第3話探偵としての花巻
突然目の前に現れた自分を死神と名乗った少女カリアとパートナーになった俺は、薄暗い夜道の中、カリアと共に花巻探偵事務所に帰ることになった。
その道中、俺は死神という存在についてもう少し詳しく聞くことにした。
「なぁ、カリア。『死神』という存在についてもう少し詳しく教えてくれないか? まだ『死神』という存在についてイマイチよくわかってないんだが___」
「う~ん。そうだな~………。死神って元々『死をつかさどる神』というのがざっくりとした言い方になるのかな。まぁ死神といっても、死神ごとで全く違ってくるから一つの結論としてまとめることはできないけどね。とにかく今は、死神は人間の死と直接的にも間接的にも関係している存在っていう認識でいいよ」
カリアの出した答えに妙に納得できないところはあるが、今はカリアの言葉をそのまま飲むことにした。
人間の死に直接関係しているところを聞けば俺と似たような部分はあるのかもしれないとふと頭の中で整理する。
電車に乗り終わり、花巻探偵事務所に着くと、いきなりカリアが衝撃的な発言をする。
「ほほう~。ここが花巻探偵事務所か。豪華な事務所なのかと思ったけど、どこにでもありそうな普通の事務所なのね」
大阪に移って以降、家同然として住み続けてきたこの事務所を普通なんて呼び方は俺の中では到底許されるものではない。
「おいおい。俺の生活場所としてもはや欠かせない場所となっている俺の事務所にケチ付ける気か? 文句があるなら事務所出禁にするぞ」
「冗談だよ。冗談~。とりあえず、ここが私たちの今後の本拠地になってくるわけね」
「俺の事務所だけどな」
いろいろ言いながらも事務所の中に戻る。
いつもと変わらない日常のはずだったのにどこか今日はとても時間が経過するのが遅く感じるのは俺だけだろうか。
そんなことを頭によぎらせながら、俺は寝床についた。
翌日____。
昨日久々に依頼をこなした影響か、今日は普段よりも1時間ほど遅く起きた。それでも、いつもよりも目覚めがいいのはすっきり寝れたからなのだろうか。
寝癖を直し、歯ブラシで歯を磨きながらソファーの上ではぐっすりと寝ているカリアを起こす。
「お~い、起きろ。もう朝だぞ」
「んっ~………」
眠たい目を何度もこすりながら、黒いパジャマが淫らになった状態でようやく目を覚ます。俺は別に何とも思わなかったが、もう少しで本当にポロリと見えてしまってもおかしくなかった。目は半開き状態で少しでも
「うぅ……朝は正直苦手だから起こすのは勘弁してほしいんだけどな~」
明らかに眠そうな声とあくびで答えるカリア。死神は元々朝に弱いのか、それとも単純に起きるのが苦手なのか。傍から見れば後者のように見えるが。
「おいおい勘弁してくれよ___。今日は朝から散歩がてらここら辺を軽く歩き回る予定なんだろ? そんな調子で大丈夫なのか?」
「ふぁ~………。わかってるよ。今すぐ準備するから少し待っててね」
パチンと指を鳴らすとあっという間に黒のパジャマ姿から昨日の可愛らしい黒いドレス姿に一瞬で様変わりする。
ここだけを見れば、死神というよりも魔法使いに見えるのは俺だけではないだろう。
「死神というのは便利なものだな」
「まぁね。使いようによっては人間にとってはそう感じるかもね。それじゃあ、早速出かけましょ!」
「はいはい」
俺とカリアは颯爽と準備をし終えると、事務所を出て外に出た。
外に出ると、いつも通りの日常風景でにぎわっている様子だ。
近くの商店街を回りながらのカリアとの散歩はいつもより周りが明るく見えていた。
「今日もいつもと変わらない普通の日常だな」
俺の目から見ればこの賑やかな人だかりはもはや見慣れた日常風景と何も変わらない。
だがカリアには、全く違って見えるようだ。
「いや………それはどうかな」
「それはどういうことだ?」
「あそこを見ていたらわかるよ」
初めて真剣な眼差しを見せるカリア。カリアの視線の先にはサングラスをしたイカツイ体格をした3人組のヤクザらしき男たち。
俺の目には別に特段怪しい不自然な動きをしているようには見えない。
だがその答えは、すぐにわかることになる。
