第274話 最後にもう一度
「ほれ、アンネル。あまりユウスケたちを困らすのではないぞ。ユウスケ、妾と一緒で週に一度こやつもここに来ても良いかのう?」
「ああ、大丈夫だよ。その際はそちらのマットや寝袋でごゆっくりと眠れますよ」
このキャンプ場や誰かに害を与えるわけでもなく、ご飯を食べて温泉を満喫して半日以上寝ていただけだからな。食事の量もサンドラみたいに山ほど食べるという訳じゃないし、お客さんとして来てもらってなんの問題もないだろう。
「ご飯もとてもおいしかったし、あの温泉というお湯はとても気持ちが良かった。またここに来させてもらう」
「ええ、お待ちしておりますよ」
「アンネルさん、ぜひまたいらしてくださいね!」
どうやら納得してもらえたようだ。うん、サンドラと同じようにキャンプ場の常連になってくれると嬉しいな。
「……でも最後にもう一度だけ試してみる」
そういいながら俺の方を向いて近付いてくるアンネルさん。
「残念ですけれど、なにをしてもこのキャンプ場にある物をお譲りするわけには……」
どうしてもあのマットと寝袋を諦めきれないのか、また何かを試そうとするアンネルさん。
残念ながら借金のなくなった俺にはもう何の買収行為も効かないのである。本当に高級な食材とかと引き換えだったら、ほんの少しだけ心が揺れてしまうかもしれないけれどな。
「んなっ!?」
「えええっ!?」
俺とサリアが大きな声を上げた。
何かを試してみると言ったアンネルさんの身体がいきなり光り輝き、
幼かった体躯が一気に大きくなり、普通の成人女性と同じ身長にまで一気に成長する。そしてその慎ましかった胸のサイズは普通の成人女性のそれよりもさらに大きなサイズへと膨れ上がった。
「ユウスケ、お願い……」
「うわあああ!?」
先ほどと同じ上目遣いで俺の方へ身体を預けてくるアンネルさんだが、先ほどの子供姿とは異なり、その柔らかく大きなサイズの胸が俺の身体へと押し付けられた。
アンネルさんの柔らかな胸の感触が伝わり、身長が伸びたことによってアンネルさんの綺麗な顔が俺の顔のすぐ近くへと迫ってくる。ヤバい、そっちの攻撃は俺にとてもよく効く!
「こら、アンネル! ユウスケから離れるのじゃ!」
「ア、アンネルさん! ユウスケさんから離れてください!」
「むうう……」
サンドラとサリアがアンネルさんを無理やり引き離してくれたことによって、柔らかい感触が離れていった。
本当に危ないところだった……
俺ひとりだったら、あっさりとアンネルさんの色香に惑わされていたかもしれない。というか、アンネルさんは身体の大きさを変化させるなんてことができたのかよ……
「そういうことをされても無理なものは無理ですからね! あと、今後こういったことはお控えください!」
「ちぇ……」
残念そうにうつむくアンネルさんはさっきまでの子供らしい姿とのギャップがあってとても魅惑的に見えた。
あとアンネルさんが大人の姿に一気に成長したことによって、子供の姿の時に着ていた黒くて長いワンピースがピチピチになり、その大きな胸が零れ落ちそうになっている。スカートの丈もだいぶ短くなって、ミニスカートみたいになってしまっているぞ……
さすがにその姿で迫られるといろいろとヤバいので勘弁してほしい。まだ心臓がバクバク鳴っている……
「本当に何をやっているのじゃ! さっさと元の姿に戻るのじゃ!」
「しょうがない、分かった」
サンドラがアンネルさんにそう言うと、再びアンネルさんの姿が光り輝き、元の小さな子供の姿へと戻っていった。
よかった。元の幼い姿へと戻っていった。
「吸血鬼ってそんなこともできるんですね……」
サリアが言うようにこちらの世界の吸血鬼はそんなこともできるんだな。
なんかもう、元の世界の吸血鬼とはまったく別の種族と思った方がいいかもしれない。
「むしろあっちが私の本来の姿。だけどこっちの姿の方が疲れなくていい。あっちの姿は胸が重くて肩が凝る」
「………………」
どうやらさっきのセクシーな大人姿の方がアンネルさんの本当の姿らしい。
そりゃ、あれだけ大きな胸をしていたら、肩も凝ることだろう。それにしても、さっきのアンネルさんの姿は綺麗だったなあ。
「……ユウスケさん?」
「ご、ごほん! 渡せないものは渡せないですからね!」
サリアにジト目で見られたことによって正気へ戻った俺。いろいろと危ないところだったぜ。
「残念。今回は諦めるけれど、またこのキャンプ場という場所へ来る」
「……またお越しください。でもさっきみたいなのは本当にやめて下さいね」
さすがにさっきみたいなのは勘弁してほしいところである。
いや、個人的にはとても幸せな気分になれたのだが、このままでは簡単に誘惑に負けてマットと寝袋をアンネルさんへ渡してしまいそうになるからな。
「ふうむ、やはりオスは大きな胸が好きなのか……」
「サンドラ、行くよ?」
「う、うむ! まったく、さっきみたいな真似はもうするのではないぞ!」
なぜかサンドラが自分の慎ましい胸を見ながらそんなことを言っている。先ほどのアンネルさんのセクシーな姿を見て、何か思うことがあったのかもしれない。
「それではサリア、ユウスケ、また来るぞ!」
「また来る」
「「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」」
さすが古代竜であるサンドラの友人だ。なかなか一筋縄ではいかないお客さんになりそうである。
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