第279話 みんなで仲良く


「アンネルさんのはトマトジュースのミルク割りっていったか? あんまり見たことがない色の飲み物だな」


 ランドさんがアンネルさんの飲み物を興味深そうに見ている。ちょっと話しただけなのに、ランドさんとバーナルさんはもうアンネルさんとも普通に喋っているようだ。


 2人ともこのキャンプ場を開いた時から、俺も含めてすぐに従業員や他のお客さんと仲良くなっているからすごい。もしかしたら、キャンプ場に来ているお客さんの中で、2人が一番友人や知り合いが多いかもしれないな。


「とってもおいしい。少し飲んでみる?」


「おう、ちょっとだけもらうぜ。……うん、なんともいえない味だな」


「どれどれ。……おっ、俺は結構好きな味だぞ。ユウスケさん、これはどんな飲み物なんだ?」


「メニューにあるトマトジュースをミルクで割った飲み物なんだ。うちの従業員でも結構好みが分かれるんだよ。俺はちょっと微妙だったな」


「私は普通のトマトジュースはあんまりでしたけれど、ミルクと一緒に飲むと好きな味でした」


 すでにかなり打ち解けているようで、アンネルさんのトマトジュースのミルク割りを少しずつランドさんとバーナルさんへ渡す。当然間接キスとなるのだが、この世界の人は間接キスなんてまったく気にしないからな。


 アンネルさんもうちの従業員やランドさんとバーナルさんと普通に話しているし、人見知りする性格という訳ではないみたいだ。


「妾はどちらもあまり好きではないのじゃ。アンネルはそれ以外飲まんのか? このキャンプ場という場所には他の場所では飲めないうまい酒があるのじゃぞ」


「お酒はやめておく。次は他のお酒以外の飲み物を試してみる」


「ふむ、ここの酒は本当にうまいのじゃがな……」


「お酒が駄目な人に無理に勧めるのは良くないぞ。それにお酒以外にもこのキャンプ場にはおいしい飲み物があるからな」


 どうやらアンネルさんはお酒が飲めないようだし、お酒を無理に勧めるのはダメ絶対である。


「うむ、その辺りは分かっておるのじゃ」


「そうだな、酒以外だとこっちのコーラという飲み物がおすすめだぜ。最初はびっくりするかもしれねえが、口の中で弾けて面白い味がするぞ!」


「暑い日とかは特に最高なんだよな。このキャンプ場は酒がたったの5本までしか飲めないから、5本飲み終わったらこれを頼むことが多いんだ」


「本当にこのキャンプ場の酒の制限だけは不満だよなあ……」


「まあ、最近はほとんどいなくなったけれど、ここで出す酒は酒精が強いから、酔いつぶれるお客さんが大勢いるんだよ。俺も含めてだけど、このキャンプ場をオープンした時は2人もだいぶダウンしていただろ」


「確かにあん時はさすがにしんどかったぜ……」


 このキャンプ場をオープンした日は俺も含めて2人も酒にだいぶやられていた。さすがにもうあの地獄絵図は見たくない。まあ、最近はここのお酒にもだいぶ慣れてきたみたいだし、お酒の制限を6本に緩めてもいいかもしれないな。


「うん、今度試してみる。それにしても、私は長年生きてきたつもりだけれど、ここには今まで見たことがない物や料理がたくさんある。それにこの結界という能力は魔法とも違うみたいだし、ユウスケは何者?」


「……ちょっとばかりこの国から離れた場所から来ただけですよ。これらの料理や物を作ったのは俺の故郷の人たちなので、俺の手柄じゃないですからね。結界については本当に突然使えるようになったので、俺にもよく分からないです」


 本当は異世界からやってきて、神様から特別な力をもらったとは言えない。従業員のみんなも俺の能力のことについては知っているけれど、異世界から来たということを話したのはソニアだけだからな。


「ふ~ん……」


 アンネルさんはとても訝し気に俺の方を見てくる。さすがにその説明では納得できないのかもしれない。


「……とりあえず、このキャンプ場という場所がとても快適なのはよく分かった。毎週来させてもらう」


「ええ、お待ちしておりますよ。……ただ、いくらこのキャンプ場の寝具が欲しいからと言って、前回みたいなのは止めてくださいね。何度も繰り返すようでしたら、このキャンプ場へ来るのを禁止しなければいけなくなるので」


 あんまり脅すようなことを言いたくはないのだけれど、こうでも言っておかないと俺がひとりでアンネルさんの接客ができなくなるから、みんなからもそうすべきだと言われた。


 ……俺に鋼の意思があればそれで済んだ話なのだが、すみません自信がないです!


「分かった。その代わり、今度ここの物を手に入れられる大会があるなら必ず教えて!」


「え、ええ。その時は必ずお伝えしますよ」


 今まででのアンネルさんの中で一番意志のこもった言葉だった……


 本当にこのキャンプ場の寝具が欲しいんだな。今度の大会はいろいろと荒れるかもしれない。


「よく分からねえけれど、アンネルさんはこのキャンプ場で開催される大会で勝ちたいんだな」


「俺たちも前回のカレー大会は入賞できなかったからな。次回は絶対に入賞してやるぜ!」


「うむ、次は絶対に勝つのじゃ!」


 もしかすると次回はこの3人のチームにアンネルさんが加わることになりそうだ。料理大会だったら素材はとんでもないものを持ってきそうだもんなあ……


「そういえば、この前アンネルさんが来た時は何かあったのか?」


「それは秘密ということで……」


 ……うむ、世の中には知らなくて良いこともあるのだよ。

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