第256話 優勝者


「続きまして第2位の発表となります!」


「「「おおおおおおお~!!」」」


 再びの大歓声が上がる。残る賞品をもらえるチームはたった2つ。そしてそのうちのひとつが……


「第2位は商人チームのエイベン虫カレーです!」


「「「おおおおおおお~!!」」」


「おお、やったぞ~!」


「まさか2位を取れるとはな!」


「いろいろ工夫した甲斐があったな!」


 商人チームの3人が抱き合いながら喜んでいる。


 商人チームの3人はそれぞれ個別で商売をしている商人さんたちだ。このキャンプ場で知り合って、たまに顔を合わせて商売の話をしていたところ、仲良くなって、チームを組むことになったらしい。


「それでは代表の方、前へどうぞ!」


 前に来てくれた商人は30代くらいの恰幅のよい人だ。実はこの商人さんはキャンプ場を始めた初日から来てくれている人なんだよな。


 街から街を馬車で移動している際に、このキャンプ場を利用してくれている。そのため、ドワーフのみんなみたいに毎週のように来られるわけではないが、このキャンプ場を始めてからずっと通ってくれている大切なお客様だ。


「おめでとうございます。こちらが賞品のチケットとなりますので、あとでこちらの中から好きなものをお選びください」


「ありがとうございます、ユウスケさん。これでこのキャンプ場にある温かい寝袋が手に入ります!」


 どうやら商人さんたちの狙いはこのキャンプ場で使っている寝袋のようだ。ランドさんやバーナルさんみたいな冒険者と同様に、商人さんたちも遠くの街まで野営をしながら馬車で移動をするから、柔らかな寝具があると嬉しいんだろうな。


「それではこちらのカレーに投票をしてくれた人たちの感想となります」


 商人さんチームのカレーは例のイモムシカレーだ。エイベン虫という食用の虫に衣をつけて油で揚げたものをカレーのトッピングにのせている。ルーの味も揚げ物と一緒に食べておいしいように、少し濃いめに味付けされているようだ。


「『サクッとした歯触りと中からトロリとした濃厚なエイベン虫の味が現れてカレーとよく合っていた』、『味の濃いエイベン虫とカレーが一体となってとてもうまかった』、『この虫は初めて食べたが、とてもおいしかったのじゃ!』以上となります。それでは大きな拍手をお願いします」


 パチパチパチ


 ……最後のは多分サンドラの感想だろう。一応投票は匿名で行われているが、感想は手書きで書くため、多少は分かってしまうんだよな。ちなみに文字を書けない人たちは従業員が代筆している。


 確かにカツカレーのようにサクサクとした衣をつけた揚げ物はカレーにとてもよく合う。このキャンプ場で出している揚げ物をうまく真似て、衣をつけてエイベン虫を油で揚げたらしい。


 ……それにしてもこの世界のみんなはあの見た目についてはあまり気にならないんだな。俺個人として、確かに味だけ言えば、参加チームの中ではトップクラスの味だと思うのだが、どうしてもこの見た目がなあ。


 衣が付いているとはいえ、モロにイモムシの形だから、別の世界から来た俺にとって見た目がだいぶきつかったんだよね。


 とはいえ、ソニアやサリアも気にせず食べていたし、こちらの世界で昆虫食は普通のようだ。……でもこのキャンプ場で出すことはないに違いない。




「さて、いよいよ1位の発表となります!」


「「「おおおおおおお~!!」」」


 ここで今日イチの大声援だ。いよいよ第1回カレー大会の優勝者の発表となる。


「栄えある優勝チームは……エリザさんチームのスパイシーカレーです!」


「「「おおおおおおお~!!」」」


「やりましたわ!」


「お嬢様、やりましたね!」


「やった、やったあ!」


 エリザさんの元へ護衛のベレーさんたちが集まっている。執事のルパートさんはいつもと変わらないように見えるが、いつもより少しだけ表情が緩んでいる気がする。


「うおおおおおおおお!」


 ……あっちの方で騒がしくして、周りの人に取り押さえられているのは多分レクサム様だろう。エリザさんが優勝して嬉しいのは分かるのだが、あんなに騒いだら他の人やエリザさん本人にバレるだろうに。


「それでは代表の方、前へどうぞ!」


 てっきりエリザさんが出てくるのかと思ったが、前に出てきたのは執事のルパートさんだった。そういえばエリザさんはこの国の第三王女様だし、あんまり目立ってしまってはお忍びでキャンプ場にまで来てくれている意味がなくなってしまう。


 同様に護衛部隊のベレーさんたちも目立ち過ぎたらまずいのかもしれないな。第三王女様の護衛ということで、多少の人目にはついているだろうし。


「おめでとうございます。こちらが賞品のチケットとなりますので、あとでこちらの中から好きなものをお選びください」

 

「ありがとうございます、ユウスケさん」


 代表者のルパートさんに賞品を渡した。

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