第275話 色仕掛け
「はあ~それにしても驚いたな……」
チェックアウトの時間にキャンプ場へ来てくれていたお客様を見送って、今週の営業が無事に終わった。今は従業員のみんなと今週来ていたお客さんの片付けを終えて、従業員のみんなと昼食をとっているところだ。
「吸血鬼とはとても珍しい種族ですね。私も初めてお会いしました。それに姿を変える魔法まで使えるとは恐れ入ります」
「元Bランク冒険者のアルジャでも出会ったことがないのだな。その吸血鬼という種族は少ないのか?」
「数はとても少ないですが、古来より存在する有名な種族なのですよ、ウド」
ウドの質問にソニアが答える。
そういえばウドやイドみたいに数が少ない種族を亜人と呼ぶと聞いていたが、古代竜とか吸血鬼は少なくても有名な種族ということなのだろうか。まあ、オブリさんから聞いた話だと、どちらの種族も生涯で出会える人なんて一握りしかいないらしい。
「とりあえず人に害を与えるような人じゃなかったし、これからもお客様として扱うことになるからよろしくな。もしも接客が厳しいと思ったら、遠慮なく言ってくれ」
今回はキャンプ場に来ていた時間のほとんど寝ていただけだから、害を与えるも何もなかったな。種族や個人によって、どうしても合わない人はいるものだ。それを無理して接客させるつもりはない。
大丈夫だとは思うが、アリエスにもアンネルさんの接客はさせない方がいいかもしれないな。アウルクの血はまずくて吸わないと言っていたけれど、そもそも吸われる可能性がある時点であまりよくないかもしれない。
……というか、次回キャンプ場に来る時もアンネルさんはずっと寝ているのだろうか?
「とてもおいしそうにトマトジュースを飲んでいましたね。僕はあまりトマトジュースや野菜ジュースが好きじゃないんだけど……」
「あれも慣れればおいしいと思うぞ。それに栄養があるのだろう」
「そうだな。ウドの言う通り、栄養はあるぞ。とはいえ、あれはかなり好き嫌いが分かれる味だから、イドの言う気持ちも分かるな」
あれほど好き嫌いがはっきりと分かる飲み物も珍しいかもしれない。最近は結構甘めの野菜ジュースが販売されているけれど、ドロッとした系の野菜ジュースは俺もそこまで好きじゃないんだよな。
どうやら血液の成分的にはミルクが近いらしいから、そっちも勧めてみるか。とはいえ、ミルクは定番のパックのやつしかないから、そこまで特別なものではないけれどな。
「そういえば、大きくなった姿が本来の姿と言っておりましたが、どのような姿だったのですか? 私は小さい姿しか見ていないので、吸血鬼がどのような姿をしていたのか、少し興味がありますね」
「え、え~と、身長は俺よりも少し低いくらいで、女性としては結構高い感じかな。容姿は小さいアンネルさんがそのまま20代前半くらいに成長したような感じだったかな」
うん、胸が大きくてセクシーな美人であったとかは言う必要はないだろうな。ましてや、マットや寝袋が欲しさにその姿でくっつかれたことなんて、なおさらいう必要はないに違いない。
「……とっても胸が大きくて綺麗な女性でしたね。それに短い服で少しえ、えっちでした。ユウスケさんもアンネルさんにくっつかれて、嬉しそうでしたよ」
「ごほっ、ごほっ!」
危うく飲んでいたお茶を吹き出すところだった。
いきなり何を言っているんだよ、サリアは!
「……嬉しかったんですか、ユウスケ?」
「べべ、別に嬉しかったとかじゃないし! キャ、キャンプ場のマットや寝袋なんかの寝具がとても気に入って譲ってほしいと言われたけれど、ちゃんと断ったからな!」
「「「………………」」」
そりゃ嫌か嫌じゃないかと聞かれたら、綺麗な女性にくっつかれて嫌な男なんているわけがないけれど、そこまで嬉しかったわけじゃないし!
それに服はアンネルさんが大きな姿になったことによって、少し大きめのワンピースがキャミソールのミニワンピースみたいになって、その大きな胸の谷間とかが見えてしまったくらいで全然気にしてないからな!
「ユウスケには前科がありますからね。このキャンプ場の物目当てで来る者には近付けさせないほうが良いかもしれません」
「おい、ソニア。前科ってなんだよ!」
別に物目当てで来たお客さん相手に、色仕掛けとかされて物を渡した覚えはないぞ!
「アルジャたちを雇う際、完全にお金目当てでこのキャンプ場に働こうとしていた若い女性を雇おうとしておりましたね」
「せっかく記憶から消去していたのに!」
過去にアルジャとアルエちゃんをこのキャンプ場で雇う時に他の従業員希望者も一緒に面接をしたのだが、その際に温泉が出たこのキャンプ場に目を付けて、俺にアピールをしてきた女性がいた。
その時はソニアがキャンプ場に金貨1000枚以上の借金があることを伝えたら、すぐに従業員を辞退して去っていったから間違いないだろう。
……人がせっかく嫌な記憶として消去していたことを思い出させるなよ!
「ま、まあ、ユウスケさんは誰にでも優しいですからね。そういうところにつけ込まれたのでしょう」
「そ、そうだな。俺たちのような亜人や女性にも優しいのはユウスケの良いところだと思うぞ!」
「アルジャ、ウド……」
2人がフォローしてくれる。そんなことを言ってくれる2人もとても優しいぞ。
「いえ、単にユウスケが色仕掛けに弱いだけでしょう」
「ぐはっ……」
そんな2人の優しさをバッサリと切り捨てるソニア。
だってしょうがないじゃん。前世を含めて、女性とお付き合いした経験なんてないんだよ……
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