第265話 大会が終わって


「今週は平和だなあ~」


 忙しい昼食時が過ぎて、夕食から忙しくなるまでのひと時。


 今日はキャンプ場に来てくれているお客さんもかなり少ないので、管理棟の食堂で従業員のみんなとのんびりお茶をしながら過ごしている。アリエスも先週はいろいろと忙しかったからか、さっき見たら厩舎のほうでのんびりと日向ぼっこをしていた。


「先週は忙しかったので、ちょうどいいですよ。普段のキャンプ場の営業に加えて、料理大会の準備もありましたからね」


「お客様も泊りがけで大会の準備をされている方が多かったですからね。今週はお客さんの数もだいぶ落ち着いています」


 ソニアとサリアの言う通り、このキャンプ場での初めての料理大会を開催してから2日経ったが、キャンプ場のお客さんの数はだいぶ落ち着いている。


 カレー料理大会という大きなイベントが終わって、今週はお客さんもそれほど多くなく、のんびりとした週を過ごせている。


「今週は食材の販売や調理器具の貸し出しが多いですね。先週のカレー料理大会で、自分たちで作る楽しみを感じてくれたのかもしれません」


「ああ。いつもよりも火を起こしているお客さんも多かった気がするぞ」


「本当か? だとしたらアルジャとウドの言う通り、料理に興味を持ったお客さんが増えてきてくれたのかもしれないな」


 先週の料理大会で、自分たちで料理をする面白さに気付いてくれたのなら素晴らしいことだ。


 あの大会の一番の目的はキャンプ場に来てくれているお客さんたちに自分たちで料理をする楽しさを広めることだったから、その目的は達したと言えそうだな。


 それに加えて、俺が異世界でみんなが作るカレーを楽しみたいという第二の目的も果たしたから大満足である。


「それにみんなのおかげで賞品も用意出来たし助かったよ」


 料理大会の賞品の希望はすでに入賞者の人たちから聞いている。ダルガたちの希望の酒もすでに準備できたから来週から少しずつ渡していく予定だ。


 一気に全部渡すことも可能だが、一気に飲み干してしまいそうだからな。すでに渡した半分のお酒はあの時キャンプ場に来てくれていた大勢のお客さんと一緒に呑んでいたからいいが、いくらドワーフのみんなとはいえ、酒精の強い高級なお酒の一気飲みは危険である。


 みんなに聞いたところ、一気に賞品をもらうと一気に飲んでしまうから、みんなも少しずつ渡される方が嬉しいと言っていた。


 商人さんチームの寝袋についてもすでに購入済みだ。いろんな場所を旅するらしいし、ちょっと高めな使用限界温度のかなり低めな寝袋を渡す予定だ。


「僕たちの方もいつもよりすごいシャンプーやコンディショナーや石鹸が楽しめてラッキーでした」


「とってもいい香りがして、髪の毛がサラサラになったニャ!」


 そして一位のエリザさんたちの賞品である少女コミックやレシピなんかも用意して、普段キャンプ場の温泉で使用しているシャンプーやコンディショナー、石鹸などよりも高級な女性用の製品を用意してある。


 これについては男かつ前世でまったく女性に縁がなかった俺にはさっぱりだったので、キャンプ場の女性のみんなに相談をさせてもらい、そこそこの値段のするものを毎日日替わりで試してもらっている。


「どれも本当に素晴らしかったです大きな街などで販売されている高価な化粧品なんかよりもよっぽど効果がありますよ。貴族に高値で売れることは間違いないでしょう!」


 ソニアが自慢の金色のポニーテールをかき上げると、サラサラとした美しい髪が綺麗に流れていく。


「その場合は間違いなく面倒ごとも一緒についてくるから、絶対に販売はしないからな。下手をしたら、酒よりもよっぽど面倒ごとを運んでくるかもしれないぞ……」


 どこの世界でも女性の美に対する欲求はとんでもないものだからな。この世界の貴族なんかは以前にキャンプ場へやってきた傲慢な貴族ばかりだろうし、これらの物は絶対にバレるわけにはいかない。


 エリザさんも王族だが、その辺りの線引きはしっかりしてキャンプ場に来てくれているから助かる。そうだ、一応エリザさんの兄であるこの国の第一王子であるレクサム様には見せないようにお願いしておかないと!


 普段はまともだが、あの人はエリザさんのこととなるとまともじゃなくなるからなあ……


 エリザさんのためならこのキャンプ場に国の全戦力を集結させたりしてしまいそうだ……まあ、さすがにこの国の国王様とエリザさんが止めるとは思うが。


「そうだ、せっかくなら今の落ち着いている間に畑を作ってみるか」


 そういえばだいぶ前からキャンプ場で野菜を育ててみようと思っていたことがあった。すでに畑を作っているエルフ村のみんなや、昔は農村出身だったという獣人のランドさんとバーナルさんから農業についていろいろと聞いている。


 ちょうど今はキャンプ場の営業ものんびりとしていることだし、キャンプ場の空いているスペースに少しずつ畑を作ってみよう。採れたての野菜を食べられたら最高だろうな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る