第261話 きっぷの良さ


「おお、せっかくじゃし、嬢ちゃんたちも一緒にどうじゃ? うまい酒にうまいツマミ、そしてカレーがあるぞ!」


 ダルガが俺と一緒に管理棟の外へ出てきたエリザさんたちを誘う。


「あ、ありがとうございます! それではご一緒させていただきますね。ユウスケさん、私たちも賞品の一部でお酒を……」


「ああ、そいつはせんでいいぞ。嬢ちゃんたちは好きな賞品を貰えばいい。儂らは皆で酒を楽しむために参加したようなもんじゃからな! のう、アーロ?」


「うむ。一緒に酒を飲んでくれるだけで十分じゃ。それに嬢ちゃんたちが作ったカレーはこのキャンプ場で出てくるカレーよりも遥かにうまかったからのう! 儂も嬢ちゃんたちのカレーに票を入れたんじゃ」


「ああ。あのカレーは本当にうまかったわい! それに嬢ちゃんたちは以前にパイをくれたじゃろう。あれはどれもうまかったぞ!」


「あのパンプキンのパイはとってもうまかったっす!」


 アーロさんにセオドさん。お弟子さんもお酒は不要だと言ってくれている。そういえば以前にパン窯ができた時にエリザさんたちや従業員でパイを作って焼いて、キャンプ場に来ていたみんなにお裾分けしてくれたことがあったな。


 うん、ドワーフのみんならしいけれど、こういうきっぷの良さなんかもみんなの良いところだ。


「ありがとうございます! それではお言葉に甘えさせてもらいますね!」


 そういいながらエリザさんたちもみんなのそばへ椅子を持ってきて座った。


 ……ダルガや大親方たちはエリザさんが第3王女であることには気付いているのかな?


 職人さんたちってあんまり王族たちと関わる機会なんてなさそうだからなあ。まあ、たとえ気付いていたとしても言わないでいてくれるのだろう。

 

「それにしてもこいつはうまい! いつもの酒も十分うまいが、こいつはまた格別だな!」


「しかし同じ酒でもここまで味が違うとは驚きじゃわい!」


「俺も詳しくは知らないが、ワインやウイスキーなんかは熟成年数が長ければ長いほど、その味わいが深くなるって聞いたな。10年を越えて熟成させる酒もあるらしいぞ」


「10年とはそりゃすごいのう!」


「うむ、儂らは間違いなくそこまで待てる気はせんわい……」


 さすがにドワーフの大親方たちにあと10年間熟成させるから待てとは言えないもんなあ。


「あとこっちの日本酒は今回カレーにも使っていた米を原料に使っているんだ。米は中心の方がうまくて、周りを削った方がうまくなるんだが、削りすぎるとその分作ることができる酒の量が減るんだ。今回出したやつは原料の半分くらいを削って作るいい酒なんだよ」


 いわゆる大吟醸というやつだ。日本酒は精米歩合が60%以下のものを吟醸、50%以下のものを大吟醸と呼ぶ。


「ほう、それは贅沢な味じゃわい!」


「そもそもあのご飯からこの日本酒ができるというのも驚きじゃ」


「もちろん高い酒だからうまいってわけでもないからな。それぞれに好みや合う合わないがあるぞ」


 酒は単純に熟成期間が長ければ長くなるほどうまいというわけではない。それぞれに好みがあるし、安くてもおいしい酒はいくらでもある。


 ただ熟成すればするほど、その酒は味わい深いものになっていくらしいから、たぶんドワーフのみんなはこっちの高い酒の方が好みなんだろうなとは思う。




「ユウスケ、今日は最高に面白かったぞ!」


「ああ、サンドラか。楽しんでくれたみたいでよかったよ。みんなが作ったカレーはうまかっただろ?」


「うむ! 少し他の者を舐めていたのようじゃな。 みないろいろな工夫をしていて、どのカレーもうまかったぞ! これじゃから小さき者はすごいのじゃ!」


 ダルガたちと話していると古代竜のサンドラがやってきた。残念ながら3位までの入賞は逃してしまったが、なんだかとても楽しそうだ。


「そうだろう。食材がそこまで高価じゃなくても、相性の良いものを組み合わせたり、料理の手法を工夫するだけでも味はガラッと変わるんだよ! サンドラたちのシーサーペントの肉はうまかったけれど、あと一歩だったな」


 実際のところ食材の味だけならサンドラチームのものが一番おいしかったと思う。


 しかし、他のチームのみんなは食材の組み合わせを考えたり、エイベン虫に衣を付けて揚げたり、チーズ2種類を使いつつ適度な焦げ目を付けたりと各チームで様々な工夫を凝らしていたからな。


「ただまあ、大勢で楽しく料理をしたり、自分たちで作った料理をみんなで食べるのは楽しかっただろう?」


「うむ! 最高に楽しかったのじゃ!」


「それが一番だよ。とりあえず今回の料理大会は成功だったみたいだし、また開くことがあると思うから、その時はまた参加してくれ」


「もちろんじゃ! 次は絶対に妾たちが優勝してみせるのじゃ!」


「うむ、儂らも今回は入賞を逃したが、次こそは必ず優勝してみせるぞ!」


 と横からオブリさん。オブリさんたちのチームの焼きチーズカレーも本当においしかった。実はオブリさんたちのチームが4位だったんだよね。


「いやいや、次こそは僕たちが勝つよ! 今回の敗因はちょっと忙しくて時間が足りなかったせいだからね。もっと時間があればいろいろと食材の組み合わせも研究できたのに。次回は仕事をサボってでも優勝してここにある漫画を手に入れてみせるからね!」


「……仕事はちゃんとしてくださいね」


 と商業ギルドマスターのジルベールさん。そしてそれを聞きながら苦笑いをしているザールさんとルフレさん、そしておいしそうにカレーを食べているケイシュくん。


 いろいろと準備も大変だったが、こちらの世界のカレーを食べることができて俺もとても満足だ。またいつか料理大会を開くとしよう。

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