第14話初めての友達ー3

久々に感じるこの高揚感。

自分の中では血を流し合うことは嫌いなのに、こうしたワクワク感が勝手に滲み出るのはもはや自分の体に染みついて離れないからなのだろうが。


「さぁ。俺はいつでも準備はできてるぞ。来るのならさっさと来い!」


俺は挑発の意味も込めて、狼角の下っ端たちを煽る。

すると見事なまでに馬鹿にされた狼角の下っ端たちが顔を真っ赤にしながらなりふり構わずに俺に向かってきた。やはり所詮は犯罪組織の下っ端。

煽り耐性が極端に低く、明らかな感情任せの攻め方はあまりに脆い。

一斉に攻めかかってくる狼角の下っ端たちの攻撃を難なく退ける。確実に殺すことはせず、的確かつ絶対に気絶させる場所を狙って一人ずつ正確に気絶させていく。

昔の俺なら、ここにいる下っ端たちを全員皆殺しにしていただろう。その頃と比べたら俺も少しはマシな人間になったのかもしれないと感じる。

相手を確実に気絶させつつ、本気で殺しにかかる相手には強烈な蹴りとパンチを食らわせた。そうこうしている内に、100人近くいた狼角の下っ端たちは半分の50人まで減っていた。

最初は威勢よく感情任せに向かって来ていた狼角の下っ端たちも俺の実力を見せつけられたことで勢いを失いつつあり、前に出づらい状況になっていた。


「な、なんだ、こいつ………。つ、強すぎる!」

「手数と武器の量を考えたらこちらが圧倒的に優勢のはずなのに___! ば、化け物かよ___」

「どうした? その程度か? 数だけ揃えておいてこの程度は情けない様だな」


もう一度狼角の下っ端たちを煽る。それでも、さっきとは違ってすぐに感情的になることはない。そんな中、下っ端の一人が感情任せに持っていた銃を向ける。


「ふ、ふざけるなぁーー!」


情に任せて大声で叫びながら、俺に向けて躊躇なく引き金を引いた。

突然の発砲にも俺に迷いはない。放たれた銃弾の軌道を瞬時に把握し、すぐさま回避する。

その勢いで銃を持った下っ端に近づき、そのままグーパンを食らわせた。


「ぐはっ………」


グーパンを食らった下っ端の男は苦しそうな声を挙げながら地面に倒れ込んだ。

人に向かって発砲してきたんだから殺さなかったんだけむしろ感謝して欲しいものだ。

明らかに戦意を失いつつあった狼角の下っ端たちを今度はこっちから攻めに転じる。

もはや、戦士喪失した相手はもはや雑魚処理と変わらない。

俺は的確に意識を失わせていきながら、持っている武器相手にも軽快に処理をしていく。気が付けば、あれだけいた狼角の下っ端たちの数はあっという間に10人以下にまで減っていた。相手が弱すぎることもあるが、これは思っていたよりも早くに片付きそうだ。


「残りは数える程度か。さっさと終わらせて、阪村から話を聞かないとな」


俺は阪村の部屋の方へと視線を向けると、阪村の部屋に灰色のローブを着た謎の人物が入っていく姿が目に入った。俺はとても嫌な予感がした。

このタイミングでわざわざ阪村の部屋に入っていくのは狼角の関係者以外はあり得ない。つまり、この状況の中で阪村の部屋に入った人物は阪村を消そうとしている可能性があったことを示唆していた。

