第267話 種と苗
「……さて、なにを育てようかな」
「初めはこの辺りがおすすめだぞ。ラディッシュは種からだいたい一月もかからずに収穫できるからな」
「へえ~これがその種なんだ」
こちらの異世界でも元の世界で見かけた野菜は数多くあった。もちろん俺が知らない野菜も数多くあったけれど、もしかしたら俺が見たことないだけで、海外とかでは普通にある野菜だったかもしれない
ラディッシュ――別名は二十日大根で赤色をした小さな大根だったっけ。スライスしてサラダとかにも使える野菜で初心者向けの野菜のはずだ。実際にはその名前よりは少し長くて収穫までにひと月くらいはかかるはずだ。
「こっちの野菜は種と苗の2種類があるんだね」
今ウドとやってきているのは街にある農家向けのお店だ。馬車をそのままにはしておけないから、悪いけれどアリエスとアルジャには外で少しだけ待っていてもらっている。
「当然だが、種の方から育てる方が時間は掛かるし、種からは発芽しない可能性も高い。その分苗の方は少し値段が高くなっている。まあ、こいつも失敗しにくい野菜ではあるがな」
ウドに話を聞くと、収穫期間が短い野菜は種しかないらしい。ひとつ目はこのラディッシュの種で良いな。
同様にウドに同じくらいの期間で育てられるリーフレタスを選んでもらった。
「……なるほど、種はすぐに畑に植えるわけじゃないんだな」
「ああ、最初は種だけ別に育てて、その中から発育の良いものを選んで畑に植えるわけだ」
「畑に全部の種を植えてから間引くよりもそっちの方がよく育つんですよ」
「雨が降ると種が流されちゃったり風で飛ばされちゃったり、病気なんかにも弱いんですよね」
どうやら種だけ別に分けてから少量の土で育てて、芽が出てから畑に移すらしい。やはり農業の経験があるウドやイド、サリアがいてくれると助かる。
細かく分かれている種を育てる用のプランターに種をまいて少量の水をかけて、芽が出たらその中から発育の良いものを選んで畑に移して育てるといった流れらしい。
……ふ~む、初心者向けの野菜でもこれだけいろいろと考えないことがあるのか。やはり野菜を育てるということはいろいろと大変なんだな。
そういえば、この結界内で育てた作物とかにつく虫なんかはどうなるのだろう? もしもここで育てた野菜がこのキャンプ場の所有物として認められれば、害虫なんかには食べられないことになる。
元々害獣や鳥なんかは結界と以前にオブリさんからもらった魔物除けの魔道具があるから、このキャンプ場に入って来ることができない。それに加えて虫なんかからの被害もないなら、野菜を育てるのはかなり楽になりそうなんだけれどな。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おお~ちゃんと芽が出てきたな」
種を植えてから5日後。管理棟内で育てていたプランターにラディッシュとリーフレタスの芽が出始めた。
「とっても可愛らしいニャ!」
「ええ、とっても可愛らしいですね!」
たくさんの小さな芽が生えたプランターをアルエちゃんが興味津々と見ている。そしてそのアルエちゃんを見てソニアが微笑ましそうにしている。
確かにアルエちゃんがニコニコしているのを見ると微笑ましい光景ではあるな。
「あとはできた畑に元気な芽を間隔を空けて移し替えて育てれば大丈夫ですね」
そうか、イドの言う通りここからあまり発育の良くないものを間引いてから育てていくんだったよな。なんだか少しだけ可哀そうな気もするが、これも立派な野菜を育てていくためである。
さあ、次はできた畑にこの少し伸びた芽を植えていくとしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……1週間でこれほど育つとはな」
すでに目の前の畑にはラディッシュとリーフレタスの緑色の葉っぱが生い茂っている。
「もう2週間ほどすれば収穫できそうだぞ」
ウドが言うにはもうあと2週間ほどで収穫の時期となるらしい。ラディッシュの方は土の下で育っているからまだどうなっているか分からないが、リーフレタスの方はまだ小さいが、ちゃんとスーパーで見かける形になってきている。
「今のところは順調だと思います。ユウスケさんが出してくれた防虫スプレーが効いているみたいですね!」
「ああ、ちゃんと効果があって良かったよ」
結論から言うと、結界の中で野菜を育ててもこのキャンプ場の所有物とは認められず、育てた野菜の葉っぱの一部は虫などに食われてしまった。
残念ながら、たとえ種から育てたとしても所有権はないようだ。野菜は自身で成長しているわけだし、収穫した野菜ならともかく、畑で育っている野菜は自分自身のものというわけなのかもしれない。
なので防虫対策として、ストアで購入した畑用の防虫スプレーを使用している。異世界の虫に効果があるのか少しだけ心配していたが、しっかりと効果があったみたいだな。
なんだか日々自分たちで育てた野菜の成長を見ていくのは少し楽しい。収穫までもう少し時間は掛かるみたいだが、農業の方は焦らずにじっくりと待つとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます