれることはやっておけ」
「おぅ!」
「了解!」
「は~い!」
3人の威勢のいい返事が俺の耳にはっきりと聞こえてくる。
そのおかげか俺の心も少しばかりの落ち着きが出てきた。
その落ち着きが、仲間が出来たことによるものなのかどうかはまだ今の俺にはわからない。
その後、俺たちは帝明会に気付かれずに準備等を着実に進め、時は1週間が経ち、いよいよ帝明会との戦い当日を迎えた。
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