もしこの予想が当たっているのなら、阪村から聞ける貴重な情報源を潰されることに繋がる。


「くそ!」


阪村から与えられた試練をやっている暇ではないことを察知し、残り10人程度の狼角の下っ端を一旦無視し、一目散へと阪村の部屋へと向かって行く。


「阪村! 大丈夫か!?」


俺の決死の叫び声と共に目に映ってきたのは阪村が灰色のローブの人物に短剣で突き刺されている瞬間だった。

俺がドアを開ける音に気付いた謎の人物は両手に持っていた短剣の内、左手に持っていた短剣を口にくわえ、瞬時に左手に銃を持ち替える。


「こいつ………!」


拳銃を俺に向けたのに対抗して隠し持っていた銃を謎の人物へと向ける。

しかし、こっちが引き金を引くよりも先に謎の人物の方が先に引き金を引かれていた。

放たれた銃弾は俺の左肩付近に命中する。


「ぐっ!」


撃たれた直後、俺が撃たれた左肩に目線が動いた一瞬の隙に、謎の人物はとどめの一刺しを阪村にした後、近くにある窓から忍者のように飛び降りた。

俺が慌てて謎の人物を追うべく窓際に来た頃には謎の人物の姿は忽然と消えていた。

追うのを諦め、すぐに阪村のところに駆け寄る。刺されたところからはかなりの量の血が流れていて一刻も早く手当てをしなければ死ぬ可能性が高かった。


「しっかりしろ、阪村! 待ってろ! 今すぐ救急車呼んでやるから! ここで死んだら真実が闇に消えてしまうんだ!」


俺が大急ぎで携帯電話で救急車を呼ぼうとするのを阪村が弱った右手で制止させた。

このまま救急車を呼ぶのが遅れれば、間違いなく阪村は死ぬ。阪村から狼角と一連の事件に関する事件の話が聞けないまま、あっさり見殺しにするわけにはいかないのだ。


「いい………。呼ばなくて、いい___」

「お前、その傷で正気か? このまま少しでも遅れたらお前は助かすからないんだぞ!」


このまま阪村をここで死なせるわけにはいかない。それは事件解決のための鍵としてでもあり、初めて出会った親友の人生を終わらせたくないという気持ちが入り混じっている。

あの時と同じだ。自分の不手際のおかげでまた一つ大切なものを失っていく………。

もうそんな縛り付けられた運命はもうこりごりだ。

これ以上の罪なき犠牲はもう誰も望んでいない。いや、俺が望まない。

例え阪村がこのまま死ぬことを望んでいても、俺は助けるための最善を尽くすために否定する。

それでも、阪村の手が俺の腕から離れることはなかった。

どんなに必死に振りほどこうとしても、阪村の手はまるで残りの命を全て右手に持っていっているような強い覚悟が伝わってくる。


「いい加減にしろ! もう時間がねぇのにどうしてお前はそう死のうとするんだよ!」

「………もういいんだ。遅かれ早かれ____形はどうであれ、僕は殺される運命なのだから………」

「どういう意味だ⁉ どこの誰に殺されるつもりだったんだ? そして今さっき阪村を刺して出ていったあいつは誰だ?」


俺は切羽詰まった顔つきで阪村に問いかける。

阪村を刺して窓から出ていった謎の人物は間違いなく阪村と接点のある関係者だ。

正直なことを言えば、阪村から聞きたい情報は山ほどあるわけだがその全ての質問をぶつけていられるほどの時間の猶予は残されていない。ならばせめて、鍵となってくる情報を頭の中で厳選していくしかない。

連続して聞かれる質問に、阪村は最後の力を少しずつ出していくように話し始める。


「ついさっき___僕を刺したのは_____僕が契約していた死神だよ」

「何だと? どういうことだ!」

「詳しいことは___僕にもわからないけど………。それでも、刺しに来た目的ぐらいは推測、できるよ」

「それは何なんだ? 阪村!」

「帝明会に行けば………全てがわかる………! 警察内部に、狼角と死神と繋がっている人間がいるんだ___! そいつは、帝明会の崩壊を狙って___いる。裏で狼角と死神を利用できて、帝明会の存在が気に入らない人間___その人が一連の事件の真の………黒幕だ___」


阪村は徐々に言葉を強くしながら具体的な黒幕の内情を語る。これで半信半疑だった狼角、死神、そして警察内部………この三つが点と点とで線となって繋がった。

具体的にどう繋がっているのかまではわからなくても、狼角と死神が繋がっていることを知れただけでも収穫はあった。

阪村の口ぶり的に誰が黒幕までは分からない様子だが元々、ただのサラリーマンだった阪村から事件の真相全てを知ることはないと考えていたので想定内ではある。


「………そろそろ___時間のようだな___」


ふと阪村が薄ら笑みを浮かばせながら意味深に語る。


「どういう意味だ?」

「すぐに___わかるよ」


阪村の言葉通り、部屋の外から何か車が近くで止まる音が耳に入ってきた。

その直後、聞き馴染みのある声がまた耳に入ってくる。


「花巻君! そこにいるんでしょ? 早くこっちに来てくれる~⁉」

「カリアか? なんでここに来たんだ?」

「呼ばれて………いるんだろ__? なら………早くいった方が………いい」


阪村は徐々に遠くなりかけている意識を何とか保ちながら俺に話しかける。本当なら、阪村から目を話したくないがカリアの言い方的にかなり早急を要する可能性があった。

だからこそ、阪村とはここで最後の別れになるのは必然的運命だったのかもしれない。


「阪村」

「な、なんだ………?」

「最初になれた友達、いや親友だからこそ言わせてくれ。俺の、最初の友達になってくれてありがとう。これはこの先、一生忘れることのない感謝の気持ちだ。じゃあな。そして、さようなら。阪村」


本当はもっと言いたい言葉があった。それこそ、ここでは言い切れないほどの感謝の言葉の数ほどにあった。でもそんなのを阪村は望んでいないことは俺が一番知っている。

だから、シンプルかつ素直な言葉に今までの感謝を込めた。人とほとんど接してこなかった不器用な俺を阪村は変えてくれた。

最後の別れは悲しいものだったが今は悲壮感に浸っている場合じゃない。

だからこそ、俺は阪村が死んだことで涙を流しはしない。もうあの時とは違うのだから。


 俺の姿が完全に見えなくなるタイミングを待っていたかのように先ほど阪村を刺した灰色のローブを着た死神が姿を見せた。

自分の背後にいる元契約した死神を相手に阪村は少しばかりの苦笑いを浮かべる。


「………やっぱり隠れていたんだね。ウルファナさん」


死にかけの阪村を冷たい冷酷な青い眼差しで見つめているウルファナ。

死神というよりも人を殺し慣れた殺し屋の雰囲気を感じさせる。


「さっきは完全に殺し終わる前に邪魔が入ったから身を隠しただけ。邪魔がいなくなった今、後はあなたを始末すれば終わる」


ウルファナは両手に持つ短剣を阪村の首に近づける。瀕死に近い阪村はもはや抵抗する様子はない。


「わかっているよ。もう僕に後悔はない。殺すのなら楽に殺してください」

「………なぜあなたを裏切った私に対して殺意が湧かないの? どうしてあなたは他人に悪意や憎悪をもたないの?」

「憎悪ね___。僕は今までずっと___善人だと思ったことは一度もないよ。本当に善の心を持っているのなら___ウルファナみたいな死神と契約を結んだりするような真似はしないからね………」


阪村の顔つきは徐々にすがすがしさも出始めていた。

阪村にとっては良いことも悪いこともたくさん経験した人生という地図は道半ばで終わることになるのに、その顔には悔いのないいつもの阪村の顔だった。


「そう……最後に言い残したい事があれば聞いてあげるけど何かある?」

「そうだな……僕にとっては中途半端な善意を持つぐらいなら完全に闇に染まった悪人になりたい人生だったよ。それが………僕にとって唯一の未練だね」


阪村はこれまでに出会った人たちの顔を浮かべる。その中にはもちろん、俺も含まれていた。


「そう。それじゃあ、さようなら」


ウルファナは阪村の最後の言葉を聞き取ると、躊躇なく短剣で勢いよく首を掻き切った。

阪村の息の根を止めたウルファナはピクリとも動くなくなったのを確認し、再び闇の中へと消えていった。

一方で血だらけの阪村の顔は少しの後悔のない満足げな表情になっていた。


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