第4話帝明会
依頼人の神崎を事務所に招き入れ、早速依頼についての話を始める。
「神崎さん。早速依頼についての話に行きたいところだがその前に一つ、聞かせてください。神崎さんが俺に依頼をしてきたのは3カ月前だったが、なぜ今日になるまで引き延ばしたんだ? そんなに遅れるならわざわざ3カ月前から俺に依頼を頼む必要はなかったはずだが」
隠し事は一切抜きで俺は単刀直入に聞く。
3カ月前に依頼してきたのにも関わらず今日まで具体的な話を話さなかったのはどう見ても明らかに不可解だ。まずはその理由を聞かないと話が進まない。
「まぁそう焦るなって。順を追ってちゃんと話していくからよ」
俺が足早に質問するのを制止するように神崎が少しばかりの苦笑いで制する。そして今度は苦笑いから一転して真剣な顔つきに変わり、両肘を机につけてゆっくりと語り始めた。
「まずは今回の依頼内容からだな。俺からあんたらに依頼したいのは、ある組織を潰してほしい」
「ある組織?」
「あぁ。その組織っていうのは『
「狼角………小耳に程度にしか挟んだことはないが一応は。だがなぜ『狼角』を?」
「結論から言ってしまえば俺がわざわざ3カ月後にまで引き延ばしたのはその狼角の情報集めをしていたからだ。そしてその結果がこれだ」
神崎はポケットの中から2枚の写真を取り出す。写真の内容は悲惨なまでに斬り殺された男性の遺体の写真。
「これは?」
「順を追って話していく。この見る絶えないほどの残酷に殺された遺体の写真だが、この遺体は俺の所属する
俺は神崎に聞かされた事件についての記憶を慎重にめぐり寄せていく。確か、この事件は関東で起きた事件だったはず。神崎が所属しているという帝明会も元はといえば、関東のヤクザ組織が警察によって治安部隊化されたものだったはずだ。それがなぜ、わざわざ関西にまで来て、それも全く無名に近い花巻探偵事務所に事件に関する依頼をしてきたのか。そして、それが狼角とどう関係しているのかが全く掴めない。現時点ではあまりに謎が多く、中々光の道筋が見えてこないのが俺の考えた現時点での結論だ。
「詳しく知っているわけじゃないがニュースでは見た。そもそも、この事件は関東で起こった殺人事件だったはず。警察でもお手上げの事件ならば、関東にいる俺以外の探偵事務所にでも依頼すれば良かったはずだ。それをわざわざ関西にまで来て、しかも知名度が皆無に等しい俺に依頼してきた理由はなんだ? 話の先が見えてこない」
俺の正直な質問に神崎はしばらくジッと天井を見つめた後、素直に口を開いた。
「そうだな。俺がお前さんに依頼した理由か___。確かに関東の有名な探偵事務所なら、
神崎が俺の聞きたいことを絶妙に隠している言い方ではあるが、それでも、現時点では神崎は俺に一定の信頼はおいている様子だ。依頼主が俺に信頼感があるかどうかはさして問題があるわけではないが、こちらを信頼してくれているのならそれに越したことはない。
そんな中、神崎と俺との会話をずっと黙って聞いていたカリアが何かに気づいた様子で舛田の遺体の写真に指差しながら話し始めた。
「ねぇ。神崎さん……だっけ? この殺された舛田さんの斬り口、人間世界のものじゃないと思うよ」
「ほぅ? それはどういう意味だ? お嬢さんよ」
「この斬り口、一見したら刀によるものだと見えるかもしれないけど、それにしては傷口が深すぎるのがどうも変に見えてね」
「プロの殺し屋なら、そこら辺は問題なく、かつ手際よく済ませるんじゃねえか?」
「もし本当にプロの殺し屋がやったのなら、刀を使ってわざわざ腹部を狙って殺す必要はない。首付近をきれいに狙って斬ったりしていたら、血がこんなにもド派手に飛び交うことはなかった。プロの殺し屋が証拠を残す可能性があるような真似はしないと思う」
「つまりはどういう意味だ? 話が見えてこないな」
「私が言いたいのは、人間が殺したものじゃないってこと。人間が殺したように見せた犯行ってことだよ」
カリアの予想だにしない発言に俺と神崎は不意を突かれたような表情になった。
特に『狼角』の人間による犯行だと思い込んでいた神崎は軽く動揺が見受けられる。
カリアの考えに神崎は苛立ち気味の様子で反論し始める。
「おいおい! そりゃあどういうこった? 人間による殺しじゃない手口って………全く意味が分からないぞ!」
「そんなすぐに結論を急かさないで。ちゃんと理由も話すから。先に言ってしまうとこの舛田さんは私と同じ、死神の仕業ってことだよ」
カリアから『死神』という言葉に神崎はまたも動揺を隠さずにはいられない。
一方で俺は、すでに死神がこの世界に存在していたことをカリアから聞かされていたのでさほど大きな驚きはない。むしろ、死神が人間を操ってではなく、自らの手で人を殺したことの方が俺にとっては衝撃だった。
「花巻君はそんなに驚いていないようだね? 予想してたの?」
「まぁな。流石に死神自らが殺しをしていたのは予想できなかったが、何となく死神が関与していることぐらいは気づいていた」
「さっすが! やっぱり探偵を名乗っているだけのことはあるね。多分だけど、舛田さんは誰かが死神を利用して鎌を使って殺害した。これはつまり、死神という現代社会では絶対に存在しないはずの化け物が殺人を起こしたとなれば、警察は犯人を捕まえようがなくなる。だって死神に指示をした人間は全くといっていいほど手を汚していないのだからね。それに、死神が人殺しに手を貸したなんて話、ほぼ100%信じるわけないよね」
カリアの言葉にこの事件の謎が全て含まれていた。カリアの言う通り、これがプロの殺し屋による犯行ならあまりに手口が雑過ぎる。素人の犯行なら既に警察が犯人を特定していてもおかしくない。
証拠も全く残さず、かつこの世界には存在しない武器での犯行となればそれが出来るのは死神しかいない。
死神であるカリアが『死神よる犯行』と断言しているのだから、嘘を言っている可能性も低いだろう。
「神崎。一つ質問いいか?」
「お、なんだ?」
「神崎は犯人の犯行は『狼角』の人間だって言っていたけどその根拠はあるのか? 3か月もかけて調べていたわけだから、何か余程の理由がなければ『狼角』なんて犯罪組織の名前は出てこないはずだ」
ここで俺は神崎が『狼角』を追う理由を聞き出す。舛田の死が死神による犯行だとわかった上で聞くのは、死神と『狼角』の接点などが浮かんでくる可能性が0ではないということもあった。
「俺が『狼角』を追っている理由は元々、帝明会は『狼角』と対立状態だったからだ。舛田が殺される前からな。帝明会は表向き世間一般的にはヤクザとして知られているが、実際は町の治安を守るために動くいわば『警察公認の治安部隊』と言ってくれたらいい」
「なるほどな。確かに俺が東京にいた時から帝明会に関する悪い噂はあまり聞いたことがなかった。だがそれがどう『狼角』と繋がっていくんだ?」
「狼角は世間にはほとんど表向き知られていない犯罪組織。いわば俺たちとは真逆の存在。はっきり言ってしまえば遅かれ早かれ、狼角を潰す必要があるのは事実だ。帝明会と狼角が対立しているのはそれが根本にある。それが本格化するきっかけになったのが舛田の殺害になったわけだ。詳しい事情はいずれ話すが、とにかく今は舛田を殺した犯人は『狼角』の人間だという線で動いてほしい」
明確な理由をあやふやにされた感が否めないが、今は次に動く目標が定まっただけでも良しとしよう。
帝明会の人間である舛田が殺害され、その背後には犯罪組織『狼角』と舛田殺しの犯人とされている死神の影。これが今後にどう繋がっていくのかは、今はまだわからない。
それでも、いよいよ本格的な死神の関与する可能性のある殺人事件の捜査が始まっていくことになる。
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