第273話 これがいい


「おはようなのじゃ!」


「……おはよう」


「サンドラさん、アンネルさん、おはようございます」


「2人ともおはよう。朝食のホットサンドだ。サンドラにはミルクで、アンネルさんには昨日のトマトジュースを持ってきたよ」


 翌日、チェックアウト時間の1時間前になんとかアンネルさんは起きてくれたらしく、サンドラからホットサンドの注文を頂いたのでサリアと一緒に2人の場所まで持ってきた。


 アンネルさんの方は昨日ぐっすりと寝られたおかげか、今日は目が昨日よりパッチリしている気がする。


「これもおいしい。ざっくりとした温かいパンにいろんな味の中身が入っている」


「うむ、やはり肉にタレを付けたものも最高じゃな。もっと食べたいのう……」


「まあ、あまりもので悪いけれど、いつも通りお土産も用意したからそれで我慢してくれ」


 さすがにサンドラのお土産用の料理もあるから、朝のホットサンドは他のお客さんと同じくらいの量で我慢してもらっている。


「……あの布団はとても柔らかくて寝心地が良かった」


 昨日アンネルさんはマットの上にある寝袋の中に入ったら一瞬で眠りに落ちてしまった。よっぽどキャンプ場で使用しているマットと寝袋が気持ち良かったのだろう。


「気に入っていただけたようで何よりです。うちのキャンプ場の寝具は街のベッドよりもいいと評判なんですよ」


 羽毛みたいな魔物を材料にしたマットや寝袋なんかもあるかもしれないから、上級貴族や王族なんかが使うベッドなんかには敵わないかもしれないが、普通の街の宿の寝具よりも寝心地がいいと他のお客さんにも好評なのである。


「あんなに気持ちよく寝られたのは久しぶり。ユウスケ、あの寝具を譲ってほしい」


「ああ~申し訳ございません。このキャンプ場にある道具や調味料なんかの販売は行っていないんですよ」


「むう……もちろんタダとは言わない。これ全部と交換」


 そう言いながらアンネルさんは何もない空間に右手を突き出す。すると右腕の途中から黒い渦の中へと吸い込まれていった。そして、そこからドサドサと高価そうな装飾が施された剣や鎧、大きな宝石の付いた首飾りや腕輪なんかを取り出した。


 あれはソニアやサンドラたちが使える収納魔法に違いない。……本当は収納魔法は相当珍しい魔法なんだけれど、エルフ村の住民の半数くらいは使えるらしいし、もう何度も見てきた魔法だ。なんだか感覚がバグってきそうだけどな。


「うわあ~綺麗です!」


 サリアが感嘆の声を上げるが、その気持ちも分かる。どう考えてもこのマットと寝袋くらいでは到底釣り合わないような高価な物だ。以前に街で売ってきた宝石もとんでもない価値があるものだったもんなあ……


 サンドラもそうだったが、長命種はなにかあった時のためにこういった財産を取っておくのかもしれない。


「大変申し訳ないのですが、いくらお金を積まれても譲らないと決めておりますので……」


 キャンプ場に借金があった時だったらいざ知らず、今はお金に困っているわけではない。他のお客さんには販売をしていないのに、アンネルさんにだけ売るというのはさすがになしだ。


 ……こんなにお金があったら最新式のキャンプギアを全部買って試せるなと、一瞬だけ頭によぎってしまったのはさすがに仕方のないことだよね。


「むうう~」


 ちょっとだけ口を膨らませているアンネルさんは不服そうなんだけれどちょっと可愛らしい。


「確かにこのマットや寝袋はここにしかない物ですけれど、たぶんもっと寝心地の良いベッドを作れる人はいると思いますよ」


「……有名なベッドや枕は全部試してみた。その中でもここのが一番良かった」


「なるほど……」


「アンネルは寝具にだけはこだわるやつなのじゃ」


 すでにいろいろと試してみたことがあるらしい。どうやら寝具にはものすごくこだわりがあるみたいだ。


 まあ、中にウレタンフォームと空気を入れられるインフレーターマットはこの世界ではたぶんここ以外ないだろうからな。もしかすると、人によっては魔物の羽毛なんかを使用した高級ベッドよりも寝心地が良かったりするかもしれない。


「……どうしても駄目?」


 上目遣いでこちらを見上げてくるアンネルさん。とても可愛らしくて、ついお願いを聞いてあげそうになってしまったけれど、ここでアンネルさんだけ贔屓するわけにはいかないからな。


「申し訳ないですけれど、譲れないこともありますので。そうですね、あとはこのキャンプ場で開く料理大会で良い成績を取れれば、賞品としてこのキャンプ場にある物を引き換えにできるので、その際にはぜひ参加してみてください」


 唯一このキャンプ場にあるキャンプギアや料理、お菓子、本を手に入れることができる手段は先日行われた料理大会で入賞することだ。


 商人さんグループのようにこのキャンプ場の寝袋やマットなどの寝具を欲しがる人も多く、料理大会で入賞すればアンネルさんの望むマットと寝袋を手に入れることができる。


「……その料理大会はいつあるの?」


「まだ決めてないですけれど、最近開催したばかりなので、数か月後になりそうですね」


「そう……」


 次の料理大会をいつ開くかはまだ考えていない。さすがに先月開催したばかりだからな。いろいろな準備もあるし、そもそも次はなんの料理の大会にするかも決めていないぞ。



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【新作投稿】

いつも拙作をお読みいただき誠にありがとうございます(*ᴗˬᴗ)⁾⁾


先日より新作を投稿しました!

コンテストに出す予定なので、こちらの作品も応援いただけますと幸いです(๑˃̵ᴗ˂̵)


領地開拓の街づくりとなります。


『チートスキル【開拓者】で追放された不毛の大地から始める自由生活〜異世界に存在しない作物を育てて開拓をしていたら最高最強の街になっていた件!〜』


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