第5話 一流の情報屋ー1
神崎の依頼内容を一通り聞いた俺とカリアは改めて、事件の整理を始める。
「最後に、今回の依頼、いや事件に関する内容をまとめる。神崎の依頼は同じ帝明会の仲間の舛田が何者かによって殺害された。その犯人は帝明会と対立関係にあった狼角によるもの。だが直接手を下したのは狼角の人間ではなく死神による可能性が濃厚………。これで文句はないな?」
「あぁ。正直、絶対的な確信や証拠があるわけじゃない。だが、元々このまま狼角を放っておく気はサラサラなかった。それが舛田の死によって皮肉にも、本格的に動き出す引き金になった。死神よる犯行も出てきた以上、あんたらも調査する価値はあるだろうしな」
これでとりあえずは今後の方針が決まった。一つは狼角と死神の関連性。そしてもう一つは狼角の全容だ。欲を言えばもっと調べたいことはあるが今はこの2つが中心になっていくだろう。
「わかった。じゃあこの依頼は俺とカリアに任せる形でいいか?」
「いや、待ってくれ。今回の依頼は俺も、いや、帝明会も全面的に協力してもいいか? 今回の一件は自分の仲間が殺されたんだ。力になれるかどうかわからねぇが人手はあるに越したことはねぇだろ?」
ここにきて、帝明会が全面的に俺たちに協力してくれることになった。正直、俺とカリアの2人だけでは調査にも限界が見えていたのでここで日本最大治安部隊の帝明会の力を借りれるのなら願ってもいない話だ。さらに言えば、この依頼で一定の成果をあげることが出来れば、何でもない細い1本の糸が、一気に太く複数本の糸へと様変わりするのだから今後を考える上でも協力することができるメリットもある。
「協力してくれるのならこっちは非常にありがたいが、いいのか? 俺たちから頼んだわけでもないのに」
「構わねえよ。いざという時は互いに助け合うのが筋ってもんだろ? こっちも仲間が殺されて放置されっぱなしなんて見過ごせるわけがないからな」
「そうか。なら、よろしく頼む」
これで俺とカリア、そして神崎のいる帝明会との協力関係が成立した。
頼もしい仲間が増えたことは俺にとっても非常にありがたい。
「おっと。そろそろ俺は時間だ。今後の連絡はメールで頼む。今日は改めて依頼を受けてくれたこと感謝するぜ」
神崎はカリアが用意してくれた紅茶を一気に飲み込み、その足でスタスタと帰って行った。振り返って手を振ることはしなかったものの、右手は軽く上げて『サヨナラ』と言っているのはすぐにわかった。
残った俺とカリアは早速、依頼の殺人事件について調査に入っていく。
「さてと。依頼の内容も聞いたことだし、早速仕事にかかるぞ。カリア」
「でも、仕事にかかるってどうするの? 狼角に関する情報は犯罪組織だということ以外の情報はほぼないのにどうやって調べていくの?」
カリアの言ったことはまさにごもっともだ。こんなほとんど手掛かりもない状態で事件を調査するなんて、普通なら情報一つ取ることすら途方もない苦労をするものだが、これに関しては大丈夫と言える理由があった。
「それに関しては心配しなくていいぞ。俺の知り合いにとっておきの情報屋がいるんだ。そいつに聞けば、狼角に関する情報を持っているかもしれないからな」
「へぇ~。意外だね。花巻君はずっと一人で探偵業やってるんだと思ってた」
「俺一人だと早々に法のラインを余裕で超えるからな。それに、俺が大阪に来た時に色々世話になってくれた数少ない恩人だよ」
その情報屋は、間接的な花巻探偵事務所の協力者でもあり、交友関係の少ない俺にとっての数少ない気軽に話せる相手だった。
「カリア、早速準備しておけ。すぐに情報屋の所に向かうぞ」
「はーい」
俺とカリアは足早に出かける用意を済ませ、事務所を出る。
こうして仕事のために、何度も事務所と外を行ったり来たりするのは随分と久しぶりのような感覚だ。
事務所を出てしばらく歩いたところにある2階建ての家に着く。
