第281話 スタンピード


「なるほど……」


 スタンピードの特徴と言えばやはりその数か。確かに強力な魔法を使用できるオブリさんたちはとても強いけれど、魔力には限度がある。凶暴になってどんな攻撃にも怯まずに行進を続けるスタンピードとは相性が悪そうだ。


 大賢者と呼ばれたオブリさんの強力な魔法もそこまで連発はできないだろうからな。そしてオブリさんたちが助けを求めるということは、そのスタンピードがそれだけの規模なのだろう。


「確かに防衛線なら俺の結界の能力がとても役に立ちますね」


「ええ、ユウスケの結界があれば、こちらの被害を出すことなくスタンピードを撃退できる可能性は高いですね」


 前回の変異種を相手にした時も、オブリさんたちが作ってくれた土魔法による防壁をギリギリ俺の結界の範囲内に設定して壊されない結界の範囲内から一方的に攻撃したあの戦法が使えそうだな。


「うむ……本来であれば村を捨てて逃げるべきなのは伝えておるのだが、古くからその森にある村で、儂らの中でもその村で生まれ育った者も多くおってのう……」


 なるほど、どうやらその村はエルフ村のみんなの故郷にもなっているらしい。故郷や地元というのはそう簡単に捨てられないという気持ちもよく分かる。特に長命種族であるエルフ族にとってはその想いもことさら大きいのかもな。


「儂らも無関係なユウスケ殿の力を借りたくはなかったのだが、同族や村のみなの命が懸かっている以上、ユウスケ殿の力を貸してほしい! もちろん防衛が難しいようであれば儂らも撤退するつもりじゃ。その村が大事とは言え、みなの命とは比べるまでもないからのう」


「……分かりました。ぜひ協力させてください」


 ほんの少しだけ考えて、すぐに答えを出した。


「本当に良いのか? ユウスケ殿の結界があれば大丈夫であるとは思うが、危険がゼロという訳ではないのだぞ」


「ええ、それも織り込み済みで協力しますよ。結界の能力があれば、スタンピードだろうときっと安全に討伐できるはずです。それに皆さんだって、以前に変異種がこのキャンプ場へ来た時に迷わず協力してくれたじゃないですか」


 あの巨大な変異種の強大な攻撃だって防げた結界能力だ。数が多いだけのスタンピードの魔物に破られるはずがない。


 それに例の変異種が来た時も、お客さんであるはずのオブリさんたちは迷わず俺たちに協力してくれた。ここで俺が協力しない理由はない。


「皆さんにはこのキャンプ場ができた時からお世話になっていましたからね。もちろん私も協力させていただきます。遠距離からの攻撃なら任せておいてください」


 ソニアもオブリさんたちに協力してくれるみたいだ。元Aランク冒険者のソニアの弓の威力は本当に強いから、とても頼りになる。


「ユウスケ殿もソニア殿も本当にすまない、心より感謝申し上げる!」


「ユウスケさん、ソニアさん、本当にありがとうございます!」


「皆さんが力を貸してくれるのなら百人力です!」


 オブリさんに続いてみんなからお礼を伝えられる。


「それで、場所はどこになるんですか? いつそのスタンピードが来るんですか?」


「場所はこのキャンプ場から馬車で3~4日離れたところじゃ。スタンピードについてはあと1週間後くらいのはずじゃな」


「思ったよりも少し時間に余裕があるのですね」


「うむ、ソニア殿。現在はこの国の国境付近で騎士団の者が食い止めておる。じゃが、おそらく彼らではあの規模のスタンピードを止めるのは難しいと思われる。情報によると儂がこれまでに経験したことのあるスタンピード以上らしいからのう」


 そう言えばオブリさんたちは魔法で遠くの人と連絡が取れるんだっけ。現地の情報が得られるのはとても便利だ。


 明日出たとしても、現地で数日間準備ができるのなら、いろいろと対策も取れるぞ。そして国の騎士団ということはもしかするとこの国の第一王子のレクサムさんやエリザさんたちも駆り出されたりしているのだろうか……


「分かりました。……サリアには伝えなくてもいいんですか?」


「ええ、危険がある以上、まだ未熟な娘には戦闘に参加させたくないのです」


「ユウスケさんには協力をお願いしておいて、虫の良いことを言って本当に申し訳ございません」


 サリアの両親がそういう気持ちになるのも分からなくはない。サリアが攻撃魔法を使えるようになったのは最近だ。その状態でいきなりスタンピードを相手にするのは結界があるとはいえ、不安になるのは親として当然だろう。それにサリアが生まれて育ったのはオブリさんたちの村だしな。


 そうか、それでサリアには話したくなかったんだな。サリアはそれでも参加したいと言う気もするが、そこは両親の気持ちを優先するべきか。


「ええ、お気持ちは分かります。それではキャンプ場をしばらく休みにして、俺とソニアでしばらくオブリさんたちの村を手伝うということにしますね」


 他の従業員のみんなには本当のことを話そう。もしかしたらみんなもオブリさんたちに協力したいと言ってくれるかもしれないけれど、しばらくの間このキャンプ場の結界がなくなるわけだから、みんなには留守をお願いするとしよう。

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