第246話 大会の参加者


「サリアから聞いたぞ、ユウスケ殿。なにやら面白そうな催しをするらしいのう」


「いらっしゃいませ。そうなんですよ、思いつきで申し訳ないんですが、みんなが作るカレーを俺がちょっと食べてみたくて、急遽料理大会を開催してみることにしました」


 どうやらオブリさんたちエルフ村のみんなも、先ほど接客をしてくれていたサリアから話を聞いたようだ。


「このカレーですよね。う~ん、これほど複雑な味の料理を私たちが再現できるか難しいところです……」


 サリアの父親のアルベさんの前には注文されたカレーが並んでいる。カレーの大会が開催されるということで、今日はみんなカレーを注文していた。


「いえ、実はこのカレーは元になるカレーのルーというものがあれば結構簡単に作れるんですよ。ルーの方はこちらのキャンプ場で提供するので、参加する方にはこのカレーにいろんな調味料やトッピングを加えてみてほしいと思っています」


 確かにカレー自体を一から作るのは非常に難しいと思うが、カレーのルーさえあればカレー自体は簡単に作ることができるからな。みんなにはそこに好きな香辛料や調味料、トッピングなどを加えてほしいのである。


 ちなみにうちの実家では定番だが、中辛のルーにハチミツを少し加えていた。ヨーグルト、コーヒー、チョコレート、ソースなど、家庭によって様々な隠し味を使っているし、野菜の切り方や牛肉や豚肉のどちらを使うかなど、同じルーを使っても家庭によって無限の味が存在するのがカレーだ。


 ……なんだか実家で母親が作ってくれたカレーが無性に食べたくなってきてしまうよ。


「なるほど、それなら私たちでも参加できそうですね!」


「はい、カテナさん。一度試しに作ってみて、参加するかどうかを選ぶのがおすすめですよ」


 エルフ村のみんなは当然料理を自分たちでするので、十分に参加は可能だと思う。ご飯を炊くのは少し難しいかもしれないが、大会の当日ご飯はこちらで用意する予定だからな。


 そしてこのキャンプ場にはパン窯がある。焼き立てのナンの味と言ったらたまらないだろう。調べてみたら、ナンは結構簡単に作れるらしい。俺たち従業員は大会までにおいしいナンを焼けるようにしておかねば。


 俺も元の世界の店で食べていたときには普段家では食べられないナンを選ぶことが多かった。ナンとラッシーと一緒に食べるカレーもうまいのである。


「ふむ、参加賞もあるようじゃし、儂らも参加してみるかのう」


「はい、参加をお待ちしております」


 エルフ村ではチーズを作っている。カレーのトッピングにチーズはかなり強力だからな。焼きチーズカレーとか個人的には超好きなんだよね。


 たぶんオブリさんたちなら確実に試してみるだろうし、個人的には最有力な優勝候補だと思っている。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「ユウスケさん、私たちも例のカレー大会というものに参加しますわ!」


「おお、それは嬉しいですね。エリザさんは料理とかもするんですか?」


 今日はこの国の第三王女であるエリザさんがキャンプ場に来ている。もちろん女騎士である護衛部隊のベレーさんたちと執事のルパートさんも一緒だ。


「ええ~と、それは……あんまり……というか全然ですが、私にはルパートがおりますから!」


「………………」


 まあ、王族の人が料理をする機会なんてなくても当然と言えば当然だよな。しかしエリザさんには完璧執事のルパートさんがついているから、だいぶ有利になりそうだ。


 ベレーさんも料理はあまりといった感じだが、女騎士の方々の中には普通に料理ができる女性もいたからな。


「私は何としても優勝をして、こちらのキャンプ場にある少女漫画を絶対に勝ち取って見せます!」


 なるほど、やけに燃えていると思ったら、このキャンプ場にある物を手に入れることができる唯一のチャンスだからか。確かにお酒やスイーツは変異種の時やオープンの時とかに振舞ってきたが、キャンプギアや本は他では手に入れられないからな。


 まあ、今回の大会がうまくいけば、またカレー以外の料理大会なんかを開いてもいいかもしれない。


「頑張ってくださいね。あっ、それとカレーを作る際には汚れが服に付くと落とし難いので、汚れてもいい服で作ることをお勧めしますよ」


 カレーによるシミは頑固なのである。少なくともエリザさんが今着ているようなドレスにでも付いたら大変だからな。ここはあらかじめ忠告しておかないといけない。


「そうなのですね。ありがとうございます、ユウスケさん。そうと決まりましたら、早速カレーの研究です! ルパート、ベレー、頑張りますわよ!」


「はい、お嬢様」


「承知しました」


「まずは基本的なカレーのレシピを調べて、それに合いそうな香辛料や調味料を徹底的に分析しましょう。それと、厨房にいるコックのみんなにも協力を仰ぎましょう。他にもカレーに似た料理などから何かヒントがないかを……」


「そ、それではごゆっくりどうぞ!」


 一礼をして管理棟へと戻る俺。


 エリザさんがあまりにもガチだった……


 少女漫画にかける情熱が凄すぎるな。人材と資金面についてはエリザさんは圧倒的な気がする。今のところは優勝候補の一角といったところだろう。

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