「着いたぞ、カリア。ここだ」
「隠れた場所に住んでいるのかと思ってたけど意外に立派な家に住んでるのね」
「そりゃあな。なんせあいつは超が付くほどの天才だからな」
俺はチャイムを鳴らすと、それほど時間を待たずに若い女の子の声が聞こえてくる。
「はーい」
「よぉ。久しぶりだな佳奈。急で悪いけどちょいと調べてもらいたいことがあるから入れてもらえるか?」
「もぉ! 何回事前に連絡しとっけって言わせるねん! まぁええわ。とりあえずは入りや」
関西弁と共に威勢のいい声がしっかりと耳元に入ってくる。それほど時を待たずにしてドアが開く。そこには、赤色のきれいな短めの髪をした女の子が勢いよく出てきた。
「久しぶりやな~! 神武羅! お、そこの女の子がつい最近探偵事務所に入ったというカリアちゃん?」
「もう私のこと知ってるなんてすごいですね。私はカリア。これからよろしくね」
「よろしくな~! うちは
この様子だと、対立したりすることはなさそうだ。
相変わらず姉妹の仲が良くないのはもはや水宮家の伝統文化だが。
水宮の家に入ると、そこは他を圧倒する豪邸とまではいかないがそれでも十二分に立派な2階建ての家に住んでいることもあってか、新築並みにきれいにされていた。
佳奈は自分の部屋に俺たちを迎え入れる。佳奈の部屋は、10台近いモニターと7台パソコンとキーボードがある。流石は天才かつ一流の情報屋なだけのことはあって常に最新の情報を手に入れることに余念がない。
「相変わらずすごい数だな。毎回ここに来るたびにこんなにもいるのかと感じるよ」
「言っておくけど、これでもまだ全然足りてないほどやからな~。また新しく、後3台は買い足さなあかん」
やはり金持ちの言うことは俺には理解できない。いや、天才のやることは頭で理解するものではないと言った方がいいか。
「さーてと。それで? うちに用があってここに来たんやろ?」
「そうだ。早速本題に入ろう。佳奈、俺は神崎という依頼主から『狼角』という犯罪組織についての情報が欲しい。今からでもいいから調べてくれ」
「狼角ね~。はいよ! うちが調べるからちょっと待っとき!」
乗り気な様子で佳奈は早速、大量のパソコンとモニター、そしてキーボードを駆使しながら操作を始めた。相変わらず人間とは思えないほどの驚異的なスピードで文字を打ち込んでいく。打たれる文字を全て瞬時に頭に記憶をしながら、狼角に関する情報を引き出そうとする。傍から見ていたら、何をやっているのかさっぱりわからない。
ふと、俺は佳奈がなぜ、カリアのことを知っていたのか気になったので聞いてみた。
「そういえば、ふと思ったのだが佳奈はどこから俺とカリアが知り合ったことを知ったんだ?」
「あ~。うちは関西、いや日本中のありとあらゆる情報を探し続けてるのは知ってるやろ? そん時に偶然、カリアちゃん、いや、死神に関する興味深い情報を見つけてな。それを調べていくうち、つい先日、神武羅とカリアちゃんが接触したところまでたどり着いたってわけや!」
どうやら佳奈はカリアが死神だということも死神に関する情報も既に知っている様子だった。元々、怖いくらいの情報収集力を持っていたとはいえ、毎度感心させられる。
「カリアに関する興味深い情報って?」
「まぁまぁ。そんな焦らんでも情報は逃げへんて。それも含めていずれちゃんと話すやんか。お、そんなん言うてたら情報あったで!」
佳奈はワクワクした様子でさらにキーボードを打つ速度を上げた。
流石は超一流の情報屋と自分が名乗っているだけのことはある。
「どんな情報だ?」
「え~っと。狼角は関東地方を拠点としている犯罪組織で、その内容は詐欺や傷害などはもちろん、一部では殺しなども請け負っているそうや。でも、そのあまりの一線を越えたやり方に5年前に一度、警察に襲撃されて以降はそのまま監視されているそうやねんて。要するに今は下手なテロに近い犯罪はできへんってことやな」
