第5話 も う い ち ど

「あきらーいつまで寝てるの。」


 母親の声で目を覚ます。いつも通りの部屋、いつも通りの時間、いつも通りの体。

しかし中身が違う。


「俺は本当に戻ってきたのか。」


  動くときしむベッド、高校通学用のカバン、そして雰囲気。それが自分が2年前の高校2年生に戻ってきたことを感じさせる。ベッドの近くに置いてあったスマホの電源を入れる。画面には6月28日と表示されている。


 雪が事故にあったのは7月28日。本当に1カ月前に戻ってきたようだ。


「ちょっと起きてるのー。」


母が大きな声で呼んでいる。そろそろ怒り出しそうだ。


「ごめん、起きてるよ。」


1階にいる母に聞こえるように大きな声で返した。


 よし、とりあえず整理しよう。俺は近くにあった新品のノートを開いた。


「記録は大事って会社でも習ったな。」

 

 まさか2年前にタイムリープして会社の知識を使うとは。

 そんなことを考えながら、今の状況を記していく。



6月28日 2年後から戻ってきた。何が起きているのかはいまだによくわからない。とにかく1か月後の雪へ起こる事故を防ぐ。絶対に雪を救う。



「よし、書き始めたけど俺、今わかんないことだらけだな。」


 そこでふと思いつく


「そういえば俺ってこの年の勉強ついて行けるのか?」


 かばんに入っていた学校で使っていたノートを引っ張り出して内容を確認する。残念ながら大人になってからこの時期に習ったことは一切使っていないのだ。


 内容は数学だったがなぜだかそれがつい最近習ったかのように見えた。


「もしかして、、、その辺も配慮されてるのか。意外とサービスいいじゃないか。」


 どうやら知識面も多少この時期の者に寄せてあるようだ。

 そんなことを考えていると1階から大きな足音が上がってきた。


「まずい」


「あんたいつまでのろのろしてるの!もういつも学校出てる時間でしょ!」


 母親の逆鱗に触れてしまった、、、



1人学校への通学路を歩く。

 6月後半ということもありすでに周囲は蒸し暑くなっている。久しぶりのカッターシャツに戸惑いながらも袖をめくって登校することにした。


 正直緊張のし過ぎで歩き方がぎこちない。やっと会えるのだ。彼女に。さっきまではあまり実感がなかったが、高校生の制服に身を包み、なつかしい通学路を歩いているとふつふつと実感がわいてくる。


 でもこれからどうしよう。

 そもそも雪は計画的に殺されたとかではなく事故死なのだ。俺にできることは事故の日にちの直前に図書館へ行くという行動を変えることだ。


「それまでどうしような。でも看板にはなにをしても自由って書いてあったよな。雪がいる生活を楽しんでもいいのかもな、、、」


「私と何か楽しいことするの?」


背後から声が聞こえた。瞬間全身が震える。この声は、、、

振り向くと彼女は立っていた。



艶やか黒い髪を腰辺りまで伸ばして、体形はスラっと細い。身長は俺とそう変わらず160㎝とちょっとぐらいだろうか。

少し釣り目な彼女はぱっと見では冷たい印象を受けるが笑う時はその眼をうっすら細め、女神も嫉妬するような笑顔を浮かべる。

今もそうして微笑んでいる。


 一瞬現実とは思えなかった。

 やっと会えた。2年間想像を絶する苦しさだった。会いたくて会いたくて仕方がなかった。もう会えないとはずだった。そんな彼女が目の前にいた。



「雪、、、やっと、、、会えた。」

 

 俺は通学路でぼろぼろ泣いた。

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高校生に戻って死んだあの子を助けよう @makinoda

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