ヤクザらしき3人の男が歩きながら携帯をいじっている会社員の男性に向かって歩き始め、懐からポケット型の小型ナイフを取り出した。同時に歩いていた歩幅のスピードが次第に速くなっていく。
「あいつら___。人目があるのに堂々と」
俺は未然に防ぐべく駆け出すのよりも先にカリアが瞬時に鎌を取り出して3人の男の方に駆け出していった。そしてカリアの目にはっきりと映っている黒い死神の子供のようなものを鎌できれいに真っ二つにした。
だが斬られたはずのヤクザらしき3人は全くの無傷である。
「お、俺たち、なんで手にナイフなんか持って………」
正気を取り戻したのか3人の男たちは困惑した様子で互いを見つめ合っていた。
一仕事を終えた様子のカリアが俺の所に戻ってきた。
「どう? 私の仕事ぶりは」
「あぁ。ここまで圧巻の仕事ぶりを見せられたら実力は認めるしかないな。さっきの行動を見た限りではカリアは人間に取りついている死神を殺すことが目的になるのか?」
「そういうこと! 私の目的は人間に取りついた死神をこの鎌で斬ること。まぁ今回はまだ、死神が子供段階だったこともあって事件を未然に防げたけど、これは滅多にないレアケースかな。大半の死神は成熟して既に事件を起こして手遅れの状態になっているのが普通だからね」
「なるほどな。つまりは探偵をやっている俺に、関連事件の解決と死神の排除を手伝ってほしいと」
「そうそう! 死神による被害をできる限り減らすことが今の私たちのやること。探偵はその手掛かり探しを手伝ってほしいの!」
カリアの目的と俺のやることをようやく理解した。
どうやら俺が思っていた以上に重大な仕事を任せられたようだ。
それでも過去の汚れていた時代と比べたら、数倍もマシだ。むしろ、未知なる道に進めるという高揚感さえ感じる。
「どうやら、探偵始めてから初めての大仕事になりそうだな」
「そうだね~。死神に取りつかれている人間全てが自分の意思なく利用されているわけじゃないからね。中には意図的に取りつかれた死神を利用する厄介な人間もいるよ。花巻君とはいずれそういう相手とも戦っていくことになるはずだから心しておいてね」
「マジかよ。気を抜くことは一切許さないわけか」
カリアの話を聞けば聞くほど人間の深い闇の部分が出てくる。どれだけ自分が人間の闇から目を背け続けても、それを覆い隠すように新たな闇が襲い掛かってくる。まるで人間社会の縮図を表しているようだ。
しばらく近くを散歩していると、時計の針は正午前を指していた。
「お、そろそろ悪くない時間だな。そろそろ一旦事務所に戻るぞ」
「了解! 昨日の寝る直前に言ってた依頼の話だよね?」
「あぁ。12時に事務所の所に来てほしいと言っている。十分に歩き回ったし、今から帰ればちょうどいいくらいだろう」
俺はカリアと簡単に仕事内容を確認し終えると、その足で一度花巻探偵事務所に戻ることにした。
依頼というのは3カ月ほど前にとある男性から一度話がしたいと依頼があったのだ。なぜわざわざ3カ月後まで依頼を先延ばしにしたのかについては依頼した本人にしかわからないのだが。
事務所前近くの所に戻ると、すでに依頼主と思われるサングラスをかけたガラの悪そうな男が事務所を眺めながらじっと待っている姿を見かけた。
「どうやら、あいつが今回の依頼主のようだな」
早速俺はガラの悪そうな男に躊躇いなく一言声をかける。
「あの~、すいません。あなたが今回、依頼を持ち掛けてきた
「ん? あぁそうだ。俺が神崎圭祐だ。お前が花巻探偵事務所の花巻神武羅だな?」
「そうだ。僕が花巻探偵事務所で、探偵をやっている花巻神武羅です。こちらは死神のカリアだ」
俺から紹介を受けたカリアはペコリと丁寧に頭を下げる。神崎は『死神』という言葉にしっくりと来ていないのか首を傾げていた。
「死神? なんだそりゃあ。俺がこの前ここに来た時にはそんな奴いなかったはずだが___」
「まぁそこら辺の話も後でちゃんとしますよ。とりあえずは僕の事務所内に案内しますね」
俺とカリアを先頭にして神崎を事務所の方へと案内する。
いよいよここから、本格的な『探偵としての花巻』が動き出すことになる。
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