佳奈の言い方的に、狼角が神崎の言っていた通り犯罪組織だということは間違いなさそうだ。そして、一度警察の手によって現在は下手に動ける状態ではないということもここでわかった。
だがここで一つの疑問が浮かび上がった。
「その話が本当なら、今回の殺害はなおさら疑問が残ることになるな。警察に目を付けられているのに殺人、それも警察の手がかかっている帝明会の人間を殺すなんていう火に油を注ぐような真似をするか?」
「気づいた? うちも神武羅とおんなじ意見やで。警察から監視されている狼角がリスクを冒してまで警察が編成した治安部隊である帝明会の人間を殺す必要があったかといえばないな。下手をすれば、今度こそ組織そのものが潰されかねへん。でも、それでも手を下したということがどういう意味かわかるやろ?」
「あぁ。そのリスクを背負ってでも暗殺をしたということはそれ相応の対価があったということだろう」
「当たりや! つまりは狼角が単独ではなく、誰かが裏で糸引いた形で帝明会の舛田を殺した………という線が濃厚やろね」
真偽のほどはともかく、狼角が舛田を殺した理由の筋は通っている。だが、これが本当ならば、舛田を殺された時点で狼角に調査が入ってもおかしくはない。
しかし実際は、警察は調査をするどころか大した調べもせずにあっさりと調査を打ち切った。監視していた狼角が殺人を起こしても、警察が対して調べをしなかったのは不自然だと感じるのが普通だ。
「まぁ今の話は所詮、うちらが作り上げた仮定の話。真実を知るんやったら、やっぱり東京に調べに行ってみないわからんな。帝明会も狼角も拠点が東京なのはうちの調べで出てるし。まぁ神武羅にとってはあまりいい思い出の場所じゃないと思うから、うちから無理強いはできへんけど」
佳奈は俺とカリアに事件現場である東京へ向かうことを推奨してきた。確かに事件現場から程遠い大阪では、調べようにも実のある情報を引き出せる可能性は低く、やはり事件現場のある東京へ行く方が事件解決の糸口は見つけやすいだろう。
佳奈の言っていた通り、俺は過去に殺し屋兼スパイとして大手企業に雇われていた過去があり、あまり東京にいい思い出がないのは事実。
それでも、自分の呪われた過去からずっと逃げ続けることはできない。
いずれは向き合わなければならない時が来る。
その機会が今この時なのかもしれない。過去の自分を完全に捨て切る時が。
「………わかった。行くよ。俺は東京に向かう。カリアと一緒にな」
「そっか。うちは安心したで。ちゃんと前を向いてるみたいで!」
「あぁ。それに、俺は向こうでやり残したこともあるからな」
「やり残したことって?」
「それはこっちの問題だ。佳奈が気にする必要はないさ」
これは依頼とは別に俺には東京でやらなくてはいけないことがあった。だが、それは俺個人の問題であって下手に関係のない佳奈やカリアを巻き込ませたくないという俺の本心でもある。
「そっか。ならうちが深く追及する必要はないな! じゃあうちが東京までの道のり手配しておいてあげるから今日はうちでゆっくり休んどき!」
「いいの? 水宮さんに苦労をかけるようで」
「ええねんええねん! それと、うちのことは佳奈って呼んでな!」
「そ、そう……。じゃあ、佳奈のお言葉に甘えて休もう!」
俺もカリアの意見に賛同だ。佳奈が泊まっていいと言ってくれているのだからここは甘えさせてもらう。佳奈とカリアの仲も少し近づいているのもいい兆候だ。
「そうだな。明日に備えてここに泊まらせてもらおう」
「そう来なくちゃ! うちの家は好きにしてもええから! うちはうちでちゃんと事前準備しておくし!」
「ありがとう佳奈。感謝する」
「どういたしまして~」
佳奈の協力の元、俺たちはいよいよ東京に向かって行くことになる。
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