第2話 死神の少女ー2

「お、お前が___死神?」

「そうだよ。私はあなたが探している正真正銘、本物の死神だよ!」


にわかには信じられない。俺の予想していた死神という存在からかけ離れすぎた女の子が自らを死神と名乗っていることに。

本物の死神が今こうして俺の目の前にいるということがそもそも、非現実的なのだ。


「すまないが___。正直、本当にお前が死神なのかどうか今も半信半疑だ。本当に死神だというのなら証拠を見せてくれると助かるな。周りの目が気になるというなら場所を変えてもっと人気の少ないところに変えてもいいぞ」


辺りは夜に入ったこともあって、流石に人通りもかなり少なくなっていた。だがそれでも、全く人がいないわけではない。『死神』というこの世界には存在しえない生物である以上、一目は極力避けた方がいいだろう。


「お気遣いありがと。でも心配ご無用だよ! 私が死神であるということを証明したらいいんだよね?」

「お、おぅ。そうだが………。一体どうやって証明する気だ?」

「それはね~………ほいっと! こんな感じ!」


女の子はパチンと指を鳴らすと、どこからともなく死神らしい鋭い鎌が女の子の手に渡る。

マジックでもそうそうお目にかかれないかいや、不可能に近いレベルの芸当だ。しかも女の子の持つ鎌は日本どころか、この世界にはとても存在していない完全に別世界の道具といっても過言ではないと感じさせる代物なのは俺でもすぐに察せた。


「…………にわかには信じ難いがどうやら本当に死神みたいだな」

「わかってくれたようで何よりです! では、早速なのですが私を花巻探偵事務所に入れてくれませんか?」

「え? は、はぁ? どういう意味だよ。いきなり死神を探せって言ったかと思えば、今度は花巻探偵事務所に入れてほしいって………。悪いが先に理由を教えてくれ」

「理由ね~。少し長めの立ち話になるけど、時間はある?」

「時間の方は気にするな。こっちは毎日24時間お暇状態だからな」

「そっか。なら心置きなく話せるね! まず、この世界にはね、死んだ人間の魂が憎悪や絶望といった負の感情が増大していくことによって、死神が作られていくの。で、その死神によって、次々にいろんな人が殺されてるの。要因は様々だけど、ほとんどが死神に取りつかれた人間が自分の意志と関係なく人を殺してしまうものが多いかな__」

「何? それは本当なのか? 死神が人間社会の殺人に関与してるなんてこと」

「まぁ全ての殺人がそうというわけじゃないんだけどね。でも死神の関係している事件はどれも警察じゃとても解決できないようなものばかりなんだよね~」


死神と名乗る少女の説明を一通り聞いて、俺の中には大体の結論がつき始めていた。


「なるほど………つまりは探偵である俺の力を借りることによって、その死神が関係している事件を解決してほしい………というわけだな?」


俺が出した一つの回答に少女はパチンと指を鳴らしながら、慣れているように右目をきれいに閉じながら自然とウインクする。


「ビンゴ~! あなたの言う通り、私と共に事件の解決をして欲しいの! 探偵として実績を挙げられる上にあなたの『汚れた過去』を挽回できるチャンスもある! どう? やらない手はないでしょ?」


どこか含みのある言い方なのが気になるが、それでも今はこの数少ない依頼を逃すわけにはいかない。


「わかった。その依頼とお前の頼み、引き受けよう。だが一つ聞かせてくれ。お前は『汚れた過去』と言っていたが俺の過去を知っているのか? 俺に関する話なんて知り合いでもほとんどいなかったが」

「う~ん。本当は最後に言うつもりだったけど流石に感づかれていたか~。まぁでも本当だよ。花巻君が過去に大手企業で殺し屋とスパイとして雇われていたことも知ってるよ」


少女は何の躊躇もなく、俺の過去をズバリと言い当てた。

心の内では薄々わかっていたが世間では全く表沙汰にされていない俺の仕事を完璧に言い当てたところをみれば、ただものじゃないことは誰だって想像がつく。

ここまできて、今更本物の『死神』だということを疑う気はなかった。


「どうやら、お前は本物の死神ってことで間違いなさそうだな」

「最初からそう言っているでしょ~? それで? ここまできて私の依頼を拒否する気はないよね?」

「さっきも言ったがそんな気はない。わかった。お前の依頼、受けてやる」


俺の覚悟はもう決まっていた。今までの俺なら、やりたくなくても仕方なくやるしかないという諦めと逃げの現実から目を背けていただろう。

だがこれは今までの自分から決別するきっかけになるかもしれない。


「フフフ! これで仮契約成立というわけね! それじゃあ、握手しよっか!」


少女は少し控えめな笑顔で俺と右手でガッチリと握手した。その直後、俺と少女の周りがきれいな紫色の紋章が浮かび上がる。アニメの世界でしか見ないような人間の限界を遥かに凌駕したきれいな紋章だ。


「これは…………」

「驚いた? これはね、死神と協力関係になった時に現れるいわば証みたいなものだよ。これで仮とはいえ私と花巻君は“パートナー〟になったわけだね!」

「そうだな。そういえばお前の名前を聞いてなかったな。名前は何て言うんだ?」

「私? 私の名前はカリアだよ」

「カリアか………いい名前だな。これからよろしくな。カリア」

「こちらこそ、改めましてよろしくね! 花巻君!」


こうして、俺とカリアによる名の知らない探偵と死神少女の壮絶な物語となる最初の1ページが俺の人生ノートに新たに刻まれることになった。



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