第248話 第1回カレー料理大会


「それではこれよりイーストビレッジキャンプ場主催による第1回カレー料理大会を開催します!」


「「「うおおおおおおおおお!」」」


 街はずれの山の麓にあるキャンプ場で大きな声が響き渡った。


 カレーの料理大会を行うと告知してから2週間後、今日はキャンプ場での初めてのイベントが開催される。準備期間がたったの2週間だったにもかかわらず、今日このキャンプ場には今までで一番多くのお客さんが集まってくれた。


 これほどお客さんが集まったのは、イノシシ型の巨大な変異種を倒すためにみんなが集まってくれた時以来だろう。幸いこのキャンプ場はとても広いので、スペース的には問題なさそうだ。


「さて、まずは簡単なルール説明をさせてもらいます」


 目の前には大勢のお客さんが来てくれているが、ほぼ全員がいつもキャンプ場に来てくれているお客さんなので、そこまで緊張はしていない。


「本日は実に10ものチームがこの大会に参加してくれました。みなさんは夕方になるまでご自由にそれぞれのチームが作ってくれたカレーを食べてもらい、その中で一番おいしいと思ったチームを決めて、投票用紙にそのチームの番号を書いてから投票箱に入れてください。夕方に投票を集計して投票が多い順に3位まで賞品をお渡しします」


 審査方法についてはいろいろと迷ったが、結局投票制とすることにした。用意した同量のカレーが先になくなったチームの勝ちというルールも定番だが、この異世界では個人で食べる量がだいぶ違うからな。サンドラが本気を出せば20人分くらいの量なんてぺろりと食べられそうだし。


「もちろん自分のチームへの投票は無効となります。投票の売買や相互投票、他チームの妨害やその他の不正は問答無用で失格となるので、ご注意ください」


 各チームの投票用紙にはそれぞれのチームの番号が振ってあるので、自分たち以外のチームへ投票しなければならない。他にも組織票や妨害などは問答無用で失格だ。


 キャンプ場に来てくれるお客さんの中でそんなことをするチームはいないに決まっているが、一応念のためだ。ちなみにさすがにキャンプ場にある結界でも、そういった不正行為までは監視することができない。


「それぞれのチームのカレーは少量ずつになっているので、できるだけ全チームのカレーを食べて審査をしてくれるとありがたいです。もちろん各チームには十分な量を用意してもらっているので、すべてのチームのカレーを食べて審査を終えたら気に入ったカレーをお代わりしていただいて結構です。とはいえ、他の人への配慮もよろしくお願いします」


 カレーの器はこちらの方で用意したかなり小さめなお椀になっている。全部で10チームもあるので、少量ずつにしないと全部味わえないからな。


 すべてのカレーを味わって、どのカレーが一番かを決めた後は、自由に自分の気に入ったカレーを食べてもらってオッケーだ。それに審査をするためにもう一度食べたいということもあるだろうし。


 キャンプ場で一番大食いなサンドラにはいったんはそれぞれ2杯ずつにしてもらうようにお願いしてある。十分な量を作ってもらったつもりだが、1回目の料理大会ということで、みんながどれくらい食べるのかわからないというのもあるからな。


「なにか質問がありましたら、お近くのキャンプ場従業員にまでお尋ねください。なお、本日は従業員もそれぞれ審査員としてみなさんのカレーを味合わせていただきますので、よろしくお願いします」


 今日はキャンプ場から料理は出さないので、基本的には飲み物を用意するのと、投票を集計して、人数の少ないチームの配膳を手伝うくらいだ。そのため、俺たち従業員もそれぞれ審査員としてカレーを味わうことができる。


 異世界の食材で作ったカレーがどうなるか、俺も楽しみでならない。ぶっちゃけ俺が一番みんなの作るカレーを楽しみにしているかもしれない。気持ち的には今日だけはお客さん気分だ。


「それではこれより第1回カレー料理大会を開始します!」


「「「うおおおおおおおおお!」」」


 再びの大きな歓声とともにいよいよ大会が始まった。





「はい、ラッシーお待たせしました」


「ありがとうございます、こちらは牛乳とお茶になります」


「ようやく人の波が落ち着いてきましたね」


「そうですね。今日は飲み物だけ、それもお酒は販売していないので、だいぶ楽です」


 管理棟の表に出したテーブルで飲み物を一緒に販売しているサリアとソニアと話をする。従業員は交代で飲み物を販売しており、最初は3人で店番をしている。


 開始直後は飲み物を求めるお客さんも大勢いたが、それもだいぶ落ち着いてきた。


「このラッシーという飲み物はほんのり甘酸っぱくてとてもおいしいですね。確かにこれなら辛いカレーともよく合うでしょう」


「俺も初めて知ったんだけれど、ラッシーって意外と簡単に作れるんだよな。ソニアの言う通り、ラッシーや牛乳なんかはカレーの辛さを中和してくれるからおすすめだぞ」


 ラッシーとはインドでよく見かけるヨーグルトと牛乳を混ぜたものにハチミツとレモン汁を少し加えた飲み物だ。俺も元の世界ではカレーの時はいつもラッシーだったな。この甘酸っぱい味がカレーの辛さを打ち消してくれる。


 他にカレーとよくあう飲み物にチャイもあるが、あれは茶葉を煮込むため手間がかかるので今回はなしだ。今回用意した飲み物はラッシーと牛乳とお茶で水は無料でいくつかの場所に設置してある。


「みなさん、お待たせしました」


「待たせたな」


「それじゃあ交代だな。忙しくなってきたら、遠慮なく誰かを呼んでくれ。時間はまだまだいっぱいあるからな」


 イドとウドが店番の交代に戻ってきてくれた。さて、いよいよ俺も試食タイムだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る