第249話 激辛カレー
「さて、せっかくだから順番に回っていくか」
「イドとウドはどのチームのカレーもおいしいと言っていましたね」
「さっきからあちこちでおいしそうなカレーの香りがしてくるので、もうお腹が限界です……」
そう言いながらお腹を抑えているサリア。確かにカレーのこの香りにはとても抗いづらいものがある。
サリアがお腹を抑えているのはお腹の音が鳴らないようにだろうか。そういえば以前にサリアのお腹の虫が鳴ったこともあったっけ。
「おお来たか、ユウスケ。ソニアとサリアの嬢ちゃんも一緒じゃな」
まずはダルガたちドワーフチームの場所へとやってきた。各チームには屋根付きのテントの下でカレーを作ってもらっている。学校の運動会とかでよく見るあれだな。
「ああ、さっそく1杯ずつ頼むよ。さっきから周り中良い香りでもうお腹がペコペコなんだ」
「おう、任せておけ。ご飯とナンはどっちが良い?」
「俺はナンの方で頼む」
「私はご飯の方でお願いします」
「わ、私もご飯でお願いします」
「よっしゃ、ナン1のご飯2で頼むぞ!」
「了解っす!」
俺たちの注文を受けて、大親方の弟子たちがすぐに器へカレーをよそってくれる。アーロさんとセオドさんはいないようだから、交代で別のチームのカレーを回っているのだろう。
今回のチームはすべて複数人で参加しているが、2~3人しか人がいない場合には、従業員が交代して店番を手伝う予定だ。せっかくなら参加しているチームも他のチームが作ったカレーを食べ比べてみてほしいからな。
カレーに必須であるご飯とナンについてはキャンプ場から提供している。ご飯の方は普段厨房で炊いている炊飯器によって2日ほど前からたくさん炊いて収納魔法によって保存してもらっている。
これはエルフ村のみんなに協力を依頼した。ご飯と同様にナンもキャンプ場にあるパン窯で焼いたナンを収納魔法によって保存してもらっている。やはりカレーにはアツアツのご飯とナンがよく合う。こういう時に収納魔法は本当に便利だ。
「ほれ、できたぞ! せっかくじゃから、こっちの方で食べた感想を聞かせてくれ」
「ああ、了解だ」
せっかくなのでドワーフチームのテントの中でカレーをいただくことになった。各チームのテントの前にはテーブルと椅子一式が置いてあり、そこで自由に食べてもらっている。もちろん自分たちが張ったテントまで持って行って食べても大丈夫だ。
「……見た目は少し赤いようだな」
「おう、このキャンプ場で出しているカレーもうまいのだが、儂らにとってはちと甘くてな。カレーは辛くてこそじゃし、提供されたカレーをベースに辛めに味を追加してみたぞ。調理は基本的にはこのライオがやってくれたが、儂らもちゃんと野菜を切ったりカレーを煮込む手伝いをしたからな」
「いろんな味を試してみたんですけど、この赤いオーガスの実を細かく刻んで入れたものが辛みと旨みが理想的な味だったっす!」
普段キャンプ場で大親方たちのためにつまみを自作している元弟子のライオがメインの料理人のようだ。彼は普段から自作の調理道具まで持ち込んでいるくらい料理にハマっていたから期待大だ。
カレーのルーの辛さは中辛に統一して、3種類のメーカーさんのものを用意してある。メーカーさんによって味がだいぶ違うからな。ちなみに普段キャンプ場で使っているのはジャワのやつである。
カレーの付け合わせには福神漬けとらっきょうをキャンプ場で用意している。さすがに2週間の間に付け合わせまで用意させたら大変だ。
「それは楽しみだ。それじゃあ、早速いただきます。うん、少し辛めでいけるな……って辛っ!?」
「こ、これは少し後から辛さが来ますね!?」
「ぎ、牛乳をっ!」
ドワーフチームの作ったカレーは最初に少し辛いカレーの旨みが口の中に広がり、それから遅れて辛さが口全体に広がっていく激辛カレーだ。しかし、ただ辛いだけというわけでなく、ちゃんとカレーの旨さが後を引く味になっている。
ふむ、もしかしたらオーガスの実は唐辛子に近いものなのかもしれないな。このカレーにナンを付けて食べるとたまらんぞ。こんな少しだけじゃなくて、大皿で食べたくなってしまう。
「うん、これは辛いけれど、俺はかなり好きな味だな。辛さと旨さのバランスが絶妙で、もう一口とさらに食べたくなるぞ」
「おお、ありがとうございます!」
「……私には少し辛いかもしれませんね」
「わ、私にもちょっと辛いかもしれないです」
「なんじゃい、軟弱なやつじゃな」
「確かにこれは好みが分かれる味だな。俺は結構好きな味だから、多分また後でもう一度食べにくるよ」
どうやらこのカレーはソニアとサリアにとっては少し辛かったらしい。
とはいえ、一番好きなカレーを選ぶこの大会では、辛いカレーが好きな人の票を結構集めるかもしれない。たぶんみんなはそこまで考えていないかもしれないが、これは早くも優勝候補になるかもしれないな。
「ソニア、いらっしゃい!」
「ゆ、ユウスケさん、サリアさん、いらっしゃい」
「みなさん、いらっしゃい」
次のお店はソニアの元パーティメンバーであるゴートさんたち冒険者チームだ。モーガイさんがいないところを見ると、今は別のチームを回っているのかな。
「早速カレーをお願いしますよ。それにしても、2人ともすごく可愛らしい服をしておりますね」
「えへへ~いいでしょ! せっかく参加するんだから、トップを目指すわよ!」
「うう……少し恥ずかしいです……」
シャロアさんとリッカさんはいつもの冒険者スタイルではなく、可愛らしいウェイトレスのような服を着ている。どうやらこの大会のために準備したようだ。
……うん、普段の冒険者姿とのギャップがあって、とても可愛らしいが、審査は公平にするかならな!
「絶対に優勝して、例のケーキをいっぱい食べるんだからね!」
「おい、シャロア。このキャンプ場の快適な野営道具が優先だからな」
「うっ、分かっているわよ……」
リーダーのゴートさんがシャロさんを窘める。どうやら一番の狙いはこのキャンプ場の野営道具のようだ。確かに冒険者としては丈夫で軽いここにあるキャンプギアは魅力的なのだろう。
「お、お待たせしました!」
そんなことをしているうちにリッカさんが3人分のカレーを持ってきてくれた。さて、今度はどんなカレーかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます