第276話 再訪
「そのアンネルというお客を相手にする時はユウスケ以外の従業員も一緒にいた方がよいかもしれません。ユウスケだけだと簡単に色仕掛けに負けて、簡単にこのキャンプ場の物を渡してしまいそうですからね」
「………………はい」
ソニアの俺に対する女性への信用のなさがよく分かった。
とはいえ、悲しいことにソニアへきっぱりと反論することができない。お金での要求に対しては断固として断れる自信はあるが、女性に言い寄られるとちょっと自信がない……
大きくなったアンネルさんはとても綺麗な女性だった。正直に言うと、あの姿で迫られてしまうと俺もちょっと自信がない。今回は傍にサンドラとサリアがいてくれたから良かったけれど、アンネルさんと2人きりでいたら危なかったかもしれない。
……いや、思春期の高校生かとツッコまれるかもしれないけれど、女性に免疫のない30代を舐めるなよ! キャバクラとかにいったら即オチする自信があるぞ。自覚があるから絶対にそういう場所へ行く気はしないけれどな。
「ええ、私もそれがいいと思います」
「………………」
なんだかいつもは優しいはずのサリアがちょっと辛辣なのは気のせいだろうか……
「ユウスケお兄ちゃん、元気出すニャ!」
「ユ、ユウスケさん。元気を出してくださいね」
「……うん」
ごめん、アルエちゃんにイド……
今はソニアの辛辣な言葉よりも、アルエちゃんとイドの幼い純粋な心の方が汚れた俺の心に深いダメージを与えるのだ。子供の頃の純粋で真っ白だった心はおっさんになるにつれて汚れていくものなのである。
……よし、2人の模範になれるように頑張ろう!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ユウスケさん、例のアンネルさんが来てくれましたよ」
「……ああ、了解だ」
サンドラの友人であるアンネルさんがこのキャンプ場へやってきた次の週、早速アンネルさんが来てくれたことをアルジャから伝えられた。
「あれ、今日は週末じゃないんだけれどな。あとサンドラは一緒じゃないのか?」
「いえ、今日はおひとりでしたよ。一応先日話したように普通のお客さんと同様にこのキャンプ場へとご案内しました。いつもサンドラさんが泊っている場所にテントを張ってほしいと言われましたね」
「分かった。ちょっと話を聞いてみるよ」
どうやら今日はサンドラなしでひとりで来たらしい。
先日の従業員の話し合いにより、アンネルさんも普通のお客さんとして扱うことに決まった。とはいえ、来るとしたらサンドラと一緒とばかり思っていたし、話を聞いてみるとしよう。
「それではアルジャも一緒にお願いします。ユウスケだけでは不安ですからね」
「アルジャさんがいれば安心です」
「は、はい」
「………………」
そしてもうひとつ、先日の話し合いでアンネルさんが来た時は俺だけで対応しないということも決まってしまった。いや、俺もひとりだとアンネルさんに迫られた際に自信がないからいいんだけれどね。
それにしても、ソニアとサリアの俺とアルジャに対する信頼の差がひどい……
「アンネルさん、テントとイスを持ってきました。テントはアルジャが組み立ててくれますから、少しお待ちください」
「分かった」
アルジャと一緒にテントとテーブル、メニュー、テントや寝具などを持ってきた。アンネルさんが言うにはテントなどの組み立てもすべて任せたいとのことだった。
このキャンプ場ではテントやテーブルなどの組み立てのサービスも無料で行っている。理想を言えば、テントを建てるのも自分たちでやってもらったほうが、より楽しめるんだけれどな。
「そういえば、今日はサンドラと一緒じゃないんですか?」
テーブルを組み立てながら、アンネルさんに聞いてみる。
今日もアンネルさんは銀髪のロングヘアと水晶のような緑色の瞳でまるで、可愛らしい人形のようだ。そして前回来た時と同じ黒いワンピースを着ている。サンドラもキャンプ場へ来る時はいつも赤いメイド服だし、もしかしたらアンネルさんの服も魔法で作り出しているものなのかもしれない。
「本当は明日来るつもりだったけれど、早く来ちゃった。サンドラの家にも寄ったけれど、いなかったから書置きをして先に来た」
「な、なるほど……」
どうやら明日サンドラと一緒に来る予定だったけれど、待ちきれなくて先に来てしまったようだ。そんなにあの寝袋が良かったのだろうか。
もしかするとサンドラは明日のための食材を取りに行っているのかもしれないな。サンドラがこのキャンプ場へ来る時はさすがに食材を準備できないから、自分で食べる分の肉は自分で持ってきてもらっている。
「とりあえず、あのトマトジュースがほしい。それを飲んだら寝させてもらう。たぶん今から寝れば明日のお昼過ぎには起きられるはず」
「わかりました」
今から寝るということはいつもサンドラが来るまで丸1日寝ることになるんだけれどな……
というか、自分の寝る時間を把握できているのがすごい。
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