第6話
愛蓮は、目の前でフェンスを超えて飛び降りた。俺達は、棒立ちで、何も出来なかった。愛蓮が落ちて少ししてから、急いで下を見た。
白い雪に紅い綺麗な血が、愛蓮から流れていた。
ここまで、愛蓮を追い詰めていたことに、今更気づいた。何も言わなかった、自分に腹が立った。それは、涼平も竜也も同じだった。
「と、取り敢えず、救急車!」
そう、竜也に言われるまで、何も出来なかった。涼平が救急車を呼び、俺が先生を呼びに行く。竜也が愛蓮の元に行った。俺と涼平が行く頃には、生徒と先生の人だかりが出来ていた。でも、竜也以外に大丈夫と駆け寄る者も聞く者もいなかった。
救急車が来て、担任が乗っていった。俺達は、一緒にいたかったから救急隊員に行く予定の病院を聞いてそこに3人で行くことにした。
病院に着くと、担任と警察が話していた。愛蓮は手術中だという。警察に事情を聞かれたので、いじめで苦しんでいたこと、それで自殺したことを話した。警察は聞くだけ聞いて署に戻ってしまった。先生も話を聞いてきて、同じことを話したけど、そんな事実知らないと言われてしまった。愛蓮は前に先生から呼び出されて、話を聞かれたと言っていたから、矛盾している。多分、知らなかったことにしてすぐに終わらせる気でいるのだろう。大人のやる汚い手だ。
ちゃんと、愛蓮のご両親には連絡しておいて、今から来ると言っていた。
手術が終わる頃に、ご両親が来た。ご両親にも、同じことを話した。自殺に追い込んでしまったのは俺達のせいだと言うことも。でもご両親は、俺達を責めることなく、ただ、ただ、ありがとうと言ってくれた。
「ありがとうございます。愛蓮と一緒にいてくれて。貴方方のお陰で、愛蓮は今まで学校に行けたんだと思います。嫌とは言えない優しい性格なので、誰にも言えなかったのかと思っていました。相談出来る人がいて良かったです。私達は親なのに、愛蓮のことを何もわかっていなかった。とても、感謝しています。」
ご両親が、そんなこと思っているなんて、思ってもなかった。それを聞いて、俺達は、もっと申し訳ないと、酷いことをしたと思った。
自分がいじめられるかもしれないから、絶対に口には出さなかった。「止めろ」とか「それ、いじめだよ」とか反論は絶対にしなかった。ただ一緒にいるだけで、愛蓮のいじめのことを全く把握出来ていなかった。
俺達も、いじめっ子と同じだ。傍観者が1番悪いとも聞いたことがある。ちゃんと一緒に行っていれば、ちゃんと言っていれば、良かったのかもしれない。
そんなことを考えていると、手術室から変わり果てた姿の愛蓮が出てきた。頭にも腕にも包帯が巻かれ、点滴と酸素吸入に繋がれていた。
幸い一命は取り留めたらしい。ただ、目を覚ますか、覚ましても今まで通りに生活が出来るかはわからないということだった。
愛蓮が飛び降りてから1週間。まだ目が覚めない。学校ではずっと自習が続き、外にはマスコミがたくさん来ていて、全ての部屋でカーテンが閉められている。学校はいじめの事実が無かったことにしている。マスコミは本当にそうか睨んでいるから学校に来るみたいだ。生徒は何も言わないようにと言われている。
1週間経っても俺達は毎日愛蓮の病室に行っている。行く度に愛蓮は痩せていっている。そんな愛蓮を見て、俺達に何か出来ないかと思っている。いじめられているときに何も出来なかったから、せめて今、愛蓮の気持ちが報われないかと思っている。愛蓮が今まで我慢してきたんだ。俺達が何かしなくてはいけない。そう思った俺達は、1人のマスコミの人を学校の会議室に呼んだ。その人は、大西優和と言うらしい。ずっと、学校の前にいていろんな生徒に話を聞いていた。何故かこの人は信用出来ると思った。優和さんに全てを話すと、「そんなことがあったんだ。君たちも大変だったね。辛かったね。」と言った。決して責めることは無かった。だから、俺達は泣き崩れた。
優和さんは、俺達が泣き止むまでいてくてた。泣き止むと、すぐに記事にすると言って帰っていった。
何もしなかった自分たちに改めて腹が立った。だから、このあとに自分たちがすることを決めた。
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