第280話 久しぶりの一大事
「……ユウスケ殿、今晩少し話をさせてもらえないだろうか?」
アンネルさんがキャンプ場にやってきてから2週間が過ぎたが、最近は特に大きな問題もなく、のんびりとした日常を過ごせている。
今日はキャンプ場にエルフ村のみんなが来ているが、村長であるオブリさんは今までに見たことがない神妙な面持ちで俺にそう聞いてきた。オブリさんだけでなく、他のエルフのみんなも浮かない表情をしている。
「ええ、もちろん大丈夫ですよ。緊急の話であれば、今すぐにお話を伺いますよ」
今は多少忙しい時間帯だが、オブリさんたちエルフ村のみんなにはこれまでにとてもお世話になってきている。何か緊急事態なら、今すぐにいくらでも手を貸したいと思っている。
「いや、夜で大丈夫だ。詳細は後ほど話させてもらうが、ユウスケ殿の力を貸してほしくてのう」
オブリさんとはこのキャンプ場ができた時からの付き合いだが、これほど真剣な顔で俺の力を貸してほしいと頼まれたのはこれが初めてのことだ。大賢者と呼ばれた英雄であるオブリさんが力を貸してほしいとはよっぽどのことであるに違いない。
「ええ、俺にできることならいくらでも手を貸しますよ。それじゃあ夜にサリアとソニアと一緒にうかがわせていただきますね」
「いえ、できれば今回の件はサリアには秘密でお願いします!」
「……分かりました、カテナさん。それではソニアと一緒にうかがわせていただきます」
サリアの母親であるカテナさんの言葉に了承する。娘のサリアにも秘密の話ということはよっぽどの話なのかもしれない。
最近はかなり平和な時間を過ごしていたけれど、久しぶりに大ごとのようだ……
「ユウスケ殿、ソニア殿、わざわざ来てもらってすまないな」
「いえ、お気になさらず」
「ええ、皆さんにはいつもお世話になっておりますから、気にしないでください」
今日のキャンプ場の営業を無事に終え、ソニアと一緒にエルフ村のみんながテントを張っている場所へとやってきた。
サリアには少しオブリさんたちとキャンプ場のことについて秘密の話をするから、それが終わったらすぐにサリアを呼びに行くと伝えている。キャンプ場のことについてと話したのはオブリさんたちに配慮してのことだ。
「それで、俺の力を借りたいとはどういうことですか?」
「……うむ。ユウスケ殿にこんなことを頼むのは筋違いであると儂らも思っておる。もちろん断ってもらっても構わないから、そのつもりで聞いてほしい」
オブリさんたちの様子を見ると、単にこのキャンプ場の物や知識を貸してほしいというわけじゃなさそうだ。
「ソニア殿は知っていると思うが、ユウスケ殿はスタンピードという現象をご存知だろうか?」
「スタンピード……もしかすると、魔物なんかが暴走する現象ですか」
元の世界ではゲームなんかでも聞いたことのある現象。それがこの世界の言葉で存在するのかは分からないが、神様からもらった翻訳機能ではそのように聞こえた。
「うむ、まさにその通りである。この現象も以前に戦った変異種と同様に、どんな条件で発生するのかが分かっておらぬが、大量発生した魔物が凶暴化するという現象じゃな」
以前にこのキャンプ場へやってきたイノシシ型の巨大な変異種という突然変異した魔物と同様にそのスタンピードというヤバイ現象が発生したらしい。
「もしかして、それがエルフ村に向かっているんですか!」
一度お邪魔したことがあるオブリさんたちのエルフ村はこのキャンプ場の近くにある。もしそのスタンピードとやらが近くで発生したのなら、このキャンプ場も決して他人ごとではない!
「いや、スタンピードが発生したのはここからは少し離れた場所にある。今後どうなるのかは分からぬが、今のところはこちらの方角へやって来る気配はなさそうじゃな」
「そうなんですね。それは良かった!」
「うむ、このキャンプ場や儂らの村まで来ないのは良いことであるが、実はそのスタンピードが向かっている進行方向には儂らの同族が暮らしている村があってのう……」
「私の親戚もそこに住んでおります」
「俺の友人もその村に住んでいるんだ」
話を聞くと、どうやらこのキャンプ場の近くにあるオブリさんたちのエルフ村の他にもエルフの村が存在するらしい。そしてその村とオブリさんたちの村は親交的な関係があるようだ。
確かにエルフという種族は数が少ないらしいし、オブリさんたちの他にも同族で集まって暮らしている場所やそこと親交があってもおかしくはない。
「その村は儂らの村よりも大きく、村を捨てて逃げるという選択が難しい。そしてその村の者から儂らの村に救援の要請が来たのだ。村のみなと相談した結果、その村の救援要請を受けようという話に決まってのう」
「……なるほど、オブリさんたちが協力するとなると、そのスタンピードの魔物はよっぽど強いんですね」
オブリさんやエルフ村のみんなの力は先日の変異種討伐戦で見せてもらった。その力が必要ということはそのスタンピードとやらの魔物はよっぽど強いのだろう。
「いや、スタンピードの魔物自体はそれほど強くないのだが、問題はその数なのだ。儂らエルフという種族は魔法に秀でており、多くの者は魔法を中心として戦うが、魔力というものには限度がある。スタンピードの魔物は決して退くことがなく、今回のような大規模な魔物のスタンピードとは相性が悪くてのう……」
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