第3話 は は お や
「明くん」
「え、」
急に声をかけられた。声の方を向くとそこにいたのは雪の母親だった。
いつからそこにいたのだろう。
「久しぶりね。あなたのお母さんから連絡があったのよ。明君が帰ってきてるって、そして雪に会いに来てくれてるって。」
雪のお母さんとは何度も会ったことがあった。雪の家に行った時、いつも歓迎してくれたし、こっそり俺に雪との関係を聞いてきたこともあった。
「お久しぶりです。」
なんと話して良いかわからなかった。会ったことがあってもそこまで親密なわけではないし、それに雪が死んでから俺は逃げてしまった。合わせる顔がないとはこのことを言うのだろうか。
「少しお話しましょ。それとごめんね。少し前から来てたのだけど、声をかけれなくて」
少し気まずそうにしていた。俺としてもさっきの話が聞かれていたのは、なんというか複雑である。
「雪が事故にあってから2年になるわね。明君は今年で19か。」
「そうですね。今年で19になります。」
「そっか。雪も生きてたらそんな年か。」
雪のお母さんは落ち着いていた。それはなんだか雪の死と向き合い生きていく覚悟が決まったような話し方だった。少しの安心を覚える。どの立場が言ってんだって話だけど。
「明君がここに来るのは私たちに禁止されてから初めてよね。きっと雪も喜んでいるわ。」
「はい。その、すみませんでした。雪さんのお墓参りにこれなくて。」
俺は謝罪を口にした。心の底からの言葉だった。
「明君。私はここへね話すことがあってきたの。あなたのお母さんも言ってたけどね、あなただいぶやつれてるわよ。」
「やつれてる?」
思い当る節はなかった。
「気づいてないのね。私もそうだったからわかるのよ。あなたはまだ雪の死から立ち直れていない。」
その通りだった。2年経ってもまだ現実が受け入れられない。どうにもならないことなのに、どうしよう、どうすれば救えた、何かできたことはなかったのか、もっと言っておかなければならないことがあったんじゃないか。考えて考えて思考がまとまらない。
それには何の意味もないのに。
「それは、、、そうですね。だから今日ここへ来ました。ここへ来て、雪と一緒に前へ進もうと。」
「そう。私も大変だったわ。けれどね、気づいたの。雪は私にとって自慢の娘だわ。本当に私の娘とは思えないほどよくできた子よ。そんな雪は私がこれからも悩み続けて、周りのことも手につかないようになることを望むわけがないって。だから前に進むことにしたのよ。あの子と。これからもずっと。」
雪のお母さんはぽつぽつと語った。
俺はまた涙があふれそうになったが、ぐっとこらえた。ここで泣いてはいけない。そう思った。
「そうですよね。ほんと、、、その通りです。」
「あなたの顔を見て安心したわ。明君がそんなんじゃ私が雪に怒られちゃう。さ、一緒に帰りましょ。私も明君のお母さんに挨拶してから帰るから。
そうして2人で歩き出した。
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