第254話 怪しい連中


「お待たせしました、ラッシーです」


「おう、ありがとうな」


 すべてのチームのカレーを食べて満足して、キャンプ場の従業員で交代をしながら飲み物を注文するお客さんをさばいていく。もう少しで審査の時間が終わって、いよいよ投票に入る。


 俺はドワーフチームが作った激辛カレーかエリザさん達のカレーに票を入れるつもりだが、いったいどのチームが優勝するのか楽しみだ。


「やっぱりラッシーを頼むお客さんが多いですね」


「ああ。普段キャンプ場で出していない飲み物だから、珍しいんだろうな」


 イドの言う通り飲み物の中ではラッシーが一番注文されている。次いで牛乳、お茶の順番だ。ストアではラッシーが購入できなかったため、牛乳とヨーグルトとハチミツからわざわざ作っている。通常の営業でも出したいところだが、結構な手間になるから難しい。


「ユウスケさん、ちょっといいか?」


「ああ。どうした、何か問題でも起きたか?」


 やってきたのはこのキャンプ場を始めてから初期の常連さんであるCランク冒険者3人組だ。今日は審査員としてこのキャンプ場に来てくれたみたいだ。


「いや、問題ってわけじゃないんだが……」


「別に何か問題を起こしたってわけじゃないんだが、顔を隠した怪しい連中がいてさあ……」


「少しだけ気になったから、ちょっとユウスケさんに伝えておこうと思ってさ」


「怪しい連中か……分かった、こっちの方で見てみるよ。教えてくれてありがとうな」


「気にするなって。それにしてもどのカレーも本当においしかったぜ。また、ぜひ開催してくれよ!」


「今回はタイミングが合わなかったけれど、次は参加者として参加するぜ!」


「ああ。多分また開催するから、その時はぜひ参加してくれ」


 3人を見送る。


 さすがに2週間前の告知だと、普段キャンプ場に頻繁に来られない人もいるからな。今度はもう少し準備期間をとってもいいかもしれない。


「それにしても怪しい連中か。ちょっと見て回って来るかな。悪いけれど、一応ソニアも一緒に来てくれ」


「ええ、分かりました」


 他のみんなに飲み物の係を任せて、ソニアと一緒にキャンプ場の中を回っていく。


 開始からだいぶ時間がたったこともあり、お客さんたちも多少はのんびりしながら、カレーや飲み物を味わっているようだ。


 今日はキャンプ場の入り口に交代で従業員を一人置いて、そこで入場料の銀貨2枚をいただいている。あからさまにおかしなお客さんはそこで弾かれるはずなんだけれどな。




「ユウスケ、多分あの集団ではないですか?」


「どれどれ……確かに見た目は怪しいな」


 ソニアの指差す先にはマントを着てフードをかぶって顔を隠している10人ほどの集団がいた。彼、あるいは彼女らはテーブルに座ってカレーを食べているから、普通に審査員をしてくれているように見える。


「どうやら問題なさそうだな。それにキャンプ場には結界があるから、犯罪行為はできないし、大丈夫だろう」


「そうですね。それにどこかのチームの妨害行為をしようとしているとしたら、あんなにあからさまに怪しい格好はしないでしょう」


「確かにな」


 ソニアの言う通り、何かあくどいことをしようと考えているのなら、なおのこと怪しまれないように普通の格好をしてくるだろう。大方、参加チームかお客として来ている知り合いにはバレないようにしているといったところだろう。


「とりあえずはあのまま放置で大丈夫だな。それとなく気にしておいて、何かしようとしたら……って、あれ?」




「……レクサム様ですよね? どうしてそんな格好をしていらっしゃるんですか?」


「おお、ユウスケ殿か。久しいな!」


 このマントとフードを着た集団の中に2人ほど見知った顔を見かけた。ひとりは護衛のクラスタさん、そしてもう一人はこの国の第一王子であるその人、レクサム様本人であった。


「なに、このキャンプ場で面白い催し物が開催されると聞いてな。さすがに参加者として参加するわけにもいかないので、こうして審査員として参加させてもらっているわけだ」


「………………」


「それにしてもこのカレーという料理は本当に素晴らしい料理であるな。辛さがありつつも旨さがあり、何よりもそれぞれのチームごとで全く異なる味がするぞ!」


「………………」


「それにこの辛さを和らげつつも甘くて酸味のあるラッシーという飲み物もとても気に入った。相変わらずこのキャンプ場とやらは素晴らしいな。なあクラスタ?」


「え、ええ。仰る通りです」


「……先に言っておきますが、身内であるエリザさんへの投票は認めませんからね」


「ななな、何を言っているのだユウスケ殿!? わ、私は自分の妹可愛さにそんなことをするつもりなどまったくなかったぞ!」


「………………」


 いや、どう考えてもそれが目的だっただろ。あの真面目そうな護衛のクラスタさんもものすごく気まずそうな顔をしているじゃん!


 マントとフードで顔を隠しているのはエリザさんたちにバレないためか。


「そんなことをするつもりがないのなら、それでいいですね? 他の方々もちゃんと自分がおいしいと思ったカレーに投票してください。もしも不正があった場合にはエリザさんが失格になるので気を付けてくださいよ」


「くっ、なんてことだ。せっかくアンリーザのためを思ってきたのに、私が他の者に票を入れなくてはならんとは……」


 まったく……妹思いなのはいいことだが、ほどほどにしてもらいたいものだ。多分レクサム様が勝手にしたことで、エリザさんは知らなかったことだろうから、さすがに失格にはしないでおこう。そんなことをしなくても、たぶんエリザさんのチームの入賞は間違いないと思うぞ。


 さあ、いよいよ投票の時間だ。

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