第258話 大会のあとに
「アルジャ、アリエス、気を付けてな」
「はい、承知しました」
「ブルルル!」
キャンプ場の入り口でアルジャとアリエスを見送って、1度目の馬車が街へ向けて進んでいく。先ほど街まで戻る人数を確認したところ、どうやら2回あれば全員を街まで送ることができそうだ。
今日来てくれた参加者の大半はキャンプ場に泊まっていくお客さんが大半だ。一番忙しい料理の作業はそれほど必要ないとはいえ、今までで一番多い数のお客さんが宿泊していくので、ここからは俺たち従業員も頑張らなければいけない。
「……って、あれ」
何やら馬車を停めている場所で何人かが揉めているようだ。いったいどうしたというんだ?
「……いい加減に城へ帰りますよ、レクサム様。早く帰って、やらなければならないことが山ほどあるのですから」
「何を言っているんだ、クラスタ。今日はこのままここに泊まるぞ! 我が妹が優勝したのは良いが、このあとはここで宴をするのであろう。余計な男がアンリーザに近付いてきたらどうするのだ!」
「………………」
フードをかぶった10人くらいの集団が何を騒いでいるのかと思ったら、この国の第一王子であるレクサム様たちだった。
というか、何をしているんだよ、あの人は……
「……レクサム様、他のお客さんの迷惑になりますから。それにあんまり大きな声で騒ぐと、他の人やエリザさんに見つかってしまいますよ」
「おお、ユウスケ殿。ちょうど良いところに来てくれたな! 10人分追加で一泊を頼むとするぞ」
「お騒がせてしまってすまない、ユウスケ殿。今のはなしでお願いする」
「分かりました、クラスタさん」
レクサム様の言うことを無視して、クラスタさんの指示に従う。まったく、この人は……
「おい、クラスタ!」
「レクサム様、今日もだいぶ無理をしてここに来ていることをお忘れなく。エリザ様が優勝したところを見届けられて満足でしょう」
「さあ、早く馬車に乗って城まで戻りますよ」
「レクサム様でなければできない仕事も溜まっておりますゆえ」
「おっ、おい! 何をするのだ!」
半ば強引に護衛のクラスタさんや騎士団の人たちにより、馬車へと連行されるレクサム様。
「ユウスケ殿、大変お騒がせして申し訳ない。ここで食べたカレーという料理は本当に美味しかった。レクサム様の命でここまでやってきたのだが、我々騎士団の者にも良い休暇となった」
「楽しんでいけたのなら何よりです。クラスタさんもお待ちしておりますので、またぜひお越しください」
「ああ、感謝するぞ。またお邪魔させてもらおう」
「おい、クラスタ! 私はまだアンリーザと一緒に……」
「それでは失礼する」
レクサム様に有無を言わさず、クラスタさんたちの乗った立派な馬車はキャンプ場をあとにした。
……クラスタさんも本当に大変だな。
「はあ~本当に幸せね! 3位までには入れなかったけれど、このケーキが食べられたから、満足だわ!」
「甘くてとっても美味しいです~!」
「こっちの酒も普段ここで出している酒よりもうまいな!」
「あっ、ユウスケさん!」
「ゴートさんたちも楽しんでいるようで何よりだよ」
入り口から管理棟の方へ戻る途中でソニアの元パーティメンバーのゴートさんたちがいた。シャロアさんとリッカさんは早速参加賞のケーキを至福の表情で食べている。モーガイさんとゴートさんの方はお酒の方を選んだらしいな。
「入賞は逃しましたけれど、他のチームの美味しいカレーをたくさん食べることができましたし、この美味しいお酒を飲むことができてよかったです」
「あっ、ユウスケさんだ! やっぱりこのケーキは本当に美味しいわね、いつもキャンプ場で食べられるようにしてほしいわ!」
「わ、私もケーキをいつでも食べたいです!」
「残念だけれど、そう簡単に手に入る物じゃないからな。また今回みたいな大会は開いていくつもりだから、その時はまたぜひ参加してくれ」
ケーキも美味しいんだけれど、キャンプ場の雰囲気には合わないから、やはりキャンプ場では引き続き提供はしない予定だ。
「むうう~残念……いいわ、今度は絶対に勝ってこのケーキをお腹いっぱい食べて見せるから!」
「が、頑張ります!」
「……おい、野営する時の道具を優先するんだからな!」
「ケーキは参加賞でももらえるんだからいいだろ……」
4人とも相変わらずだった。残念ながら入賞はできなかったが、みんなこの料理大会を楽しんでくれたようで何よりである。
管理棟へ戻ると、すでにお客のみんなは楽しそうにそれぞれのテントへと戻ってお酒や料理やカレーを楽しんでいた。
まだ残っているカレーの方は管理棟の前の中央に集められ、そこから各自で自由に食べていいこととなっている。それに合わせて、福神漬けとらっきょうなどのカレーのお供も一緒に出した。
他にも今日出す料理は野菜のサラダ、唐揚げ、ソーセージ、温泉卵などといった、カレーのお供になるものを用意してある。今日の主役はとことんカレーでなければならないのだ。
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