中編

「話はこの前に私がある木彫りが有名な田舎の町に招かれたときのことだ」

そう言うと神代は淡々と語りだした。


青々と緑が茂る山々、車窓から眺める景色は非常に風情があっていいものだった。実は紅葉もきれいな地域らしい。長屋が連なるその町は田舎と言うと少々聞こえが悪いが、昔懐かしい趣のある地域だった。


加えて、この前に赴いたときは、まだ寒々しかった。山間部の影響も大いにあると思う。まぁ、電車の乗客がそこそこいて驚きはしたな、子供も乗っていて、その子がまぁ、可愛いのなんの。写真撮ったんだけど見る?


グッと見せられる液晶画面に子供と多数の乗客が写しだされる。


「大丈夫ですから、続けてください。」

グッと、こちらも押し返す。

よっぽど見てほしかったのか、ムスッと顔をしかめると話をつづけた。


その町を取り囲む山の一つの中腹に学校が建っているんだ。

それがまた山をごっそり切り開いて、景観ぶち壊しの派手なものなんだよ。


裏を話すと、どうやら町長が随分と見栄っ張りで、町を盛り上げるためになると判断すれば、税金の入った財布のひもは緩いらしい。立地も悪く、町の定住者と言うのは高齢層が中心、若い人の流入は別宅をもつ者くらいのものという状況で、実際のところ人口ほど若い人間は存在しない。


これが町長を追い詰めて、地域づくりのためにまず学校と意思が固まりきった。

流入のための地域が大事か、流入させるためのイベントが大事かの、卵鶏の協議の結果、町長のゴリ押しで小中一貫学校が建った。


まぁ、関係のないことだが、この学校の創立は思いのほか、コストと比べると残念なものだったんだと…


私を招いた人物はそこの学校に通っている、「こなつ(A)」という名前の女子中学生、そして同級生の「こてつ(B)」という男子だった。


Aとは昔からの関係で、情報の共有相手なんだ。昨今の小さな悪でも滅多打ちの風潮の申し子と言ったような根っからのゴシップ好きの彼女とSNSがきっかけで知り合った。今回の件も面白いと思って、私に相談したんだそうだ。


Bはその件の関係者だそうだ。


甘いものを欲していた私は、町の小さな喫茶店に入ることを二人に提案し、そこで話を聞くことにしたんだ。ちなみにそこのソーセージコーヒーは美味しかった。


「ウインナーコーヒーです。」

言ったが、彼女はうんうんと頷くだけで気にしていない。


そこでBは話始める


[以下B回想]

その日も部活があった。

いつもの流れで歩を進めてはいるが、部活に行くことは面倒だと思っていた。

だから、その日もホームルームが終わったら、同じクラスの友達と時間をつぶしてから足取りをおもーく、とろーく向かったんだ。


部室がある廊下は奇麗だが、校舎の奥の方と言うこともあって人気がなく、その落差で一層気持ちが悪い。

その廊下に入ると、二人の部員がいた。

一人は「こたろう(C)」、もう一人は「こゆき(D)」ってやつだ。


近づいて聞いてみると、鍵が無くて入れないという。

Cは何かイライラしてるし、Dはいつものように肩をすくめている。

部室の立地の問題もあって、職員室に先生を呼びに行くのも面倒だったから、自分たちで何とか出来ないかと、色々したんだが、全然ダメ。


俺が着いてから10分くらいだったかな。

部室の後ろ側から、音がしたんだ。「ガコって」

部室は空き教室を利用してるから、そのよく聞きなれた音が後ろの扉の鍵が開いたんだと三人とも分かった。


だから、三人そろって後ろの扉に向かったら、次に部室の中から「バリンって何か割れる音がしたんだ」

そんなものを聞いたらこっちも焦るから、バッと扉を引いて中を確認したら教室の中央に佇んでいるそれを見つけた。


木彫りの金づちを持った鼠、おなかからパックリ割れていた。


その下には、青い花瓶が粉々になってて、この鼠が落ちたんだと確信した。

他にも目を見張るものがあったんだ。


最近、うちの学校には盗難事件が多くて、うちの部員も取られている人がいたんだ。その時にいなかった、後輩も取られていたし、もちろんCもDも取られてたりした。


その盗難物があった。鼠佇む机にごっそり。

後輩の財布に、CのUSB、Dの化粧道具。ありとあらゆるものがあった。


まぁ、その机によってたかってあれが、あった、これがあった。もう大騒ぎ。


Cはスマホの液晶はバリバリだったけど「これなら大丈夫」とか言ったり、してたな。

でも、Dは妙だったな。

Dもものが色々戻ってきてるのに、怯えているいるというか。それでもいつもながらに肩をすくめてた。Dとは他のクラスだから部活でしか知らないけど、男のCと喋るときもそんな感じで、多分、男がはなっからダメなんだと思う。


で、その盗難品を返さないととなって、今度こそ先生に話そうとしたんだが、Cが俺のことを止めたんだ。


「ここの盗難品は俺たち部員の物が多い、個別で返すのが、一番手っ取り早いと思う」っていうから、あぁそうかと思って、仕分けてその場は解散。


それから、ものを返し終わってから、数か月後かな。

Cが学校に来なくなったんだ。


Cの家に話を聞きに行くと

「何も話さない」

「帰れ」

の二点張り。


Dはいたって普通だったな。


学校も、それからおかしかった。

左甚五郎がどうだ、何とか。

調べたら、どうやら「鼠」という落語が存在して、その中の高名な彫り師の名前がそうらしい。その名前が書かれた紙がどうやら割れた鼠の腹から出てきていたらしい。出身が飛騨なのも関係しているのかも知れない、ほら、近くだからここ。


俺はCが学校に来なくなった理由を知りたい。そういう話です。


「っていう話なんだよ。まぁ、人から聞いた話の聞いた話だから、色んな装飾があるだろうけれど、君たちの答えを聞きたい。楽しみにしてる。」

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