第244話 カレー作り


「ご飯の炊き方はこんな感じです。分からないことがあったら、従業員に何でも聞いてくださいね」


「ありがとうございます。たぶんまた教えていただくと思いますので、よろしくお願いします」


「ありがとうございました!」


「いえいえ。ルフレさん、レクシュくん、頑張ってくださいね」


 ヴィオの街から帰ってきてから1週間が過ぎた。無事にヴィオの街で購入した材料を使い切り、今日からはいつも通りの営業だ。みんな海鮮料理を気に入ってくれて何よりだ。


 今日は俺がこの世界に来てからとてもお世話になっている商業ギルド職員のルフレさんと、5歳の息子さんのレクシュくんがキャンプ場にやって来ている。


 アリエスのおかげで、街からこのキャンプ場まで馬車で安全に来ることができるようになった。そのおかげで、今までは街から2時間ほどかかるこの道を歩いてくるとこができなかった女性や子供のお客さんも、ちらほらとだが見かけるようになってきた。


「なるほど、親子で一緒に料理をしているわけですね」


「おっとアルジャか。そうなんだよ、先週カレーの話をしたら、すぐにお子さんと一緒に来てくれたんだ。カレーは比較的に作りやすい料理だから大丈夫だと思うんだけど、気になってさ」


 先週商業ギルドマスターのジルベールさんと一緒にキャンプ場へ来てくれたルフレさんに海鮮を使ったシーフードカレーの話をしていた。


 このキャンプ場でカレー粉などの材料を販売しており、道具も貸し出していることを伝えたところ、息子さんと一緒に早速キャンプ場へ来てくれたのだ。


「確かにそれは気になりますね。うまく料理できるといいのですが」


 先ほどルフレさんから聞いた話だと、普段家では少ししか料理をしたことがないらしく、ご飯を炊くことも初めてらしい。この国では基本的にご飯じゃなくてパンが主食だから、当然と言えば当然である。


 ちなみにこのキャンプ場内で販売しているご飯はストアで購入した日本のご飯だ。日本の米は日本人の口に合うように育てられているとはいえ、こちらの世界のお米よりも断然おいしいので、日本の米を使っている。


「最初だから、以前に話していたシーフードカレーじゃなくて、普通の肉を使ったカレーを作るつもりみたいだね。それならカレーの方は大丈夫だけれど、飯盒でご飯を炊くのは意外と難しいんだよ」


 カレーのルーの方は肉と野菜を切って炒めてから、水を加えて煮込み、灰汁を取ってカレー粉を入れるだけだから、水の量に気を付けるくらいで失敗する可能性はかなり低い。


 問題は飯盒でご飯を炊くほうだ。基本的には飯盒に研いだ米と水を入れて、沸騰するまでは強火にかけ、そのあとは弱火で炊き上げるのだが、いかんせんコンロではなく焚火で焚き上げるので、火加減が難しい。


 火が強すぎるとすぐに焦げてしまうんだよな。それと火にかけすぎても同様だ。俺も一番最初はしっかりと焦がしてしまった。しかもあれって一度焦がしてしまうと、コッヘルや飯盒にこびりついて取れないから困る……


「お子さんと一緒に料理するわけですからね。失敗しても良い思い出になると思いますよ」


「まあそうなんだけどね。できるなら最初はおいしいカレーを作った良い思い出と作ってほしいな」


 俺も初めて家族でキャンプに行ったことはよく覚えている。その時もカレーを作ったのだが、今でも記憶に残っているいい思い出だ。アルジャもアルエちゃんと一緒に始めて料理をしていたころを思い出しているのかもしれない。


 そんな感じで仕事をしつつ、ルフレさんとレクシュくんがカレーを作っている姿を見守っていた。何度か作り方の質問を受けたが、どうやら無事にうまくカレーができたようで、おいしそうにできたカレーを2人で食べていた。


 自分たちで作った料理だからな。普通にキャンプ場で出されたカレーよりもおいしいし、記憶に残ることは間違いないだろう。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「それではユウスケさん、お邪魔しました」


「ユウスケお兄ちゃん、朝ご飯のホットサンドはとってもおいしかった!」


「ありがとうございました。レクシュくん、昨日作ったカレーはおいしかった?」


「うん、とってもおいしかった! お父さんがあんなに料理が上手だなんて、僕初めて知ったよ! それに羽をついたり丸いやつを投げるのもすっごくおもしろかった!」


 どうやらルフレさんと一緒に作ったカレーも朝食のホットサンドに満足してくれたようだ。それに加えてキャンプ場で貸し出しているバドミントンにフライングディスクも楽しんでもらえたようで何よりである。


「それは良かったよ。よかったらまたお父さんと一緒にキャンプ場へ来てね」


「うん!」


「ユウスケさんやみなさんのおかげで、息子と一緒にとても楽しめました。またお邪魔させていただきますね」


「はい、またのお越しをお待ちしておりますね!」


 馬車へ乗ってキャンプ場から街へと帰っていく2人を見送る。2人ともキャンプ場に満足してくれたようで、本当に良かったよ。




「ルフレさんとレクシュくんもキャンプ場を楽しんでくれたみたいで良かったですね」


「そうだな、サリア。やっぱりキャンプ場では自分たちでご飯を作るのも醍醐味なんだよな」


 今日の営業が無事に終わり、晩ご飯を食べながら、ルフレさんとレクシュくんのことについてみんなで話していた。


「そういえばキャンプ場で料理をする人ってそこまで多くないですね」


「そうなんだよなあ。イドの言う通り、ドワーフのお弟子さんやエリザさんの執事のルパートさん、それと冒険者のお客さんがちらほらしかいないか」


 今のお客さんのほとんどが、キャンプ場では料理を注文してくれる。


「もちろんとてもありがたいんだけれど、自分たちで料理をする楽しさを知ってもらいたくもあるんだよな」


「ルフレさんが作っていたカレーの匂いを嗅いで気になっていたお客さんもおりましたね。やはり料理は誰かが作っているのを見ると、自分でも作りたくなるかもしれません」


「なるほど。アルジャの案はいいな。今度ここで出す料理を外で作ってみるのも面白いかも」


「それでしたら、このキャンプ場で料理の大会でも開いてみたらどうですか?」


「料理大会?」


 その提案はソニアからのものだった。

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