第1章:或る異世界

幕間 【王帝戦争】

 空気は少し赤みがかり、錆びた金属のような独特の鉄臭さで満たされていた。

 黒い砂埃すなぼこりが至る所で吹き上がり、数年前までは美しかっただろうこの土地は、かろうじて枯れ草が生えるだけの荒廃した土地になってしまっていた。


 鈍重に光る籠手ガントレットは吹き荒れる砂嵐によって、いかにも安い音を奏でる。防塵ゴーグルをしっかりと付け直し、首元のたるんだ布で口と鼻を覆う。

 そして革製のフードを被るのと同時に、耳につけている〔通信魔導具ピアス〕が鼓膜を叩いた。


『……向かって左から右へ敵中隊をAからJと呼称する。ヤバそうな奴はA、E、F、Jの中隊に1人ずつ。ヴァールハイト部隊は左翼、アレン部隊は右翼に展開し、それぞれA、Jを引き剥がせ。残りは私の隊が全て引き受ける』

『ふむ、任せろ』

「了解」


 背負っていた大杖を抜き、砂埃のせいで黒い影にしか見えない敵兵に杖の先を向ける。


『2人とも〚法具〛の使用を許可する。必ず生き残れ』


 その言葉を皮切りに激しい轟音と衝撃波が周辺一帯を突き抜け、砂埃が霧散した。

 恐らく、というか十中八九、ヴァールハイトが突っ込んだのだろう。敵ではなくて本当に良かった、と心の底から思う。


 露わになった敵兵を見据え、呼吸を整える。

 冷たい杖を強く握りしめ、たった一句だけの祝詞のりとを唱えた。



「───〚揺蕩たゆたえ、闇御津羽クラミツハ〛」




─────────

──────

───



 星暦2024年12月25日、突然の停戦。


 この停戦に至るまでの約150年で得たのは、数えることもおぞましいほどの戦死者と、〖王国〗の国境が5メートル進み、〖帝国〗の国境が5メートル後退したという馬鹿馬鹿しい結果だけだった。


 【王帝戦争】


 この悲惨な戦争は後にそう呼ばれることになる。




────Tips────


中隊は1つにつき大体200人で構成される。

つまり、今回のA、B、C、D、E、F、G、H、I、Jの10個中隊は約2000人で構成されていた、ということになる。

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